夕食会2
「では、デザートの用意をして来ますので、少しだけ席を外しますね」
そう言って退席すると、調理場へと向かう。
「おう、ルリ!準備できてるぞ」
「ありがとうございます、テオさん。おかげさまで料理、どちらも好評でした!」
「そりゃ後で食べるのが楽しみだな!アルトじーさんにも後で俺が持って行くよ。あ、レオン様の分はそっちに確保してあるからな」
頼んだぞ、と肩を叩かれた。
…この家、揃ってレオンハルトさんと私をくっつけたがってるよね、絶対。
それが嫌な訳じゃないのが尚更困る。
まあとりあえず、今はデザートの準備だ。
そう思い直して、考えるのを止めることにした。
出来上がったデザートをマーサさんにも手伝ってもらって運ぶ。
大人は普通にメロンを切ったものだが、お子様メニューはちょっと違う。
「お待たせ、レイ君、リーナちゃん」
「わ、すごい!」
「何ですか、これ?」
二人の前に置いたのは、クリームソーダ。
メロンのわたと種を利用して作ったメロンソーダに、バニラアイスを浮かべたものだ。
炭酸水は少し前に出しておいて、まだ小さいリーナちゃんでも飲みやすいように微炭酸にしてみた。
「クリームソーダでーす!私も小さい時に大好きだったんだ。アイスはジュースと一緒に掬って食べても良いし、ジュースに溶かして飲んでもいいよ」
夜だし量は少なめだけど、普通の長さのスプーンで食べるには丁度いい。
二人はスプーンで少しアイスを溶かしてソーダを一口。
「!おいしい!!」
「本当だ。メロンの香りがして、甘い」
良かった、二人とも気に入ってくれたみたい。
ちょっと味見してみたんだけど、メロンが本当に甘くて、シロップを足さなくても十分美味しかった。
自然の甘みが一番だもんね。
「ルリ…私達の分はないのかい?」
笑顔でクリームソーダを頬張る二人を眺めていると、シュンとした表情のエドワードさんがじっと見つめてきた。
「あ、す、すみません。大人は普通にメロンだけです…」
わたと種しか使わないから、そんなに量は作れないんだもん。
エドワードさん、そんなに悲しそうな顔しないで。
レイ君の甘いもの好きはパパ似だったのね。
「あら、残念だわ。でもこのメロン、すごく甘くて美味しいわね」
「リーナちゃんが一所懸命お世話したからだね!リーナちゃん、今日はご馳走でした!!」
エレオノーラさんの言葉で、話題を変えることに成功した。
皆がリーナちゃんを褒め称えている。
「くりーむそーだ…」
エドワードさんまだ言ってるよ…。
今度作ってあげます、って約束させられました。
賑やかな夕食会が終わった後、リリアナが寝付いた頃に、レオンハルトはラピスラズリ家の応接室でエドワードと向かい合っていた。
「今日はどうしたんだ?王宮ではなく、わざわざ自宅で話など、珍しいな」
「すみません、兄上。王宮だと、アイツの耳に入るかもしれませんので…」
「ああ、シーラ殿の事か。…確かに、厄介だな」
そうなんですよ、と合間に溜め息をつきながら用件を話すレオンハルトの表情には、疲れが見える。
どうやら余程シーラ殿にせっつかれたようだ、とエドワードは同情した。
「それで、どうするんだ?」
「…ルリに決めてもらいます。確かに、力を貸してもらえるなら、こんなに頼りになることはないと思います。しかし、それを我々が強要するわけにはいかない。聖女はただそこにいるだけでも、とても重要な存在です。彼女達には、それ以上を求められても断る権利がある」
もう、自分達は十分恩恵を受けている。
彼女達には、穏やかに、幸せに暮らして欲しいとレオンハルトは思っていた。
…出来ることなら、ルリをそうさせるのは自分でありたい、とも。
リーナちゃんを寝かしつけた後、自室に戻ると、レオンハルトさんが数分前に来たとマーサさんが教えてくれた。
小一時間はエドワードさんと話すだろうとのことなので、暫く魔法書を読むことにした。
因みに自動翻訳機能が付いているらしく、この世界の何語の本であっても読むことができる。
知らない文字の上に日本語がぼやっと浮かぶ感じ?
ほんと便利、チートだわ。
魔法について、リーナちゃんと一緒にレイ君の家庭教師の先生に習うことにしたのだ。
リーナちゃんは先生に慣れてきたし、私も少し魔法について理解してきたけれど、やっぱり魔力が高いのなら、ちゃんとその仕組みや法則を理解しておかないとね。
何も知らないのに大きな力を持つことほど危険なことはない。
というわけで時間を見つけて自習しているのだ。
…4歳前の子に抜かれる訳にはいかないからね。
リーナちゃん、凄く覚えが早いのよ。
そう言えばレイ君も天才って有名なんだっけ。
天は二物も三物も与えちゃう良い例よね。
凡人はただ努力するのみですよ。
とかなんとかしている内に、良い時間になってしまった。
そろそろレオンハルトさんの夜食の用意しようかな。
本はキリの良い所で終え、厨房へと向かった。
とりあえずラタトゥイユは温め直しておく。
サンドイッチはしっとりしたのもいいけど、今回は焼いたパンを使って噛み応えのある物にする。
スープ系の料理と一緒なら、私はそっちの方が好きだから。
飲み物は…泊まる時はワインとかお酒を飲んでるけど、今日は騎士寮に戻るっぽいこと言ってたし、飲まないかも?
クリームソーダを作るのに使った炭酸水で、はちみつレモンソーダでも作ろうかな。
レモンのはちみつ漬けって、確か疲労回復に良かったよね。
これにも同じ効果があると信じよう。
最近また忙しいみたいだって聞くし、少しでも疲れが取れますように…。
「ルリ様、お話が終わったようです。レオン様を食堂に案内するよう伝えましたが、宜しいですか?」
「あ、はい!もうすぐ出来ます。一緒に運んで頂いても良いですか?」
レモンを輪切りにしていると、マーサさんが呼びに来てくれた。
「勿論です。…まあ!綺麗な飲み物ですね。お料理も美味しそうです。きっと、レオン様も喜ばれますよ」
ニコニコと嬉しそうなマーサさんは、テキパキとワゴンに料理を乗せていく。
うん、喜んでくれると良いな…。




