収穫
孤児院からの帰り道、私は真新しいがシンプルな内装の馬車で一人揺られていた。
なんと、王宮から私専用の馬車が贈られたのだ。
でも出先は市井ばかりなので、出来るだけ目立たない、簡素なものにしてもらった。
キラキラ豪華な馬車で町中を走ってたら、悪目立ちするからね…。
簡素、と言っても十分広いし乗り心地も良い。
なので私もとても気に入っている。
因みに御者はアルが引き受けてくれた。
何だかんだ言いつつ、すっかり甘えてしまっている…。
「ルリ様、もうじき侯爵家に到着しますよ」
「うん、ありがとう」
アルに声を掛けられ外を見ると、ラピスラズリ邸と広大な庭園が見えてきた。
季節は、初夏。
こちらの世界…というかこの国にも季節はある。
春夏秋冬、日本とは違って梅雨はなく、夏は普通に暑いくらいで、冬も困るほど雪が降ることはないらしい。
雪遊びは楽しいけど、豪雪地帯は大変だもんね…。
灼熱も辛い。
そんな恵まれた気候なため、植物もよく育ち、畜産も盛んとあって、国も豊かだ。
近年魔物の多発という問題はあるらしいが…。
まあ、取り敢えず食べ物には困らない。
さて、覚えているだろうか。
転移したばかりの頃、リーナちゃんと一緒に植えた野菜たちの事を。
なんとそれら全てが立派に成長し、収穫の時期を迎えたのだ!!
明日、リーナちゃんと収穫してお料理しようと約束している。
わーい!!なに作ろう!?
トマトとキュウリはやっぱりサラダかな?
ナスとトマトを使ってラタトゥイユもいいなぁ。
メロンはデザートだよね…あっ!
良いこと考えた!
「ルリ様、どうぞお手を」
「えっ!?あ、もう着いたのね」
「とても良い顔をされていたので、声を掛けようか迷ったのですが…何を考えていたんです?」
クスクスと、仕方がないと言わんばかりに微笑まれると、恥ずかしくなる。
によによ笑ってる所を見られるなんて…。
「その、明日は収穫した野菜で何を作ろうかな、って。春に種を植えた物が食べ頃になったから、リーナちゃんと料理の約束しているの」
赤くなった頬を掌で隠しながら答えると、アルがキョトンとした顔をした。
「ラピスラズリのお嬢様と?収穫に料理、ですか?」
「あれ、知らなかった?リーナちゃん、植物育てるのも料理も好きよ?」
何かおかしな事を言っただろうかと聞き返すと、意外な答えが返ってきた。
「いえ、普通貴族の令嬢は野菜を育てたり料理をしたりはしないので…」
「ええっ!?そうなんだ、私良くないこと教えちゃったかな…」
農作業はともかく、料理は元の世界じゃ女子の嗜みみたいに言われていたから、こっちでもそうなのかと…。
「いえ。まあ、私は良いと思いますよ。食べ物の大切さや作る苦労を知るのも、大切な事だと思います」
何故か遠くを見ながら、しみじみと言われた。
食べ物で何か苦労があったのだろうか…。
…今は聞かないでおこう。
そして翌日、天気は快晴!
早速アルトおじいちゃんに挨拶して、リーナちゃんと三人で畑へ向かう。
ハサミで切る部分が野菜によって違うから、ちゃんと教えて貰ってから収穫するよ。
「う~ん…ここ?えいっ!」
パチン
「わああ!とまとだー!!みてー!!!」
コロンと掌に乗ったプチトマトは、つやつやしていてとても美味しそうだ。
「うん!上手にできたね!美味しそう」
「はは、まだまだあるからのう。頑張って取っておくれ」
キラキラしたリーナちゃんの笑顔に、アルトおじいちゃんも嬉しそうだ。
「よーし!私も負けないよ」
今日はたくさん収穫して、野菜を美味しく頂くぞー!!
そして一時間後。
籠いっぱいの野菜を持って、私とリーナちゃんはテオさんの所にいた。
「おっ!こりゃあ…これ、ホントにお嬢様が作ったのか?」
「そうだよ。りーなは、やさいのおかあさまだもの!」
エレオノーラさんの言葉をきちんと覚えていたリーナちゃんは、得意気に答えた。
「はははっ!こりゃあいい。リリアナお嬢さまは素質があるな。こんな良い野菜、最近あまり見ないぞ」
テオさんも大絶賛の野菜たち、これは期待できる!!
「じゃあすみませんが、またいつもの場所、お借りしますね」
「ああ、好きに使ってくれ!」
多めに作れよ、といつもの催促をしてテオさんは自分の作業へと戻って行った。
私が聖女だと知ってからも変わらない態度で接してくれるのが、とても嬉しい。
勿論です!と答えて、準備開始。
手を洗っていると、タイミング良くマリアがやって来た。
「お待たせ!ほら、市場で美味しそうなベーコンと海老、買ってきたわよ!あ~楽しみだわ、ルリの料理!」
「ありがとう。じゃあまずは野菜たちを切りましょう!」
マリアにも手を洗ってもらい、三人で調理スタート!
あ、因みに子ども用の包丁も、テオさんに相談して作ってもらいました。
まだ恐る恐るだけど、やっぱり切る、って作業が自分で出来ると料理してる!って感じするよね。
「まずは玉ねぎね。リーナちゃん、皮剥きお願い」
玉ねぎの先を切り落として、剥きやすくしてからリーナちゃんに渡す。
「うん!かんたんー!」
初めの頃は時間がかかっていた皮剥きも、手慣れたものだ。
「次はくし切りにするよ。半分に切ってくれる?」
「うん。えっと、ねこのてで…」
慎重に玉ねぎを押さえ、半分に切っていく。
「できた!」
「うん!綺麗に切れたね。じゃああと二つもお願い」
リーナちゃんが半分にしてくれた玉ねぎを、私が隣でくし切りにしていく。
これはもうちょっと包丁に慣れてからかな。
「よし、次は…」
そんな感じで次々と野菜を切っていき、厚めのベーコンはリーナちゃんに一口サイズに切ってもらう。
材料が揃ったら、いよいよ煮込み。
いつもならトマト缶使っちゃうけど、収穫したトマトも完熟で皮ごと食べられるらしいから、きっと美味しいはず!
材料を炒めながら加えていくのは、どちらもリーナちゃんの仕事。
味付けだけは私が味を見ながらするけどね。
「お鍋に触らないように気をつけてね。美味しくなーれ、って気持ちを込めて混ぜるのよ」
「おいしくなーれ!おいしくなーれ!」
うん!きっと絶品ラタトゥイユになるはず!




