*私の聖女*
コミカライズ記念番外編第二弾☆
リーナちゃん視点のお話です。
「りりあなせんせーい!」
「はーい?どうしたの?」
私はリリアナ=ラピスラズリ、十五歳。
侯爵令嬢である私の家庭教師だった青の聖女、るり先生が初めて作った保育施設に、こうして時々手伝いに来ている。
この国の国王陛下が赤の聖女様と結婚した半年後、るり先生は私の叔父であるレオンハルト=ラピスラズリ第二騎士団長と結婚した。
それからるり先生はラピスラズリ侯爵家を出たのだが……あの時は随分泣いたっけ。
少しでもるり先生の近くにいたくて、勉強も魔法も頑張った。
そうして少しずつ、こうしてお手伝いもできるようになってきたところ。
「ねえねえ、せんせい。んーと、おうていでんか?のこんやくしゃになるって、ほんと?」
「え!?それをどこで……って、まあその……そういう話は、確かにあるんだけど……」
保育施設に通っている少女の、思いもよらない質問に、たじたじになって答える。
王弟殿下というのは、兄であるレイモンド=ラピスラズリの友人である、アーサー=アレキサンドライト殿下のこと。
アーサー殿下の姉、王妹であるヴァイオレット殿下とも、時々お話しさせて頂いているが、お二人ともとても良い方で、まだ幼い頃に王宮のお茶会で知り合って以来、兄共々仲良くして頂いている。
元々はるり先生がお仕事で知り合い、そして私たちも……というご縁なのだが、ここに来てなんと王宮から婚約の打診を受けた。
父であるラピスラズリ侯爵は滂沱の涙を流して反対しているが……母は私の好きにすれば良いと言ってくれている。
るり先生とレオンおじさま、お兄様も、私の思うようにしたら良いと見守りの姿勢だ。
アーサー殿下のことは……うん、好きか嫌いかと言われたら、好きだ。
穏やかな人柄も、努力を重ねて陛下を支えたいという志も、とても好ましいと思っているし、尊敬もしている。
でも、両親やるり先生とレオンおじさまみたいな関係になれるかと言われると……正直、まだ分からない。
それに、私なんかに王弟妃なんて務まるだろうかという不安もある。
返事は急がなくて良いと陛下も言ってくれているので、これからちゃんと考えたいと思っているところだ。
「ね、先生にそんなこと、できると思う?」
こんな小さい子にこんなことを聞いて、情けないと思いつつも、つい言葉にしてしまった。
「うーん……えらいひとの、およめさんになるってことでしょ?」
そうなのよ……と苦笑いを返すと、少女は少し考えた後、にっこりと微笑んだ。
「できるとおもうよ!るりせんせいも、えらいひとのおよめさんになったけど、みんなにやさしいもん。わたしたちがここにかよえてるのも、るりせんせいのおかげなんでしょ?」
るり先生の名前が出てきたことに驚きを隠せずにいると、少女は私の手をきゅっと握った。
「りりあなせんせいも、るりせんせいとおなじだよ。えらいひとのおよめさんになっても、わたしたちにやさしくしてくれるでしょ?」
満面の笑みを返されて、かなわないなぁと小さく吹き出す。
「うん。もちろん。私は私だもの。るり先生に憧れた、私のまま」
それならだいじょうぶ!と少女は破顔した。
そっか、このままでも良いんだ。
少女の言葉がストンと自分の胸に落ちてきて、戸惑いが少しだけ和らぐ。
「べにおちゃんも、おうかさんも、みんな変わらないもんね」
三人の聖女たちの顔を思い浮かべて、彼女たちとともにこの国を支えたいと、その時思った。
今はまだ、“お手伝い”だけど。
いつか、きっと。
「ありがとう」
お礼を告げると、少女は嬉しそうに笑った。
「いたいた。リリアナ姉さま、探しましたよ」
「早くフォルテ弾いてほしいって、みんな待ってますよ?」
「え?あ、ごめん、コンラート、アンジェラ」
のんびりしていたところに、二人の兄妹が手を繋いでやってきた。
青みがかった銀髪。
まるで一対の精巧な人形のように美しいと評判の兄妹。
「今日は母上と連弾するのでしょう?」
「聖女の共演、ってみんな楽しみにしてますよ!」
「あ、はは……るり先生はともかく、私は聖女じゃないんだけど……」
そう、この兄妹、るり先生とレオンおじさまのお子様。
私のことを姉と呼んで慕ってくれており、今日も一緒にるり先生の手伝いに来ていた。
「光の魔力の強い姉さまを、るり先生の後継って意味も込めて、みんなそう呼び始めちゃいましたからね」
「フォルテ弾いてる姿も、まさしく聖女!ってみんな言ってましたよ?」
大げさだなぁと苦笑いを浮かべる。
レオンおじさま似のクールなコンラート、るり先生似の癒し系なアンジェラ。
そして当然のように文武両道、眉目秀麗なこの兄妹。
ふたりが成長したら、きっともっと凄い二つ名とか付けられるんだろうなぁとぼんやりと考える。
「ね、私がもっと上手になったら、三人で弾いて下さいね」
「6手連弾ってやつ?うん、もちろん良いわよ」
アンジェラのかわいいお願いに、頬を緩める。
穏やかな空を見上げると、青空が広がっていた。
私は、私のやりたいことを。
この国で、大切な人たちと一緒に。
「りりあなせんせい?はやくいこ!みんなまってる」
「あ、うん。ごめんなさい、急ぎましょう」
そして四人並んで教室へと戻る。
そこで待っていてくれてたのは――――。
「あ、きたきた。リーナちゃん、みんなお待ちかねよ」
いつもの笑顔。
温かい声。
「るり先生、みんな、お待たせ!」
幼くて自分を守ることができなかった私を救ってくれた、私が憧れ続けた大好きなひと。
初めて会った時から変わらない、きらきらした銀色の光に包まれた、私の聖女。
これからも、その背を追って。
私も、私が選んだ道で幸せになる。
これで本当に最後です。
瑠璃もリーナちゃんも、色んなことを乗り越えて、幸せになってほしいなと思います!
最後まで見守って頂いてありがとうございました(*^^*)




