この世界で
「……さて、それではわらわも、そろそろひと眠りしようかの」
「あ、女神様!少しだけ、お話ししても良いですか?」
満足げな顔をした女神様を、紅緒ちゃん、黄華さんと一緒に引き留める。
「うむ?どうしたのじゃ?」
「あの、――――――?」
私たちの無理なお願いに、女神さまはにっこりと笑って、了解したのじゃ!と応えてくれた。
「レオンおじさま!おかえりなさい!」
「ただいま。リリアナのお守りのおかげで、赤の聖女様も私も、こうして無事に帰れたよ。ありがとう」
その日の夜。
ラピスラズリ邸に帰ってきたレオンと私を、家族総出で出迎えてくれた。
特にリーナちゃんはすごく安心したみたい。
ずっとレオンにくっついてる。
「ルリ、ヤキモチやいてる?」
「やいてません!もう……」
エレオノーラさんもからかってくるくらいのベッタリ具合だ。
まあ、そりゃ私だって……いやいや、断じてヤキモチなんかやいてない!
「レオンおじさまのすきなもの、テオさんにたくさんつくってもらったの!いっぱいたべてね!」
食卓を囲みながら、リーナちゃんがあれもこれもとレオンに勧めている。
心の中でちょっぴり良いなぁと思いつつも、ここはリーナちゃんに譲らねばと、なけなしの自制心でふたりを見守る。
リーナちゃんのお守りが紅緒ちゃんたちを守ってくれたのは事実だしね。
「紅緒ちゃんと黄華さんも、今度リーナちゃんに会ってお礼したいって言ってたよ。またお茶会しましょうって。あ、ヴィオラちゃんとアーサー君も良かったら一緒にって」
「ほんとう?いきたい!ねえおとうさま、おかあさま、いいでしょう!?」
もちろんいいよと微笑むエドワードさんとエレオノーラさんに、リーナちゃんがやったあ!と喜びを露わにする。
「それまでに、マナーの練習も頑張らないといけないよ?」
「あ、レイ君も一緒にどうかなって言ってたよ。男の子がアーサー君だけだと寂しいだろうからって」
「え、僕もですか!?」
他人事なレイ君にそう伝えると、ぎょっとした顔をされた。
でもちょっと嬉しそう。
少し前のお茶会でも話が弾んだみたいだし、仲良くなれると良いよね。
あははとみんなの笑い声が響く。
ああ、やっぱり家族って良いなぁって、こんな時に思う。
こんな幸せな時間、これからも大切にしたいな……。
「眠ったみたいだな」
「うん。レオンが帰ってきてかなりはしゃいでたから、疲れたんだろうね。すぐ寝ちゃったね」
その夜。
リーナちゃんが私とレオンに寝かしつけてほしいとおねだりしてきたので、こうして一緒にリーナちゃんのベッドにいた。
久しぶりに子守唄も歌ってほしいと言われ、一曲歌ったのだが、すぐに夢の中だった。
「その歌、懐かしいな」
「あ、そっか。レオンに私が聖女だってバレた時にも、この歌を歌ってたんだったね」
故郷を想う、綺麗だけど、どことなく寂しさも感じられる旋律の歌。
「俺の部屋に行こうか、疲れているだろうが……少し、話したい」
差し出されたレオンの手に、私も手を重ね、リーナちゃんを起こさないようにそっと部屋を出る。
廊下の窓からは、綺麗な月が見えた。
日本で見ていた月と、変わらない。
お父さんやお母さん、弟も、元気かな……。
「ルリ?着いたぞ」
「あ。ごめん、ぼーっとしちゃって。お邪魔します」
レオンが開けてくれた扉をくぐり、部屋に入る。
いつものレオンの部屋。
レオンが来る時々しか使ってない部屋だけれど、なぜか落ち着く。
「温かいお茶、淹れるね」
「ああ、ありがとう」
静かな部屋に、茶器の音だけが響く。
こぽこぽとお茶をカップに注げば、やわらかな湯気が立ち、優しい茶葉の香りが立った。
ソファに隣り合って座り、ひと口飲むと、じんわりと体が温まるのが分かった。
「……やはり、寂しいか?」
「うん?……やだなあ、レオンはいつも全部お見通しなんだから」
心配そうな顔に、苦笑いを返す。
でも、もう涙は出ない。
「あのね、さっき女神様に三人でお願いしてきたの。……元の世界の家族に、私たちはこっちで幸せに暮らしていますって、伝えてほしいって」
そう、女神様との別れ際。
私たちはそれを願い、女神様は快く了承してくれた。
「もう、私たちは元の世界に戻ることはないし、戻りたいと願うことも多分ない。それでも、やっぱり家族は家族だもの。これまで愛してくれた人たちに、せめて伝えてほしかったの」
自分たちは、幸せだと。
そして、こちらの世界から、みんなの幸せを願っていると。
どうか、悲しまないでほしい。
私たちは、こちらの世界で、ちゃんと自分の居場所を見つけたのだから――――。
「ルリ……」
「もう、懐かしむことはあっても、泣かないよ。もう私は、決めてしまったから。レオン、あなたと、ずっと――んっ?」
最後まで話すことはできず、口を塞がれた。
レオンの唇で。
優しくて長い口づけに、はぁっと息を零して唇を離すと、こつんと額を合わせてレオンが口を開いた。
「その先は、君の口から聞くわけにはいかない。それは、俺の台詞だからな。……もう少し、待っていてくれるか?」
「っ!……うん、じゃあ楽しみに待ってる」
ふふっと近い距離で微笑み合うと、もう一度唇を重ねる。
「……おかえり、レオン」
「ただいま。ルリには、今回も命を救われたからな。本当に、助かった」
そういえばと、みんなに身体を重ねたことがバレてしまったことを思い出し、顔の熱が上がる。
「……かなり恥ずかしいことにはなったけどね」
「俺は別に構わないが?ルリが俺のものだと周りに知らしめることになったからな。もうちょっかいをかけてくる奴はいないだろう」
そんな人いないよ……とレオンにぎゅっと抱き着く。
いつもの体温と匂い、落ち着くなぁ……。
「ルリの家族の分まで、俺が君を大切にする。俺だけじゃない、兄や義姉、レイモンドやリリアナもいる。それに、君がこの世界で親しくなった友人たちも。俺たちと一緒に、この世界で幸せになろう」
「……うん。もう、十分過ぎるくらい、幸せだけどね」
「もっと幸せになるんだ」
「そっか。うん、そうだね」
それから、その夜は何度もふたりで笑い合って、唇を重ねて、抱き締め合った。
紅緒ちゃんや黄華さんも、今頃はきっと大切な人と優しい時間を過ごしているだろう。
この世界に召喚されて、色々あった。
帰りたいと思ったことも多いけれど、この世界だからこそ学んだこともあるし、大切な出会いも多かった。
そして、何よりも。
互いに想い合える人に出会い、愛し、愛されることを知った。
それを私に教えてくれたのは、――――レオン。
いつか、この世界で生きていくことを決意した日があった。
この世界で、幸せになりたいと。
今もう、幸せだと十分感じているけれど。
もっと、もっと幸せになろうねって。
もっと、嬉しいことを作ろうって。
そう言ってくれる人ができたよ。
お母さん、お父さん、みんな。
私は、今も、これからも、幸せだから。
みんなも、幸せになってね――――。
ということで……
次で最終話となる予定です。
感慨深いものがあります……(T_T)
明日投稿できたら良いなと思っていますので、どうぞ最後までお付き合い下さい。




