*最終話*いつまでも一緒に
一年後。
「べっ、紅緒ちゃん、おめ、おめでとぉぉ〜〜〜!!!」
「……なんで花嫁よりも号泣してるのよ」
「あらあら」
今日は、紅緒ちゃんの結婚式。
相手はもちろん……
「おい、聖女のくせに汚く泣くなよ。化粧が取れるぞ」
相変わらず口の悪い、陛下だ。
王宮内での式典を終え、国民へのお披露目の前にふたりの控室に招かれたんだけど、あまりに綺麗なウエディング姿に、私の涙腺は崩壊してしまった。
「まあまあルリ、落ち着け」
「だってレオン、紅緒ちゃんがすごい綺麗だから……。王妃としての証のティアラをもらった時なんてもう、すごく感動して……」
ぐすぐすと泣く私の目元を、レオンが優しく拭ってくれた。
今日はレオンも、私のエスコート役として隣に立っていてくれている。
「はぁ……まだ始まったばかりなのに。そんな調子で今日一日、大丈夫ですか?」
もちろんアルも護衛役として一緒だ。
相変わらずお世話をかけているのは、言うまでもない。
「瑠璃さんらしいですわねぇ。当の本人たちは、けろりとした顔をしてますのに」
「まあ陛下もベニオ様も、それほど感傷に浸るタイプじゃありませんからね。おふたりとも、さっさと済ませようって考えていそうですよねぇ」
そしてなんと黄華さんのエスコート役は、ウィルさんだ。
一年前くらいから、どうやらいい感じらしいのよね……。
詳しいことは、絶対に教えてくれないんだけど。
リオ君が護衛しながらすごい目でウィルさんを睨んでいるが、ふたりはあまり気にしていないみたい。
「確かに式典は疲れたけど……今からのお披露目は、緊張するけどちょっと楽しみかな」
そんな私たちを見て笑う紅緒ちゃんの額には、先程戴いたばかりのティアラが飾られている。
一年前、ヒュドラの討伐を終えてしばらくして、ふたりの婚約が整った。
満場一致……とまではいかないが、多くの人の支持を受けて、紅緒ちゃんは認められた。
シリルさんがかなり味方になってくれたんだって、紅緒ちゃんがこっそり教えてくれた。
「騎士たちやその家族もかなり来ているらしいな。ふん、馬子にも衣装だと言われないと良いな」
「はぁ!?あたしだって別に、好き好んでこんなフリフリしたドレス着てるわけじゃないし!」
あーまた始まった。
だいたい陛下が素直じゃないのがいけないのよね……。
紅緒ちゃんのドレス姿に、最初見惚れてたくせにさ。
「一言、綺麗だよって言ってあげればいいんですのに……」
「私なら開口一番褒めるが、陛下はまだお若いからな。恥ずかしいんだろう」
「まさか、赤の聖女様になにも言葉をかけていないのですか?……陛下、あまり素直じゃないと愛想を尽かされてしまいますよ?」
黄華さん、ウィルさん、レオンからの追撃に、陛下がたじろいだ。
「……あたしだって、今日くらいはあんたのために着飾ってみようかなって思っただけで……。そりゃ、似合わないのは分かってるけどさ……」
とどめは紅緒ちゃんだ。
そりゃ結婚式だもの、陛下のために綺麗にしたいって女心に、ちゃんと反応示してほしいよね。
じ〜〜〜っとみんなの視線が陛下に集中する。
「や、やかましい!お前たちみたいに、そう人前でホイホイ綺麗だの似合っているだの、言葉にできるか!」
なーんだ、心の中ではちゃんとそう思ってるんじゃん。
にまにましていると、陛下からうるさい!と怒られた。
まあ多分、陛下はふたりきりになればちゃんと言葉にするのだろう。
紅緒ちゃんもそれが分かったのか、笑顔だ。
結局仲良しなんだから、心配はいらないよね。
「失礼します。お時間となりました」
そこへ係の人からのお呼び出しがかかる。
「ほら、行くぞベニオ」
「ん。じゃあ、先に行くわね。また後で」
ちょっぴり顔を赤らめた陛下が、紅緒ちゃんの手を取って出て行った。
実は私と黄華さんも、聖女として後から一緒に、お披露目の席に立つことになっている。
祝福を与えるって演出みたいなものかな?
紅緒ちゃんのためだ、一肌脱ぎましょうってことで、私たちも快く了承した。
外から、一際大きな歓声が聞こえる。
陛下と紅緒ちゃんが姿を現して、みんな喜んでるのねきっと。
それにしても、まさか紅緒ちゃんが一番に結婚とは……。
「紅緒ちゃんに先越されちゃいましたねぇ。まあでも瑠璃さんはこの一年、忙しかったですから、仕方ありませんよね」
そう、公園事業がすごく軌道に乗り、この一年でかなりの数が増えた。
そして実は、第一号の保育施設が来月から開所する予定なのだ。
公園で子どもを見てもらえる制度も、働くママや下の弟妹がいるママたちからの反応がすごく良いので、きっとすぐに二号、三号と増えるでしょうねとシトリン伯爵からも太鼓判を押されている。
しかもなんと、シリルさんも色々とお手伝いしてくれているのだ。
元シングルマザーとして色々と思うところがあるみたいで、すごく良くしてくれている。
「うーん実は私、黄華さんはすぐに結婚しちゃうのかな~って思ってたんですけど。ウィルさんとはどうなんです?」
「はい!?い、いえ……私たちは別に……」
ウィルさんに聞こえないように、こっそり黄華さんに聞いてみたのだが、相変わらずの反応だ。
うーん、ウィルさんはかなり押しているみたいだし、黄華さんも満更じゃないと思うんだけどなぁ。
っていうか、結構ふたりで一緒にいるって話も聞くし。
「そ、それよりお仕事が落ち着いてきたなら、瑠璃さんこそそろそろでしょう?」
「ええ!?いや、まだそんな話は……」
「黄と青の聖女様?そろそろ準備をお願い致します」
「「はっ、はいっ!!」」
こそこそと話しているところに係の人に声をかけられ、ビクリと肩が跳ねる。
いけないいけない、とりあえず今はこちらに集中しないと。
黄華さんとふたり、居住まいを正してそれぞれのパートナーと腕を組む。
「相変わらず、仲が良いな」
くすくすと頭上から笑いが零れ、顔が赤くなる。
黄華さんの方を見ると、あちらも似たようなやり取りをしていて、黄華さんの顔もちょっぴり赤くなっている。
やっぱり、お似合いだと思うんだよねぇ。
このまま押し続ければ、ウィルさんいけると思いますよ!
