気付いた気持ち
「では、そろそろお暇しましょうか。ルリ様も、リリアナ様がお待ちでしょうし」
「そうですね。リーナちゃんに早く帰ってきてねと言われていたんでした」
本当は自分も行きたいところを我慢して送り出してくれたのだ。
帰ったら、いっぱい甘やかしてあげよう。
「今日はありがとうございました。皆さん、是非またいらして下さい」
「ありがとうございます院長先生。あの、これ、私が作ったものなんですが、よかったら子ども達に」
そう言って紙袋を渡す。
「これは…!ありがとうございます、みんな喜びます」
「ルリさん、さっき院長先生に渡してたの、何?」
「ああ、クッキーです。リーナちゃんともよく作ってるんですよ。あ、そうだ、クレアさんとルイスさんにも。お口に合うと良いんですけど」
小さな袋に個包装したものをそれぞれに渡す。
「え、やった!俺甘いもの好きなんだよね」
「ありがとうございます、ルリ様。美味しく頂きますね」
「いえ、私、今日すごく楽しくて。ルイスさんともお会いできて、嬉しかったです」
ラピスラズリ家の皆さんと過ごすのも勿論楽しいが、やっぱり私は色んな人と関わるのが好きだ。
こうやって、こちらでも世界を広げていきたい。
「ルリさんって…。あー、やば」
「ルイス、悪いことは言わないわ。お止めなさい」
姉弟のやり取りの意味はよく分からなかったが、「それではここで」とクレアさん達とは別れて帰ることになった。
「…貴女は、いつもそうなのか?」
「え?何がですか?」
暫く黙っていたレオンハルトさんが怪訝そうに聞いてきたが、何でもない、と言われてしまった。
不思議に思ったが、忘れないうちにレオンハルトさんにも渡さなければと、鞄からゴソゴソと包みを取り出す。
「これ、レオンハルトさんの分です。よかったら」
「私の分もあったのか?」
そうなんです、多めに作っておいて良かったです。
当初はクレアさんしか来ないと思っていたため、一人分しか考えていなかったのだが、たくさん焼けたので念のために包んでおいたのだ。
「今日のお礼です。レオンハルトさんが剣を教えてる所、少ししか見れませんでしたが、すごくかっこ良かったです!また機会があれば、一緒に行きましょうね」
「…っ、ああ。そうだな」
そうして私達は何気ない話をしながら帰路についた。
ラピスラズリ邸に着くと、リーナちゃんとレイ君が出迎えてくれた。
「るりせんせい、れおんおじさま。おかえりなさい」
「お疲れ様でした。ルリ様、疲れたでしょう。どうぞ暫く自室でゆっくりして下さい。叔父上も、お疲れ様でした。父上から、今日は泊まっていってくれと伝言です」
「ありがとう、じゃあ夕食の時にね」
「ああ、ではそうさせてもらおう。世話になる」
そこでレオンハルトさんとも別れ、自室へと戻る。
楽しかったけど、久々の外出でやっぱりちょっと疲れたので、着替えてゆっくりすることにした。
「ステータス オープン」
ソファーに座って一息つくと、気になっていたことを確かめるため、ステータスを開いた。
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和泉 瑠璃
癒しの聖女Lv.12
HP:823//1430
MP:1805//1825
魔法:聖属性魔法 Lv.MAX ・ 水属性魔法 Lv.39
風属性魔法 Lv.20 ・ 光属性魔法 Lv.20
火属性魔法 Lv.10 ・ 土属性魔法 Lv.10
闇属性魔法 Lv.5
スキル:鑑定 Lv.MAX ・ 癒しの子守り唄 Lv.10
料理 Lv.8 ・ 癒しのフォルテ Lv.3 new
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やっぱり………。
リリーちゃんが元気になったのも、新しいスキルのおかげだったのね。
地味にレベルその他も上がってる。
まあでも、すごく重病って感じではなかったし、ちょっと元気になるくらいなら良かったんじゃないかな?
うん、そういう事にしよう!
「それでレオン、どうだった?」
その頃、レオンハルトはエドワードやエレオノーラ、レイモンドに囲まれていた。
「なかなか興味深かったです。年長の少年達はルイス=アメジストに稽古をつけてもらっているようで、なかなか剣捌きが良く、騎士団に入隊の意欲がある者も……」
「そうじゃなくってよ!!!」
「…は?」
孤児院への慰問の感想を求められたと思い、つらつらと話したが、エレオノーラが頭を抱える様子を見て首を傾げた。
「そうではなくてですね…その、ルリ様と色々お話をしたり、一緒に過ごしてみてどうだったかと、聞きたいのです」
直球で聞かないと駄目だと悟っているレイモンドが、賢明にも瑠璃の名前を出して問う。
「…綺麗だと、思った」
「「「!!!?」」」
「魔法についての話を熱心に聞いてくれた時も、フォルテを弾いている姿も、子ども達に囲まれている時も、ルリの周りはキラキラしていて、見ていると穏やかな気持ちになる。…その反面、落ち着かない気持ちになることもあるが…」
これは…!!と三人が色めき立つ。
常に冷静で感情が表に出ないことから、青銀の騎士と呼ばれている彼とは、別人のようだ。
普段の彼からは想像もつかない程に悩ましい表情をしており、そしてそれは恋に悩む男のそれだった。
「レオン、ルリのことが好きか?」
信頼する兄からの、穏やかな声色での問いに、弟は静かに答える。
「…私はーーー」
「あれ?リーナちゃん寝ちゃった」
いつものように寝かしつけの絵本を読んでいる途中だったが、リーナちゃんが目を閉じて寝息を立てていた。
最近では子守唄がなくても穏やかに眠れることが増え、今日もおそらくそうなのだろう。
「きっと私が留守にしている間、頑張ってたんだよね」
近頃、本人の希望でエレオノーラさんやセバスさんからマナーを教えてもらう事にしたため、勉強の幅が広がっているようだ。
「それにしても、今日は楽しかったなぁ」
まるで、園で働いている時のようだった。
一緒に歌ったり、絵本を読んだり、子ども達の笑顔に囲まれるのが懐かしくて、嬉しかった。
もう戻れないかもしれない故郷を想って、私は自然とその歌を口ずさんでいた。
私は、油断していたのだ。
扉が少しだけ開いていたこと。
寝かしつけのこの時間は、髪をほどいていること。
口ずさんだその歌は、以前にも、ある人の前でだけ歌ったことがあったこと。
ーーー扉の外に、彼がいたこと。
それらに、気付けなかったから。
あと2話でとりあえず完結の予定です。




