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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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決着

八つの首を不能にされて、中央の首は怒りを露わにした。


その巨体に相応しくない、俊敏な動きで、レオンハルト、ウィル、イーサンの前衛三人を狙う。


しかし、お守りや黄華の支援魔法によってステータスを爆上げされた三人に、その攻撃は思うように届かなかった。


そしてそんなヒュドラに向かって、紅緒は攻撃魔法を撃ち、黄華も今度は紅緒の魔法攻撃力を上げようとしていた。


このままでは不利だと踏んだのだろう、ヒュドラは標的を変えた。


「!オウカ様、ベニオ様、危ない!」


「リオ、アルバート!」


すぐに気付いたウィルとレオンハルトが、四人に声をかける。


……が、ヒュドラの意思を理解するかのように、周りにいた魔物たちも四人の元へと、一斉に襲いかかる。


「っち!間に合わねえ!」


イーサンたちも大量の魔物の妨害に合い、助けに入れない。


それを見たヒュドラは、大きく息を吸い込むと、その大きな口を開いてブレス攻撃の姿勢を取る。


「冗談だろ!?」


「くっ……!」


「紅緒ちゃん!」


「ごめ、魔法、間に合わない!」


リオ、アルバート、黄華、紅緒がそれぞれ覚悟を決めた、その時。


「紅緒ちゃん、黄華さん、みんな!」


瑠璃の声が響いたのを合図に、紅緒の胸元から、眩い光が輝いた。


カッ!と強い光が四人を包み、それと同時にヒュドラの激しいブレスが吐かれる。


がしかし、そのブレスが紅緒たち四人を飲み込むことはなかった。


大きな魔法障壁が四人の前に現れ、ブレスから守っていたのだ。


「これ……リーナちゃん?」


紅緒の胸元では、リリアナから貰った、小さなピンクのお守りが輝いていた。


「リーナちゃんが、あたしたちを守ってくれた……?」


紅緒の呟きに応えるように、ピンクのお守りは、その輝きをたたえたのだった――――。






******


「紅緒ちゃん、黄華さん、みんな!」


最後の重体だという騎士さんに回復魔法をかけ終わり、ヒュドラとの戦いの方に目を向けた時。


紅緒ちゃんたちが魔物に囲まれ、なおかつヒュドラが何かの攻撃体勢に入っていた。


危ない、そう思って咄嗟に叫ぶと、紅緒ちゃんを中心に、眩い光が輝いた。


するとその光は、まるで紅緒ちゃんたちを守るかのように包み込み、ヒュドラのブレスを無効化した。


驚きに呆気にとられたが、今は呆けている時ではない。


「“範囲指定治療(エリアヒール)”!みんな、頑張って!」


魔物に囲まれていた紅緒ちゃんやレオンたちを、回復させる。


私にできるのは、回復。


重体者は回復させ終わった。


あとは、戦場全体を見て、傷を負った人たちを回復させる。


「ルリ様には魔法障壁、物理障壁の両方を施してあります。私もいますので、安心して回復に専念して下さい。ここが、正念場です」


アルのありがたい言葉に、頷きを返す。


「回復は任せて!みんな、頑張って!」


「っ、ありがとう、瑠璃さん!」


私の声が届き、紅緒ちゃんが大きな声で応える。


そして出し惜しみなんてしないとでも言うかのように、攻撃魔法を次々と放っていく。


そして、その真っ赤な瞳が金色に輝くと、特別だと分かる魔法の詠唱に入った。


「いい加減、わらわら湧いてくるこいつら、邪魔ね。――――“灼熱地獄(インフェルノ)”!」


紅緒ちゃんがそれを唱えた途端、物凄い爆発音と共に、暗い炎が魔物たちを包んだ。


そう、魔物たちだけ。


仲間の騎士さんたちや私たちを避けて。


「これで、ボス一体だけになったわ。後は頼んだわよ!」


「これはこれは――――恐れ入ったな」


「レオン、ルビー隊長!」


「首の誘導は私がする。イーサン、根本からいってくれ!」


紅緒ちゃんから託されたイーサンさん、ウィルさん、レオンがすかさずヒュドラに向かって行く。


