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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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矜持

「紅緒ちゃん!?力を貸してって……何か用意してほしいものがあるの?」


戦闘しながらの通信なのだろう、うしろから剣撃の音や魔法の破裂音などが聞こえる。


「ちがっ……追加の、ポーションとかもあると嬉しい、けど!『火炎柱(ファイアーウォール)!』そう、じゃなくて……」


恐らく魔法攻撃魔法を放っているのだろう、戦いながらの会話は、なかなか進まない。


向こうの状況は、かなりひっ迫しているようだ。


余裕がないのが分かる。


紅緒ちゃんが何を望んでいるのか、よく分からなくて焦っていると、そこへ慌てた様子の陛下が現れた。


「おい!どうした?通信か!?」


『その声は……カイン?』


「ベニオ!?どうした、何があった!?」


紅緒ちゃんも気付いて、陛下の名前を呼ぶ。


いつも魔王だのあいつだの言っていたのに、ちゃんと名前で。


『ごめん、正直に言う。あたしひとりでは無理。どうしても黄華さんと瑠璃さんの力が必要よ。……騎士が、大勢瀕死状態なの。……ルイスさんも』


瀕死状態、という言葉に、その場にいた私たち全員がさっと青ざめる。


瀕死……しかも、大勢。


それに、ルイスさんもだなんて……。


脳裏に、クレアさんとルイスさんの姿が浮かぶ。


覚悟はしてるって言ってたけど、でも、だからって……。


『団長さんと副団長、それに第三の団長は何とか戦ってる。ポーションのおかげで、死者までは出てない。でも……っ!』


「おい!大丈夫か!?」


通信の先で衝撃音がして、陛下が大きな声で紅緒ちゃんの無事を確認する。


大丈夫との返事があり、みんなでほっと息をついた。


「とにかく、これ以上戦いに時間をかけるのは、危険だわ。意識の無い重体者もいるの。みんなの消耗も激しい。黄華さんと瑠璃さんがいれば、この状況を覆せる!」


私も、黄華さんも、行きたいとは思ってる。


だけど……


「だけど、シリルさんの試練は……?」


紅緒ちゃんが認めてもらえる、またとない機会。


しかし、私たちの戦闘不参加が条件だ。


『……そうね。そうだったわね』


陛下も唇を噛み、ほんの少しの間の後、紅緒ちゃんがふうっと息を吐いた。


『だけど、あたしは、いくつもの命を足蹴にしてまで、認めてもらいたくなんてないわ。今回はだめでも、また何か考えればいい。人の命に、やり直しなんてないんだから。いくつもの命を犠牲にして手に入れた王妃の座なんて、クソ食らえよ!』


必死な紅緒ちゃんの声に、胸が震える。


ああ、やっぱり紅緒ちゃんは強い。


「……そうだな。それでこそ、俺が選んだ女だ」


それまで黙って話を聞いていた陛下が、ゆっくりと顔を上げる。


「アルフレッド=サファイア、リオ=ペリドット。アレキサンドライト国王、カインの名において命じる。黄の聖女並びに青の聖女に付き添い、ヒュドラ討伐の援軍として向かえ。――――絶対に、こいつらを死なせるな」


「「はっ!」」


威厳のある、しかし少しの苦しさを滲ませた声で、陛下がアルとリオ君に命令した。


そして、ふたりもそれに傅いて応えた。


それを認めると、陛下は私と黄華さんの方を向いた。


「――――行って、くれるか?」


「はい!」


「陛下が許さなくても、行かせて頂きますわ」


私たちの返事に、陛下は頼もしいなと僅かに笑う。


「……ベニオ(あいつ)を、騎士たちを、頼む」


きっと、今一番駆けつけたいと思っているのは陛下だ。


その気持ちに報いるためにも。


「必ず、みんな揃って帰ってきます」


願わくば、笑顔で。


『……ありがとう、カイン。じゃあ、今からそっちに迎えに行くわよ!』


その言葉の一瞬後、足元の影から紅緒ちゃんの姿が現れた。






* * *


紅緒の魔法で瑠璃たちが遠征先へと転移した後、カインはしばらくその場に立ちすくんでいた。


一瞬だけ見せたその姿。


ありがとう、と泣きそうに囁いた声。


紅緒がその決断をしたことを、カインは誰よりも誇らしく思っていた。


「……宜しかったのですか?彼女たちを戦場に転移させて」 


そこへ、静かに近付いてきたのは、シリルだった。


普段の胡散臭い笑みとは違う、無表情で。


「では聞くが、騎士たちの命を犠牲にして戻ってきたあいつを、お前たちは認めるのか?」


クソ食らえだわ!と言い切った紅緒。


どこかの聖女にも言われたことがあったなと、カインは思い出す。


「……結局、何もしてやれないのは、俺だけだということだ」


自嘲気味に笑うカインを見て、シリルは何と声を掛けようかと悩みながら、口を開こうとした。


「だが、あいつらの、ベニオの努力と決断を無駄にはしない。あいつらは必ず無事に戻って来る。ならば、俺がしなくてはいけないことは他にある」


シリルが言葉を発する前に、カインは顔を上げて、はっきりとそう言った。


迷いもなく、彼女たちを信頼していると、その目が語っていた。


そんなカインを、シリルはまるで懐かしい光景を見るかのように、目を細めて見つめる。


『いつか――――』


「……おい、どうした?」


遠い過去を思い出していると、カインが訝しげに覗き込んできたのに気付き、シリルははっと我に返る。


最近のシリルは少し変だと思いながら、カインは一歩身を引く。


「……俺は、一応お前のことも信用している。お前からしたら、俺はまだまだ不甲斐ないから、信頼するに値するような人間ではないのかもしれないが……」


シリルの目をしっかりと見て、カインは言った。


そのあまりに予想外の言葉に、シリルは珍しくも、しばらく呆けてしまった。


そんなシリルの反応に、カインはふっと息を零すと、護衛を伴ってその場から立ち去った。


取り残されたシリルは、物憂げにその背中を見つめる。


「女神よ。彼女たちに、祝福を」


どうか無事に戻って来てほしい。


その呟きは、紛れもなくシリルの本音だった。





******

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん……そう簡単には討伐出来ませんでしたね(´д`|||) 流石にこれ以上は無理だと考えた紅緒ちゃんは英断だと思います(# ゜Д゜) >>いくつもの命を犠牲にして手に入れた王妃の座なんて、…
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