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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第一章

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第二騎士団団長の想い

生と死の狭間を彷徨っていた時に見たのは、夢だったのかもしれない。


そう思うようになって、銀髪に金の瞳の女性を探すのは、諦めかけていた。


兄に彼女の行方を聞くことも、その頃にはもう殆ど無かった。






庭園での茶会の後、何度かルリに会う機会があったが、変わらず彼女は私に媚びるでもなく、自然体で接してくれていた。


それがとても心地よくて、自分でも何となく彼女に惹かれているのだろうと思っていた。


私を救ってくれた女性のことがずっと心に残っていたため、表だってこの気持ちを見せることはしなかったが、それも潮時かと思い始めた。


そんな時に兄から頼まれた、孤児院を慰問に行くというルリの護衛。


私は迷うことなく了承した。


初めて出会った時以来の、二人きりの状況に少しだけ動揺したが、それはとても穏やかな時間だった。


いつもは綺麗に纏めている髪は緩く編まれ、服も華美ではない、市民のそれだったが、何故かとても可愛らしいと思った。


気の利いた話など出来なかったが、騎士団や魔法の話になると熱心に耳を傾けてくれ、それが嬉しかった。


ただ、一度だけ。


聖女様の話になった時だけ、表情が陰ったのが気になった。


それの何が、彼女の心を曇らせたのか。






孤児院に着くと、アメジスト家の姉弟に出会った。


ルイス=アメジストは第二騎士団の三番隊に所属しており、魔法・剣術ともに評価の高い騎士だった。


加えてその人懐っこさから、先輩騎士達に可愛がられており、初対面のルリともすぐに打ち解けた様子だった。


…正直、面白くないと感じていたのは認めよう。


ルリは美人だ。


青みがかった銀髪に、名前に似た紺瑠璃の瞳は、まるでお伽噺に出てくる夜の女神のようで。


ただ、そのおおらかさから、近寄りがたい雰囲気は無く、親しみやすさが滲み出ている。


兄が言う、若い使用人たちからの人気の高さとやらも本当の事なのだろう。


隣り合って歩いている時も、すれ違う男達がルリを見て頬を染めていた。


…思い出すと、また胸が締め付けられたような気がした。






そして始まったフォルテの演奏。


子ども達の歌に乗せて響く音色は、とても賑やかで温かく、彼女の表情も明るい。


それとは打って変わって、夜空に浮かぶ月をイメージしているという少し物悲しさを感じる曲では、まるで彼女自身が手の届かない月の化身のようで、心がさざめいた。


演奏後も子ども達に囲まれている姿を見ると、ああ、きっとこうした環境が、彼女にとっては当たり前だったのだろうと、ふと思う。


突然現れた存在。


嫌な、予感がした。





ルイスと共に年長の子ども達に剣の稽古をつけていると、15歳くらいの一人の女の子が服の裾を引いて私を呼んだ。


「どうした?」


「あの…ルリ先生って、貴方の恋人ですか?」


唐突な質問に、すぐには答えられなかった。


「…いや。そうではないが…」


「ええっ!?絶対そうだと思ったのに…どうしよう」


聞けば、片想いをしている男の子が、ルリのことを綺麗だ、と褒めていたらしく、危機感を覚えたようだ。


「ルリ先生のこと、ちゃんと掴まえて下さいね!」


「何故、私が?」


「…?だって、ルリ先生のこと、凄く優しい顔で見ていましたよ。それって、好きだからですよね?」


ーーー衝撃だった。


好き?


私がルリを?


呆然としていると、ルイスから声を掛けられ、慰問の終了を告げられる。


私はただ、「ああ」としか返事できなかった。







会話には参加したが、それからも暫くぼおっとしてしまい、いつの間にか帰る時間になっていた。


アメジスト姉弟と別れる際、ルイスに手作りのクッキーを渡す姿を見て、また胸が痛む。


満更でもない様子のルイスに、嫉妬したのだろう。


しかし、そんな胸の内など知らないルリは、私にもクッキーの包みをくれ、剣を振るう姿を褒めてくれた。


ただそれだけで心がじんわりと温かくなり、胸が高鳴ったのは、気のせいでは無かった。






ラピスラズリ邸に戻ると、今夜は泊まっていけとの兄からの申し出を受け、甘えることにした。


ルリは自室に下がっていたが、同じ屋敷にいると思うと、何故だか嬉しい気持ちになる。


そんな時に問われたルリへの気持ち。


それに、私は素直に答えた。


「ルリのことが好きか?」


もう、とっくに私はーーー。







夕食を終え、用意された部屋に戻る前にリリアナの様子を見てみようと思い立ち、私はその部屋へと向かっていた。


寝入りや寝起きが良くないリリアナが、ルリが来て以来、穏やかに眠っていると聞いたからだ。


彼女といると不思議と皆が心穏やかになる。


自分もその一人だと思うと、こそばゆい気持ちになった。


部屋に着くと、少しだけ扉が開いていて、ルリが物語を読む声がした。


「あれ?リーナちゃん寝ちゃった」


なんだ、眠ってしまったのか。


暫くどうしようかと考えたが、起こさないようにそっと去ろうとした。


その時


その唄は、聞こえた。


遠くなる意識を引き留め、温かい光に包まれた時に聞いた唄だ。


まるで真綿に包まれるような安心感で、ああ、助かったのだと思った。


重くなる瞼を僅かに開いて見えたのは、銀と金の光。


ーーーー間違いない。


私は、思わずリリアナの眠る寝室へと足を踏み入れた。


そこにいたのは


輝くような銀髪を風に揺らして歌う、金の瞳のーーー







ルリだった。

次話(最終話)は夜に投稿予定です。

最後までお付き合い頂けると嬉しいです。


*誤字報告ありがとうございました

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― 新着の感想 ―
[一言] う~ん 歌を歌うとスキル発動して 瞳の色がかわる? それって人前で歌うとヤバくない?
[一言]  候爵が弟の治療をルリに依頼し治療を終えた。  ルリから秘密にして下さいと言われていたのに、弟を応援しルリに近づけようとするのはルリへの裏切りだと思う。  裏切り良くない。
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