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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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無力

******


討伐隊の状況を聞いた後、シリルは早足で廊下を歩き、自身の執務室へと向かった。


そして扉を閉め席につくと、一人きりになったのを確認して、はあっと大きく息を吐いた。


「黒い核は、もうずっと、”器”を変えて生きてきたのか……?」


小刻みに震える手を、ぐっと組んで落ち着かせようとする。


「今度こそ、約束を守りたいんだ。どうか、聖女たちよ」


この国を、護ってくれ。


シリルの心からの願いに応える者は、誰もいなかった――――。





「シリル宰相、焦っていたわね」


「ああ。あいつのあんな顔、初めて見たな」


解散した後の執務室で、カインとシーラは先程のシリルについて、話をしていた。


「……あの人、いつも何考えてるか分からないけれど、人間らしいところもあったのね」


「あいつは、俺ではない、国に忠誠を誓っている。父王の代でもそうだった。父も言っていたよ、『あれが心から敬い、仕えているのは自分ではないのだろう』と」


では、誰に?


その疑問の答えは、ふたりには分からなかった。


******


あの後、私達は各々ができることをするために解散し、私はヴィオラちゃんとアーサー君の元へと向かった。


毒消しの薬を作っているとの話は聞いていたので、その手伝いに。


材料が稀少だし、調合が難しいって言っていたけれど、私の聖属性魔法の効果で、手伝いができるかもしれないと思ったから。


予想通り、私の能力は毒消し薬作りにも生かすことができ、野営の時にでも紅緒ちゃんに通信で知らせて、取りに来てもらおうということになった。


運搬役みたいで申し訳ないけど……。


転移魔法なんて紅緒ちゃんくらいしか使えないし、仕方がない。


そうして今日は心配だから、王宮に泊まらせてもらうことにした。


黄華さんが一緒にと誘ってくれたので、部屋にお邪魔することに。


夕方、毒消し薬作りを終え、アルに黄華さんの部屋へと案内してもらう途中、バタバタと慌ただしく騎士さんたちが駆けていく姿が見えた。


?どうしたんだろう、ひょっとして紅緒ちゃんたちに何か……。


嫌な予感がして立ち止まった時。


「瑠璃さん!」


「黄の聖女様?」


「黄華さん?何かあったんですか!?」


珍しく焦った様子の黄華さんと、リオ君がこちらに向かって走って来た。


息を切らす黄華さんに、私とアルもどうかしたのかと駆け寄る。


「べっ、紅緒ちゃんが……」


「怪我でもしたんですか!?」


ある程度の怪我ならポーションで治るはずだ。


ひょっとして、重症――――そう考えかけると、黄華さんがいいえ!と首を振る。


「団長さんや紅緒ちゃんは今のところ無事です!ですが……騎士のみんなが!回復にも手が回らないみたいで……」


「!どうして!?ポーションはたくさんあるはずなのに!」


「それが……ヒュドラを追って洞窟に入り、戦闘になったらしいのですが、突然、大量の魔物が発生したらしくて……。ポーションも、飲んだり傷口にかけるのにスキができるので、なかなか……」


私の質問に、リオ君が答える。


なんてことだ。


僅かだがかかってしまう回復までの時間。


それが、ここで問題になるなんて。


「水属性の回復魔法と、紅緒ちゃんの広範囲攻撃魔法で時間を稼いでポーションで回復をしているそうですが、なかなか埒が明かないみたいです」


「応援は?呼んだのですか?」


「それが……」


アルの質問に、黄華さんが言いにくそうに口を開いた。


報告役の魔術師さんからの通信によると、まず毒の耐性のあるお守りを持つ者で隊を組み、ヒュドラの後を追ったそうだ。


その後、洞窟を発見した際に、仲間をその周囲に総動員した。


まずは先行部隊だけで洞窟に入ったところ、少し奥まったところでヒュドラに遭遇。


大量の魔物もいたため、外で待機している者たちも呼び、戦闘に入った。


幸い、毒を使うのはヒュドラのみだったので、耐性のない者たちは周りの魔物を相手しているのだが、剣で切っても魔法で打ち払っても、魔物たちは次から次へと湧いて出てくる。


紅緒ちゃんの広範囲攻撃魔法のおかげで何とか凌いでいるが、時間がかかれば、こちらの不利は明白だ。


肝心のヒュドラはというと、毒耐性の人達の支援を受けながら、レオンやイーサンさん、ウィルさんなど、国で一二を争う手練れたちが相手をしているのだが、九つの頭を持つヒュドラに、かなり苦戦しているらしい。


レオンは私が魔法を付与したラピスラズリを持っているから、ちょっとやそっとでは倒れないだろう。


イーサンさんも、ベアトリスさんが作ったお守り――――物理防御力と魔法防御力五倍の石入り――――を持っているから、多少の攻撃では傷付かないはずだ。


だけど、こちらもやはり長時間の戦闘になると、不利だ。


「黄華さんの、支援魔法があれば……」


「瑠璃さんの、広範囲回復魔法が使えれば……」


でも、私たちはその場に行けない。


「くっ!宰相殿の試練さえ、なければ」


アルとリオ君も顔を顰める。


紅緒ちゃんに、転移魔法で連れて行ってもらうことは簡単だ。


でも、それではシリルさんの試練を乗り越えたことにはならない。


どうしたら――――。


黄華さんとふたり、何もできないことが歯痒くて、目に涙が溜まる。


ぎゅっと手を組んで、心を落ち着かせようとしていた、その時。


『黄華さん、瑠璃さん!お願い!力を貸して!』


必死な声で叫ぶ、紅緒ちゃんの声が聞こえた。

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