心の中でウィルさんに声援を送る。
「では、よろしくお願いします」
係の人の誘導で、扉の向こうへと足を進める。
王都が見渡せるテラスのような場所に出ると、またたく間に声援に包まれた。
うわ、すごい人……!
今更だけど、しかも私はオマケって分かってるけど、やっぱり緊張する!!
震えそうになる私を、レオンがしっかりと支えてエスコートしてくれた。
うん、でもレオンが一緒だから大丈夫。
ちゃんと、笑えてる。
温かい拍手に包まれた陛下と紅緒ちゃんの側まで歩き、一礼して祝福の花束を贈る。
「おめでとうございます、おふたりとも」
「幸せになってね」
そんな言葉をかけると、また声援が響いた。
その声に応えるかのように、陛下が花束を掲げたかと思うと、観衆に向かって聞いてほしいことがあると徐に口を開いた。
「皆も知っての通り、今日から俺の隣に立つベニオをはじめ、オウカ、ルリの三人は、聖女召喚の儀式によって喚び出された者たちだ」
その声に、しんと辺りが静まり返る。
「慣れない異世界で不安も多い中、彼女たちはそれでも、この国のためにと、これまで数多のことをやり遂げてくれ、我々のために心を砕いてくれた」
予想外の言葉に、私たち三人は呆気にとられる。
「帰りたいと泣いた日もあったはずだ。家族や大切な人に会いたいと願った日も。そんな彼女たちの日常を奪った俺は、憎まれても良いと思っていた」
それを聞いた紅緒ちゃんが、その両手をぎゅっと組んだ。
「だが、それは逃げだと思った。憎まれ役になるのではなく、俺自身が、彼女たちを幸せに導こうと。彼女たちが国を愛してくれるのならば、俺もそれに応える。彼女たちに恥じることのない国をつくる。優しく気高い彼女たちが望む、一人でも多くの者が幸せになれる国を目指す。……そして、ベニオのことは、一番側で支え合っていきたいと、そう思った」
そして陛下は、紅緒ちゃんの固く握られた手に、自分のそれを重ねた。
「聖女たちよ。この国を共に支えたいと決意してくれたこと、感謝する。そしてその高潔な志に恥じることのない治世を、今、皆の前で誓う」
そう言って、陛下はなんと私たちに向かって跪いた。
そしてそれに倣うように、王宮の人たちも。
嘘でしょ!?と私たち三人だけが、あわあわとしてしまった。
「ちょ……これは聞いてないわよ!」
「これは?これはってどういうことですの?」
「いやいやいや!頭上げてくださいよ、陛下!」
そんな私たちには構わず、顔を上げた陛下は、何故かこちらを見てにやりと微笑んだ。
「ルリ、オウカ。そなたたちには、この場で伝えたいことがある者がいるそうだ」
「「?」」
次々と飛び出す、思いもよらない発言に、今度は黄華さんとふたり、顔を見合わせて首を傾げる。
「ルリ」
「オウカ様」
と、すぐ側から優しく呼びかけられて、はっとする。
私の前には、レオンが。
黄華さんの前にはウィルさんが。
そして、その手の中には――――。
「私も、皆の前で誓う。いつまでも、誰よりも近くで、君と幸せを繋いでいくと。俺にとっての幸運の石は、ルリ、君自身だったんだ。……受け取ってくれるか?」
ラピスラズリの、指輪。
「貴女はあまり自分を大切にしませんからね。まあ、私も人のことは言えませんが。……ですから、互いが互いのことを一番に思い遣れば、幸せになれると思うのです」
アクアマリンの、指輪。
家名の石を贈る、その意味は――――。
「お前たちにも、幸せになってほしい。俺たちと、この国で」
そう穏やかに話す陛下の声に、私も黄華さんも涙が止まらなくなる。
「ほらふたりとも、泣いてないで!大好きな騎士様たちが返事を待ってるわよ!」
そう言う紅緒ちゃんの目にも、涙が溜まっている。
さっき陛下に汚く泣くなって言われたけど、こんなの無理!
「れ、レオン……私も、一緒に、幸せになりたい!」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、精一杯の気持ちを伝える。
隣の黄華さんもだ。
ウィルさんに優しく抱き締められている。
「ああ。これからも、一緒に」
今日一番の大歓声が、私たちを包む。
そして、レオンが私の唇にキスをした。
「るりせんせい、おめでとう!」ってどこからか聞こえた気がしたけれど……。
たくさんの人の前でキスをされて頭がパニックになっていた私は、その声に応える余裕なんて、もちろんなかった……。
* fin *
ということで完結です。
ここまで書い続けることができたのも、読んで下さる皆様がいたからです。
最後までありがとうございました(*^^*)
ひょっとしたらコミカライズ配信日あたりに番外編を投稿するかも?です。




