誓い
ちょっぴりいじけた気持ちになった時、何気なく訓練場の方へ目をやると、レオンハルトさんと目が合う。
「っ!!」
僅かだが微笑んでくれて、鼓動が跳ねた。
あわあわしてると、黄華さんが呆れたようにこちらを見てくる。
「はぁ…紅緒ちゃんといい、初な人ばっかりなんですね。これは私が苦労するパターンですか?嫌だわぁ、私はおもし…傍観者でいたいのにー」
今、面白がりたいって言おうとしませんでした?
ジト目で黄華さんを見ていると、レオンハルトさんが観覧席に近付いてきた。
「ルリ、来てくれて嬉しい。実は今夜、そちらに泊まらせてもらうことになったんだ。早めに帰れると思うから、子ども達とも一緒に夕食をとろう」
「あっ!はい、レイ君とリーナちゃんも喜ぶと思います。お待ちしていますね」
ふっと笑うと、そのまま陛下達の方へと戻って行った。
心臓に悪いから、あの笑顔は止めてほしい…。
そしてそのまま陛下や紅緒ちゃんと訓練場を出て行ってしまったので、少しホッとする。
「良かったですねぇ。あ、寝不足はお肌に悪いですから、ほどほどにした方が良いですよ?」
「何ですかその忠告!?心配しなくてもいつもの時間に寝ます!!」
もう疲れた…。
ルイスさんの訓練を見たら、帰ろ…。
その頃、紅緒と別れたカインとレオンハルトは、二人並んで団長室へと向かっていた。
「随分と気に入っているんだな、レオン」
「ええ、まあ」
普段見せない穏やかな表情に、さすがのカインも目を丸くする。
「…驚いたな。噂は案外間違っていないという事か?女嫌いかと思っていたのだがな」
「女性が苦手なだけで、嫌いな訳ではありませんよ。実際、姪は可愛いですしね。ああ、実家のメイド達の中にも信頼できる者が何人かおります」
それでも、浮いた噂の一つもなかったこの男が、とカインは思う。
「…守ってやれよ」
「命に代えても」
カインだけが、その静かな誓いに頷き返した。
「あらぁ?もうこんな時間だわ。ごめんなさい瑠璃さん、私そろそろ…」
「あ、ごめんなさい長々と付き合わせてしまって。自分で帰りますから、どうぞ行って下さい」
「ありがとうございます。では、また会いましょうね」
これから紅緒ちゃんと一緒に魔法講座を受けるとの事で、黄華さんは護衛の騎士さんと一緒に急ぎ足で去っていった。
一応私にも王宮に来ている間、護衛をしてくれる騎士さんがついている。
「すみません、そろそろ帰ります」
「はい。馬車を手配してありますので、そちらまでご案内致します」
自分で帰るとか言ったけど、結局色々お世話して頂いている。
護衛も初めは要らない、と言ったのだが、それが仕事だからと言われてしまってはお願いするしかない。
いつもその時々で違う人が担当してくれているんだけど、多分みんな貴族出身だと思う。
聖女の護衛は王族と一緒で第一騎士団がする、ってレオンハルトさんが言ってたっけ。
そんな人達に護衛してもらうのもやっぱり申し訳ないので、毎回ちょっとしたお礼を渡している。
「ありがとうございます。あの、これ、良かったら。お口に合うと良いのですが」
小袋に包んだチョコチップクッキーを渡すと、目に見えて喜色を滲ませた。
「ありがとうございます。これが…。大切に頂きます!」
ん?
これが?
「あの第二の団長を落とした手作りクッキーだと、我々の間で評判なのですよ」
「あ、そうなんですね…」
もう、否定するのも疲れた。
早く帰ろ…。
「るりせんせい!おかえりなさい!!」
ああ、天使がいる。
「たっ、ただいまぁ!リーナちゃん、会いたかったぁぁぁ!!」
私の癒しが笑顔で出迎えてくれて、私は思わず力一杯リーナちゃんを抱き締めた。
「どうしたの?るりせんせい」
「きっとお疲れなんだよ。王宮は色んな人がいるからね」
そうなの、レイ君!
魔王様とか、からかうのが好きな聖女様とか、笑顔が核爆弾並みの破壊力の騎士様とか!!!
「だから、暫く先生を休ませてあげよう?リーナ」
「…うん」
気遣ってくれる様子のレイ君と、しょんぼりしながらもそれに同意するリーナちゃん、控えめに言っても可愛すぎ。
君達はずっとそのままでいてね…。
いつまでも私の心のオアシスでいて下さい。
「大丈夫!私が留守の間、たくさんお勉強してたんでしょう?夕食まで一緒に遊びましょう。あ、そう言えばレオンハルトさんが今日は泊まりに来てくれるって言ってたわ。一緒に夕食をとろう、って」
「ほんとう!?」
「叔父上が?良かったな、リーナ」
ちょっと、可愛すぎません?うちの子達。
「ふふ。じゃあそれまで、何して遊ぼうか?」
二人に癒されて元気が回復してきたから、何でもお付き合いしちゃいますよ!
「あのね、おえかきしりとり、したいな」
「いいね!レイ君も一緒に…」
「いえ!僕は少しやることがあるので、これで失礼します!」
そう言うとレイ君はまた夕食の時に!と足早に去っていってしまった。
「?どうしたんだろう、レイ君」
「ふっ!」
「んんんっ!」
吹き出すような声のする方を見ると、セバスさんとマリアが肩を震わせていた。
「?何笑ってるの?」
「ふっ!い、いえ、それが…」
「ダメですよマリア。坊っちゃまの名誉のために…ふ、んんんっ!」
…察した。
画伯なのね、レイ君。
天才侯爵令息のその画力、いつか見せてほしいです。