お願い、これで――――。


自然と、祈るように組んだ手に力が籠もる。


そして。


ザシュッ!という鋭い音を立てて、ヒュドラの長い首が切り離された。


すると、すべての首を失った巨体はぐらりと傾き、ゆっくりと倒れていく。


「――――やった、やったぞ!」


「さすが団長だ!」


「聖女様たちのおかげだ!」


音を立てて崩れ落ちると、騎士さんたちから大歓声が巻き起こった。


その声にはっとして、私も慌てて紅緒ちゃんたちの所へ駆け寄る。


「紅緒ちゃん、黄華さん、レオン、みんな!」


「待って。喜ぶのはまだ早いわ」


抱き着くほどの勢いを、紅緒ちゃんが制した。


その指差す方を見ると、倒れたヒュドラの体から黒い塊がふわりと現れ出た。


「やはり、ありましたね」


「あれを何とかしないと、喜べないわよね」


そうだった、あの“核”を浄化しないといけない。


三人で頷き合って、黒い塊に向けて手をかざす。


――――と。


『おのれ……聖女、女神の手駒どもめ……』


「しゃ、しゃべった!?」


「待って下さい。何か言っていますわ」


核が話したことに驚く私に、黄華さんがしっ、と人差し指を立てる。


『もう少し……もう、少しだったのに……!あと少し、瘴気を溜めることができたら、我こそが、魔王に……』


魔王?魔王って……


『あ、ああ……次のカラダを見つけなくては……』


「これ以上はダメね。やりましょ」


そう言ってもう一度紅緒ちゃんが手をかざす。


それに続いて、黄華さんと私も同じように手をかざした。


鎮魂(レクイエム)


光の導き(ガイダンス)


浄化(ピュリファイ)


オルトロスの時と同じように、頭の中に思い浮かんだ呪文を唱える。


『あ、ああ……消える……我の、力が……カラダが……』


黒い核が、さらさらと真っ白な粒子に変わり、天井から降り注ぐ光に導かれて、すっと登っていく。


あとに残ったヒュドラの体と首も、黒い砂へと変わり、やがて消えていった。


そして、洞窟が静寂に包まれる。


「――――終わった、わね」


紅緒ちゃんのその言葉で、周囲からまた歓声が上がった。


浄化の神秘的な光景に、騎士さんたちも目を奪われていたようだ。


「ルリ様、お疲れ様です」


「アルも。ありがとう、守っていてくれて」


それに、リーナちゃんも。


紅緒ちゃんたちを守ってくれて、ありがとう。


ラピスラズリ邸にいるだろうリーナちゃんに、心の中でお礼を言う。


「瑠璃さん、黄華さん、ありがとぉぉ!」


アルとほっと息を吐いた時、紅緒ちゃんが泣いて抱き着いてきた。


「あらまあ。気が抜けちゃいましたか?」


「ううっ!よ、かった……誰も、死んでない、よね?」


先程の凛々しい姿とは打って変わって、ぐすぐすと鼻を鳴らしながら周りを見渡す紅緒ちゃんに、騎士さんたちからも笑みが零れる。


「はい!赤の聖女様のおかげで、皆、無事です!」


「ケガ人も、青の聖女様が治してくれました!」


「黄の聖女様のおかげで、魔物たちに負けずに済みました!」


「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」


騎士さんたちの元気な声に、今度こそ紅緒ちゃんが号泣する。


「もおっ!ダメかと思っちゃった、けど。みんなの、おかげで、何とかなったわよ!ありがとう!!」


わあわあと泣きながらお礼を叫ぶ紅緒ちゃんを、たくさんの騎士さんたちが囲む。


「ルリ、来てくれてありがとう」


「レオン!良かった……ケガ、してない?」


大丈夫だと微笑むレオンも、戦いが終わって、いつもの優しい表情に戻る。


和やかな雰囲気に包まれたその時、聞き覚えのある声に、突然呼ばれた。


「お疲れじゃったな。ほんに、ようやってくれた」


声のした方を振り向くと、そこには――――。


「め、女神様!?」


創世の女神様が、そこには立っていた。

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