護衛騎士
ーーとか何とか言ったものの、そんなにすぐに自分に何が出来るかなんて思い付く訳もなく。
「ルリ先生!見てーできたー!!」
私は、孤児院にいた。
今日はクレアさんもルイスさんもいない。
私一人で来ている。
ーーまあ、護衛の騎士さんはいるのだけれど。
「ルリ様、お召し物が汚れていますが…」
「ああ、いいのいいの。それが砂遊びの醍醐味なんだから!」
「はあ…。ルリ様が良いのであれば止めませんが、節度はお守り下さいね?」
この、ちょっぴり過保護な護衛さんがアルフレッド=サファイアさん。
最近決まった、"青の聖女"の護衛騎士さん。
ブルーグレーの理知的な瞳に、胸くらいまである濃紺の髪を緩く結んでおり、頭脳派!って感じのクールな見た目で紳士的な人だ。
アルフレッドさんと呼んでいたら、アルで結構です、と言われたので、そう呼んでいる。
私の事も、"聖女様"じゃなくて名前で呼ぶようお願いした。
子ども達にも、院長先生にお願いして聖女であることは内緒にしてもらってるしね。
落ち着いているので年上かな?と思っていたけど、同い年と聞いてびっくり。
そしてなんとこの方、公爵家のご子息!
「とは言っても自分は三男なので。家督を継ぐこともないでしょうし、気にしないで下さい」
と言われてしまい、迷ったが普通に接することにしている。
でも、この年で第一騎士団の隊長さんだったんだって。
エリートってやつね。
この度私の護衛に任命されて、聖女専属の隊に異動となったらしい。
異動後の職務が私の護衛とか…勿体なくないですかね?
私が行くのなんて孤児院か市場くらいだけど、そうそう何か起こるような場所でもないし。
私の護衛なんてつまらなくて嫌じゃないですか?と一度聞いたことがあるのだが、何言ってんの?みたいな顔をされた。
どうやら聖女専属の隊への異動は、昇格らしい。
とても名誉なことなんですよ?と言われたが、よく分からない。
でもまあ一緒にいて嫌な人ではないし、これからお世話になるのだから、仲良くしていきたい。
「よーし!先生もケーキ、たくさん作るよ!!」
実は先日、砂場があれば良いのに、とポロリと零した言葉をクレアさんに聞かれ、砂場とは何ですか?と事細かに聞かれていた。
そこで簡単にだが砂場の説明をすると、クレアさんは暫く考え込み、ルイスさんを呼んだ。
ルイスさんは土属性魔法が得意なんだって。
話を聞いたルイスさんは、すぐに魔法で砂場を作ってくれたのだ。
ついでにバケツとかスコップとか、お砂場セットもおねだりしてみた。
クレアさんが知り合いの商人さんに作ってもらいます、と請け負ってくれて無事に届いたのが、昨日。
早速届けに来た、という訳だ。
まずはカップを使ってお砂ケーキ作り!
「るりせんせぇ、ぐしゃってなっちゃう…」
すっかり元気になって一緒に外で遊んでいたリリーちゃんが、泣きそうになりながら訴えてきた。
「あー本当だ。なんで崩れちゃうんだろう?」
「それねー、上からぎゅってするといいよ!しないと、弱いから逆さまにしたときこぼれちゃうの。お水ちょっと混ぜても上手くできた!」
7歳のラナちゃんが得意気に教えてくれた。
おお、さすが日本でなら小学生、すぐに砂の性質に気付いたようだ。
「だって!やってみよう?」
「うん!!」
リリーちゃんはラナちゃんに教えてもらいながら一生懸命カップに砂を詰めていく。
うん、やっぱり子ども同士の方が良い。
大人が答えを教えるのは簡単だけど、それじゃあ発見の喜びとか、共同性は感じにくい。
「じゃあ、カップ取ってみて!」
「できるかな…えいっ」
リリーちゃんがカップをそっと外すと、そこには綺麗に固まった砂のケーキがあった。
「わあ!できた!できたよ、るりせんせぇ!!」
ラナちゃんが手を出しすぎず上手に教えてくれたので、リリーちゃんも達成感を味わうことができたみたいだ。
「ホントだ、美味しそう~!よ~し、じゃあ先生はもっと美味しくするためにデコレーションしようかな~?」
そう言って孤児院の周りに咲いている花の花びらや木の実、葉っぱなどでケーキを飾っていく。
「「うわぁぁぁー!かわいいーー!!!」」
周りにいた女子達も目をキラキラさせて覗き込んできた。
「あたし、あっちから赤い実取ってくる!」
「こっちに黒いのもあったよ!!」
「あそこにきいろのおはな、さいてるのみた!いってくる!!」
そして方々に散らばり、素材集めに走っていった。
やっぱりね、女子は絶対食いつくと思った!
さて、大きなバケツの砂ケーキを作っておいてびっくりさせようかな。
皆の驚く顔が楽しみでせっせとバケツに砂を詰めていると、アルが声を掛けてきた。
「子ども達をのせるのがお上手ですね。それにとても楽しそうだ」
「楽しいからね!一緒に楽しめば、子どもも夢中になってくれるものよ」
仕方のない人だ、と苦笑いして頬っぺたに付いていたらしい泥を拭ってくれた。
「あれ、ついてた?ありがとう」
「いえ。後で私の洗浄魔法で綺麗にしますから、気にせず遊んで下さい」
「へえ、魔法でそんなことも出来るのね。今度教えてくれない?」
「畏まりました、聖女様」
「ねぇねぇ、あれ、いい雰囲気じゃない?」
「うーん、レオンハルトさんに手強いライバル出現?」
「でも、アルフレッドさんも素敵よね」
「確かに。でも私はレオンハルトさん派かなー」
「らなおねぇちゃんたち、なにはなしてるの?」
「リリーにはまだちょっと難しい話だから、気にしなくていいのよ~」
少し離れた所で女子達に噂されていることなど露知らず、私は一生懸命バケツケーキを作っていたのだった…。




