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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第二章

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優しさに包まれて

「えっと、"ひよこ"だから…こ、こ、あっ!これにしよう!」


私が描いたひよこの隣に、リーナちゃんが一生懸命描いていく。


うーん…花なのは分かるんだけど、そこまで詳しくない私にはレベルが高い。


こ、こ、コから始まる花?


コスモスじゃないよなぁ…


小さい花がたくさん…あ、


「ひょっとして、小手毬?」


「あたり!つぎは、"り"だよ!」


入園式でよく生けられてたもんね!


当たって良かった…。


リーナちゃん、本当にお花に詳しくてびっくり。


「失礼します。リリアナお嬢様、ルリ様、お夕食の準備が整いました」


控えめにノックの音を立てて、マーサさんが呼びに来てくれた。


「れおんおじさま、きた!?」


「はい、レイモンド様とお話しておいででしたよ」


リーナちゃん、嬉しそうだなぁ。


私はちょっと緊張する、かも。


ドキドキじゃないからね!?


「るりせんせい、いこ!」


誰に対してだか分からない言い訳を心の中でしていると、無邪気な笑顔でリーナちゃんに手を引かれる。


「う、うん。行こうか」


そう答えると、私の笑顔がひきつっていたのか、リーナちゃんが眉を下げて問いかけてきた。


「るりせんせいは、れおんおじさま、きらい?」


「え…」


「わたしは、ふたりともすきだから、なかよくしてほしいとおもう…。でも、るりせんせいは、ちがうのかなって…」


しまった。


こんな小さい子に心配かけてしまっているなんて…。


申し訳なさでいっぱいだ。


「ううん、違うよ、嫌いじゃない。レオンハルトさんはとっても優しいし、良い人だって分かってるよ。でも、うーん、何て言うのかな…」


上手く言葉に出来なくて頭を抱える。


それを不安げに見つめるリーナちゃんを見ると、ちゃんと話して誤解を解かなくてはと思う。


「先生も、よく分からないんだけど…多分、恥ずかしいんだと思う」


ぽつりと出た言葉は、自分の気持ちに合っていると思った。


「はずかしいの?」


「うん。だからちょっと変なこと言っちゃったり、嫌いなのかな?って思われるようなことをしちゃうかもしれないけど、嫌いにはならないから。安心して?」


「じゃあ、すき?」


「ええっと…そ、そうね、好きか嫌いかと言われたら、好きだと、思う…」


いやぁぁぁぁー!!!恥ずかしい!!!何コレ!?


ちょっとマーサさん、そんな端っこで気配隠して生温かい目で見つめないで下さい!!!


「さ、さあ!皆さんを待たせたらいけないし、行きましょう!!」


無理矢理話を終わらせたのは、仕方ない事だと思うんです。






皆揃っての夕食会は和やかに行われ、レオンハルトさんともわりと自然に話せていたと思う。


はじめは少し心配そうに見ていたリーナちゃんも、私達が会話しているのを見て安心した様子だった。


誤魔化さずにきちんと話しておいて良かった。


ほっとしていると、エドワードさんが話を振ってきた。


「そう言えばルリも今日は王宮に来ていたんだろう?聖女様方とは仲良くやっているのか?」


「はい。やっぱり同郷なので、これからも親しくさせてもらいたいと思います」


ちょっぴり個性的な方々ですけど、とは言わない。


「私も黄の聖女様と一緒の所を見たが、まるで姉妹のようだったな。上手くやれているようで、良かった」


あああーまた出ました魅惑の微笑み。


この人、ステータス見たらそんな名前のスキル出てくるんじゃないだろうか。


そんなアホな事を考えていると、エドワードさんも安心したように笑う。


「そうか!まあ、ルリの考えもあるだろうが、この世界で交友関係を広げるのも良いと思うぞ」


「そうね、アメジスト先生や弟さんとも親しくしているようだし、貴女の大切な人が増えるのは、私達にとっても嬉しいことだわ」


エレオノーラさんも優しく微笑んでくれる。


「ーーーはい、ありがとうございます。私も、少しずつこの世界での居場所を作っていきたいと思っています」


以前よりも、元の世界を想って涙を流すことは少なくなった。


忘れることはないんだろうけど、少しずつ、この世界を受け入れているのだろう。


そこできゅっ、と服の裾を掴まれた。


リーナちゃんだ。


「大丈夫、ありがとう」


「…うん」


「ルリ様。僕たちは、ルリ様にいつも嬉しい気持ちを戴いています。だから、困った時は力になりますからね。いつでも頼って下さい」


レイ君も、嬉しい言葉をくれた。


…本当に、優しい人達ばかりだ。


転移してきたのが、この家で良かった。


心から、そう思う。






すっかりリーナちゃんは眠ってしまったが、私はまだ子守唄を歌い続けていた。


郷愁、なのだろうか。


それとも、別離?


いつもの子守唄だけで終える気持ちにはなれなくて、2曲目に入る。


古き良き日本の唄。


若い子は古くさい、なんて言うのかもしれないが、私はわらべ歌が好きだった。


独特の曲調が、心に響く。


「また、新しい歌だな」


「レオンハルトさん…」


どうやらぼんやりしながら歌っていて、気配に気付かなかったらしい。


「リリアナは…ああ、良く眠っている」


レオンハルトさんは、さらりとリーナちゃんの頬にかかった髪を横に流してやり、優しい表情でおやすみ、と呟いた。


薄暗い部屋で月の光だけが差し込む中、レオンハルトさんがちらりと私を見た。


「この子が夢見の悪かったことを、知っているか?」


「あ、はい。寝入りや寝起きも良くなくて、泣くことが多かったとか…」


「ひどく人見知りだったことも、知っているな?」


こくんと頷く。


「リリアナは、光属性魔法に特化しているらしくてな。小さな体では大きな魔力をコントロールすることが難しく、悪意あるものに敏感だったり、それを引きずったりしていたようだ」


レオンハルトさんの話では、最近受けた王宮の鑑定士による魔法鑑定で、リリアナちゃんの特性に気付いたらしい。


恐らく私という存在がその歪さを緩め、癒しの唄で魔力の流れを上手く導いたのではないか、とエドワードさんも考えたのだとか。


「人の後ろに黒い靄が見える、と話してくれたことがあったのだが、きっとそれが人の悪意だったのだろう」


私達は人間だ。


善良な部分だけで出来ている人なんていない。


多かれ少なかれ、悪意は存在する。


「この子を救ってくれたこと、皆感謝している。…ただそれだけでも、貴女は私達にとって大切な存在であり、貴女にとっては不本意な召喚も、私達にとっては奇跡だった」


私自身も救われたことだしな。


その言葉に、私の頬を涙が一粒、二粒と伝っていった。

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