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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第一章

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気付いた気持ち

「では、そろそろお暇しましょうか。ルリ様も、リリアナ様がお待ちでしょうし」


「そうですね。リーナちゃんに早く帰ってきてねと言われていたんでした」


本当は自分も行きたいところを我慢して送り出してくれたのだ。


帰ったら、いっぱい甘やかしてあげよう。


「今日はありがとうございました。皆さん、是非またいらして下さい」


「ありがとうございます院長先生。あの、これ、私が作ったものなんですが、よかったら子ども達に」


そう言って紙袋を渡す。


「これは…!ありがとうございます、みんな喜びます」







「ルリさん、さっき院長先生に渡してたの、何?」


「ああ、クッキーです。リーナちゃんともよく作ってるんですよ。あ、そうだ、クレアさんとルイスさんにも。お口に合うと良いんですけど」


小さな袋に個包装したものをそれぞれに渡す。


「え、やった!俺甘いもの好きなんだよね」


「ありがとうございます、ルリ様。美味しく頂きますね」


「いえ、私、今日すごく楽しくて。ルイスさんともお会いできて、嬉しかったです」


ラピスラズリ家の皆さんと過ごすのも勿論楽しいが、やっぱり私は色んな人と関わるのが好きだ。


こうやって、こちらでも世界を広げていきたい。


「ルリさんって…。あー、やば」


「ルイス、悪いことは言わないわ。お止めなさい」


姉弟のやり取りの意味はよく分からなかったが、「それではここで」とクレアさん達とは別れて帰ることになった。


「…貴女は、いつもそうなのか?」


「え?何がですか?」


暫く黙っていたレオンハルトさんが怪訝そうに聞いてきたが、何でもない、と言われてしまった。


不思議に思ったが、忘れないうちにレオンハルトさんにも渡さなければと、鞄からゴソゴソと包みを取り出す。


「これ、レオンハルトさんの分です。よかったら」


「私の分もあったのか?」


そうなんです、多めに作っておいて良かったです。


当初はクレアさんしか来ないと思っていたため、一人分しか考えていなかったのだが、たくさん焼けたので念のために包んでおいたのだ。


「今日のお礼です。レオンハルトさんが剣を教えてる所、少ししか見れませんでしたが、すごくかっこ良かったです!また機会があれば、一緒に行きましょうね」


「…っ、ああ。そうだな」


そうして私達は何気ない話をしながら帰路についた。







ラピスラズリ邸に着くと、リーナちゃんとレイ君が出迎えてくれた。


「るりせんせい、れおんおじさま。おかえりなさい」


「お疲れ様でした。ルリ様、疲れたでしょう。どうぞ暫く自室でゆっくりして下さい。叔父上も、お疲れ様でした。父上から、今日は泊まっていってくれと伝言です」


「ありがとう、じゃあ夕食の時にね」


「ああ、ではそうさせてもらおう。世話になる」


そこでレオンハルトさんとも別れ、自室へと戻る。


楽しかったけど、久々の外出でやっぱりちょっと疲れたので、着替えてゆっくりすることにした。


「ステータス オープン」


ソファーに座って一息つくと、気になっていたことを確かめるため、ステータスを開いた。


************

和泉 瑠璃

癒しの聖女Lv.12

HP:823//1430

MP:1805//1825


魔法:聖属性魔法 Lv.MAX ・ 水属性魔法 Lv.39

風属性魔法 Lv.20 ・ 光属性魔法 Lv.20

火属性魔法 Lv.10 ・ 土属性魔法 Lv.10

闇属性魔法 Lv.5

スキル:鑑定 Lv.MAX ・ 癒しの子守り唄 Lv.10

料理 Lv.8 ・ 癒しのフォルテ Lv.3 new

************


やっぱり………。


リリーちゃんが元気になったのも、新しいスキルのおかげだったのね。


地味にレベルその他も上がってる。


まあでも、すごく重病って感じではなかったし、ちょっと元気になるくらいなら良かったんじゃないかな?


うん、そういう事にしよう!






「それでレオン、どうだった?」


その頃、レオンハルトはエドワードやエレオノーラ、レイモンドに囲まれていた。


「なかなか興味深かったです。年長の少年達はルイス=アメジストに稽古をつけてもらっているようで、なかなか剣捌きが良く、騎士団に入隊の意欲がある者も……」


「そうじゃなくってよ!!!」


「…は?」


孤児院への慰問の感想を求められたと思い、つらつらと話したが、エレオノーラが頭を抱える様子を見て首を傾げた。


「そうではなくてですね…その、ルリ様と色々お話をしたり、一緒に過ごしてみてどうだったかと、聞きたいのです」


直球で聞かないと駄目だと悟っているレイモンドが、賢明にも瑠璃の名前を出して問う。


「…綺麗だと、思った」


「「「!!!?」」」


「魔法についての話を熱心に聞いてくれた時も、フォルテを弾いている姿も、子ども達に囲まれている時も、ルリの周りはキラキラしていて、見ていると穏やかな気持ちになる。…その反面、落ち着かない気持ちになることもあるが…」


これは…!!と三人が色めき立つ。


常に冷静で感情が表に出ないことから、青銀の騎士と呼ばれている彼とは、別人のようだ。


普段の彼からは想像もつかない程に悩ましい表情をしており、そしてそれは恋に悩む男のそれだった。


「レオン、ルリのことが好きか?」


信頼する兄からの、穏やかな声色での問いに、弟は静かに答える。


「…私はーーー」






「あれ?リーナちゃん寝ちゃった」


いつものように寝かしつけの絵本を読んでいる途中だったが、リーナちゃんが目を閉じて寝息を立てていた。


最近では子守唄がなくても穏やかに眠れることが増え、今日もおそらくそうなのだろう。


「きっと私が留守にしている間、頑張ってたんだよね」


近頃、本人の希望でエレオノーラさんやセバスさんからマナーを教えてもらう事にしたため、勉強の幅が広がっているようだ。


「それにしても、今日は楽しかったなぁ」


まるで、園で働いている時のようだった。


一緒に歌ったり、絵本を読んだり、子ども達の笑顔に囲まれるのが懐かしくて、嬉しかった。


もう戻れないかもしれない故郷を想って、私は自然とその歌を口ずさんでいた。







私は、油断していたのだ。


扉が少しだけ開いていたこと。


寝かしつけのこの時間は、髪をほどいていること。


口ずさんだその歌は、以前にも、ある人の前でだけ歌ったことがあったこと。


ーーー扉の外に、彼がいたこと。


それらに、気付けなかったから。

あと2話でとりあえず完結の予定です。

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