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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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短期決戦

「ふたりとも、ありがとう。さあ、あたしの服を掴んで!」


影から現れた紅緒ちゃんは、そう言ってすぐに私たちを呼んだ。


良かった、作った毒消しの薬たちをアルが持ってて。


アルに目をやり、互いに頷くと、紅緒ちゃんに駆け寄る。


その時、紅緒ちゃんの視線の先には――――陛下がいた。


苦い顔をしながらも、黙って紅緒ちゃんを見送るために、唇を噛んで耐えている。


そして紅緒ちゃんも、私たちが服の裾を持ったのを確認すると、再度陛下に目を向ける。


「ありがとう、我儘を聞いてくれて」


泣きそうに、消え入りそうな声で、そう囁いたのが、すぐ近くにいた私たちにはちゃんと聞こえた。


そんな紅緒ちゃんの言葉に、陛下が目を見開いた。


それだけで陛下との一瞬の再会を終え、紅緒ちゃんが私たちに声をかける。


「じゃあ、行くわよ。覚悟は良いわね」






「っ!レオン、みんな!」


転移した先は、ヒュドラとの戦闘の真っ只中だった。


少し離れた場所だからこそ、全体が見えて、どれだけの被害が出ているのかが分かる。


「とりあえず瑠璃さんは、広範囲の回復魔法をお願い。ルイスさんも……。その後は、回復中心に支援してほしい。それと、黄華さんは……」


「分かっていますわ!“鑑定”」


紅緒ちゃんが言う前に、黄華さんがヒュドラに向けて鑑定をかける。


そうか、黄華さんは……。


「アル、私は支援に回るから、護衛をお願い」


「はい!必ず、ルリ様には傷ひとつ許しません」


ふたりは、私よりも戦いに慣れている。


それならば、私は自分の役目に集中しよう。


「“範囲指定治療(エリアヒール)”!みんな、頑張って!」


「青の聖女様、こちらへ!ルイスが……」


「!案内して下さい!」


ヒュドラはきっと、みんなが倒してくれるから。





******


瑠璃が紅緒たちの元を離れ、傷を負った騎士たちの治療に向かうのを、紅緒と黄華は横目で確認する。


「さすが瑠璃さん」



「ええ。こちらも、分かりましたよ。あのヒュドラの弱点、中央の一際大きな首です!それ以外の首は再生するので気を付けて下さい!」


黄華の鑑定――――それは、相手の弱点が見える。


「何だぁ!?さっきから切っても切ってもすぐに傷が治りやがると思ってたら……くそ、騙されたぜ!」


黄華の言葉を聞いて、イーサンが悔しさを滲ませる。


「しかし、周りの首を何とかしないと、中央の首には届かないぞ」


そこにレオンハルトの冷静な意見が飛ぶ。


「オウカ様、他に情報はありませんか?」


ウィルもまた、敵からの攻撃を躱しながら、黄華の言葉に耳を傾ける。


「少し待って下さい。……切り口ですが、炎で焼いてしまうか、凍らせてしまえば、再生を止められるようです」


「なら、副団長と第三の団長は、首を切り倒して!私とラピスラズリ団長の魔法で再生を止める!」


「いえ、私は氷の魔法剣で切り倒し、凍らせます。赤の聖女様はふたりに付いて下さい」


黄華の鑑定結果を聞いて、紅緒が素早く判断を下し、レオンハルトも意見を出す。


「おう!」


「分かりました」


イーサンとウィルもまた、迷いなく返事をする。


「ルリ様のかけてくれた治療(ヒール)のおかけで、体力も戻りましたしね」


「ああ。赤の聖女サマが、自分の婚姻を差し出してまであのふたりを喚んで来てくれたんだからな。おい、お前等!聖女サマに守られてばかりじゃいられねぇぞ!踏ん張れよ!」


そして、騎士たちを鼓舞する。


それを聞いた騎士たちの士気を上げるには、十分だった。


陛下との婚姻を認めてもらうためには、黄と青の聖女様の力を借りるわけにはいけなかった。


それでも、自分たちを守るために、迷うことなくふたりを喚んでくれた。


それが、どれだけ騎士たちの心を打ったか。


「赤の聖女様の指揮がどれだけ素晴らしかったか、俺たちが証明しないとな!」


「そうだ!赤の聖女様の決断を無駄にするわけにはいかねえ!」


その上、瑠璃が体力を回復してくれ、黄華がステータスの底上げをしてくれている。


その状況で、負けられる訳がない。


それに……。


「俺たちには、待っててくれている家族もいるんだしな」


「死ぬわけにはいかないよな」


それぞれが家族や恋人から贈られたお守りをぎゅっと握りしめる。


「そうだ!それにベニオ様以外に、王妃に相応しい方なんているわけがないからな!行くぞ、お前等!」


 「「「おお!!」」」


騎士たちの心が、ひとつになる。


「……聞こえましたか?紅緒ちゃん」


「……っ、聞こえた、わよ!分かってるくせに、聞かないでよ」


泣くのは全て終わった後だ。


黄華の微笑みを見て、今はその時ではないと、紅緒は乱暴に目尻を拭う。


「毒や呪いまで使うことを考えたら、短期決戦しかないわね」


「ええ。首を斬る三人の方のステータスを、爆上げしてみせますわ」


ヒュドラに、一瞬の隙も与えない。


向こうが数ならば、こちらは質と速さで。


「魔力切れを起こさないでよ」


「紅緒ちゃんも、張り切りすぎないで下さいね。――――来ましたよ!」


そして、誰も死なせずに勝利を。


それこそが、紅緒とカインに送る最善の結果だと、この場にいる全員がそう考えて、戦いに臨むのであった。

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