三人目の聖女
「レオン、ハルトさん…」
信じられないような表情で部屋に入ってきたのは、間違いなく彼だった。
「その、瞳は…」
瞳?
何のことだろうと近くにあった鏡台を覗く。
するとそこには、
金色に輝く瞳の、私がいたーーー。
「…貴女だったのだな」
謎の現象にポカンとしていると、鏡越しにレオンハルトさんが声を掛けてきた。
「私を、救ってくれたのは」
振り向くと、切ないような、泣きそうな表情の彼と目が合う。
「…えっと、私…」
「いい。私は、知っている」
知ってる?何を?
「貴女は、聖女なのだな」
思いもよらない言葉に何も返せずにいると、そっと近付いて来て、優しく抱き締められた。
「!?レ、レオンハルトさ…」
「ありがとう」
「…え?」
突然の抱擁に身じろぎしたが、感謝の言葉にピタリと動きを止めた。
「貴女は、隠したかったのだろう?兄が何度聞いても答えてくれなかったのは、貴女が口止めをしたからなのだろう。それでも、その癒しの力を、私のために使ってくれた」
何故か色々とバレてしまっている。
と言うか、この状況は何ー!?
抱き締められながらあわあわしていると、耳元でふっと笑った気配がした。
「分からないものだな。恩人に惹かれた気持ちと、ルリ、貴女に惹かれた気持ちが同じだったのだから。どちらかを諦めようとしていた自分が、可笑しくて仕方ないよ」
ちょっと待って!
そんなイイ声、耳元で出さないでー!!!
「ルリ…私は、貴女にどうしようもなく惹かれている」
あ、むり。
そこで私の意識は、途切れた。
同時刻。
聖女召喚からずっと眠りについていた魔術師団の団長が、ゆっくりと眼を開けた。
突然の団長の目覚めを知らせるために、魔術師たちは大喜びでカイン陛下へと伝令を飛ばした。
「…あーあ、私がせっかく喚んだのに。まさかレオンに取られちゃうなんて」
周囲の歓喜など知らぬかのように、魔術師団長は行儀悪く胡座をかいてため息をつく。
「まあ、でも…これで良かったのかも」
見つけてくれて、ありがとう
その声は、誰の耳にも届かなかったーーー。
***************
あれから、しばらくしてーーーー
聖女召喚を行った魔術師団の団長さんが目覚め、私の存在は国王陛下に伝えられた。
すぐに王宮からの使者が来て、是非王宮で暮らしてほしいとのお言葉を頂いたが、私は丁重にお断りした。
今さら聖女待遇とか、無理…。
我儘かなとも思ったが、聖女だからといって必ず王宮暮らししないといけない訳ではないし、何よりラピスラズリ家の皆さんがこのまま居て欲しいと言ってくれたので、甘えることにした。
リーナちゃんなんて、私と離れるのを泣いて叫んで嫌がったしね。
因みに孤児院にもクレアさんやルイスさんと一緒に時々通っている。
リリーちゃんもすごく元気になって、この前は一緒に鬼ごっこもやった。
そして、不思議だった瞳の色だけど、どうやら聖女はその特性の魔法を使う際に、魔力の関係か瞳の色が変わるのだとか。
別の聖女様と一度だけ出会った時に教えてもらった、とレオンハルトさんが言っていた。
その、レオンハルトさんだけどーーー
「悪いがルリ、貴女が聖女だからといって遠慮するつもりはない。寧ろ、惹かれた女性が貴女一人だと分かったんだ、これからは押していく」
「ええ!?レオンハルトさん、本気ですか!?」
「当たり前だ、私はこんな冗談は言わない」
「あいつ、意外と肉食系だったんだな…」
「そう言えば叔父上は、魔物討伐でも率先して前衛に上がっているそうですね」
「ふふっ、ルリはもう逃げられないわね?」
「あ、叔父上が何か言ってますよ。えーっと…二人きりになれるところに行くから、邪魔するな、ですって…」
「るりせんせい、れおんおじさまとなかよし!!」
「ルリ、此方を向いて」
「むむむ、むりです!!ちょっ、近いっ!レオンハルトさん、近いですー!!」
一生懸命距離を取ろうとしているのに、騎士団で鍛えた体はビクともしない。
呆気なくレオンハルトさんの腕に収まってしまった。
「こうして抱き締めていると、心が満たされる。ルリ、ずっと側に居て欲しい…」
だから、耳元で言わないでーーーー!!!
突然始まった私の異世界生活
不安だらけだけど…
居場所は、出来たみたいです。
ありがとうございました。
出てきていないキャラもいるし、続きも考えているのですが、書ききれるか分からないので、一応完結としました。
暫く書いてみて、いけそうなら投稿しようかと…。
続きが読みたい!と感想やブクマ頂けると張り切ります(笑)
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。




