孤児院
本日2話目の投稿です。
なかなか前に出ないヒーローですが、彼なりの事情がありますので、温かく見守ってあげて下さい…。
「こんにちは、皆さん。今日は私のお友達も一緒に遊びに来ましたよ。ルリ先生です。仲良くして下さいね」
「こんにちは!みんな、今日はたくさん一緒に遊ぼうね!」
この孤児院には、下は3歳から上は15歳までの子ども達がいる。
この国では16歳から成人とみなされるので、15歳を過ぎるとみんな働き口を見つけて、巣立つらしい。
「わあ…めがみさまだぁ」
「バーカ、クレア先生の友達って言ってただろ?そりゃ、確かに童話の女神様に似てるけど…」
んん?
「ルリ様、この国にある童話に、夜の女神様が出てくる話がありまして。ルリ様の色合いがその女神様に似ているんですよ」
クレアさんがそっと教えてくれた。
へぇ…確かに銀髪に濃紺の瞳なんて夜のイメージだもんね。
残念ながら中身はただの一般アラサーですけど。
「さあ、では今日はルリ先生がみんなの好きなお歌を弾いてくれますからね。一緒に歌いましょう」
「「「はーい!!」」」
うわ、可愛い。
年長さん達も小さい子達の側に付いて歌ってくれている。
クレアさんに色々楽譜をもらっておいて良かった。
この国の歌なんて全然知らないもの。
明るい曲調の歌が終わると、孤児院の先生やルイスさん達から拍手が上がる。
「では次は聞く番ですよ。静かにね」
クレアさんの一声で、子ども達はお行儀良く座った。
ちょっと緊張するけど、聞いてもらえるのは嬉しい。
一生懸命弾こう。
ひとつ息をつくと、そっと鍵盤に指を置く。
奏でるのは、夜空に浮かぶ、月の曲。
元の世界で、大好きだった曲。
「ルリさん、フォルテ上手だね。ますます貴族じゃないってのが不思議だよ」
「聞いたことのない曲だったが、美しい音色だったな」
「素晴らしかったです、ルリ様。子ども達もあんなに聞き入って。年長の子達なんて、涙ぐんでいましたよ」
「あはは…そんなに褒めてもらえる程の腕前では…。それより、クレアさんの弾いた曲、とってもかっこ良かったですね!あんなに指が回るなんて凄いです!!」
フォルテ演奏会が終わり、皆からお褒めの言葉を頂いてしまった。
久々だったけど、楽しかった。
「ではこの後は子ども達と暫く遊ぶ時間なのですが…ルリ様、色々用意して下さったのですよね?」
「はい、手作りの絵本を色々持って来てみました!」
「チビ達が喜びそうだね。じゃあ団長、年長男子と剣の稽古でも俺と一緒にどうですか?」
「…私も?」
「ああ、宜しいのではないでしょうか。年長の女子達も麗しい騎士様の立ち回りは喜ぶでしょうし」
ということで、二手に分かれることに。
クレアさんと読み聞かせの準備をしていると、院長先生が先程まではいなかった小さな女の子を連れて来た。
「すみません、クレア様。この子も、よろしいですか?」
「リリー?あなた、起きて大丈夫なの?」
病気がちなのだろうか、院長先生に支えられながらゆっくりと歩くその子は、ニコリと笑った。
「うん。ねてたんだけど、みんなのうたと、ふぉるてのおとがきこえて。なんだか、きぶんがいいの」
「顔色も良いし、物語を聞かせてくれるということで連れて来たのです。たまには参加させてやりたくて」
そうか、きっと病気がちな子なのね。
それならなおのこと、楽しんでほしい。
「うん、ここで座って見ていて。気分が悪くなったら、すぐに教えてね」
リリーちゃんをクッションに座らせ、皆を集めて読み聞かせを始めた。
まずは手遊びから。
歌に合わせて指や手を動かすこの遊びは、指先の運動にもなって脳にも良いらしい。
子ども達も初めての遊びに目を輝かせていた。
簡単なものが多いから、すぐに覚えるだろう。
先生達にも覚えてもらって、是非取り入れてもらいたい。
手遊びが盛り上がったところで、絵本を取り出す。
「なぁに、それ?」
「絵本、っていうのよ。お話を聞きながら、絵を見ていってね」
「「「面白そうー!!」」」
とりあえず男の子向きの冒険のお話と、女の子向けのお姫様が出てくるお話をチョイスした。
これが大当たり!
みんな夢中になって食い入るように見てくれた。
リリーちゃんも途中で気分が悪くなることなく、最後まで楽しんでくれていて、読み終わった後、たくさん拍手してくれた。
「皆さん、ありがとうございました。子ども達のあんなに楽しそうな顔が見れて、私達も嬉しかったです」
予定の時間を終え、私達は院長室でお茶を頂いていた。
ちなみに年少の子ども達はお昼寝の時間だ。
「それにしてもルリ様が子ども達の相手にすごく慣れていて、驚きましたわ。大人数を相手にするのはなかなか難しいのですが。さすが、ラピスラズリ家の家庭教師殿ですわね」
「いえ…たまたまですよ」
そりゃあ慣れていますよ、とは言えない。
それに元の世界に比べたら、この国の子達は聞き分けが良いし、とてもやり易かった。
色んな親と子がいたからなぁ…。
しみじみと思い出に耽っていると、そう言えば、と院長先生がリリーちゃんのことを教えてくれた。
「珍しくあの後もベッドに横にならず、ルリ様が寄付して下さった絵本を熱心に読んでいました。疲れたのではないかと心配だったのですが、食欲もあって、ここ最近で一番元気そうな様子に驚いています。」
「ええ、私もあんなに顔色の良いリリーは初めて見ました。ふふっ、ルリ様のおかげかもしれませんね」
えええ、そんなことないと思うのですが…。
でもなんかこの感じ、身に覚えが…。
後でステータス覗いてみよう…。
「ええと、レオンハルトさんとルイスさんはどうでしたか?剣を教えていたんですよね?」
「ああ、なかなか筋の良い子が多いな。騎士団を目指している子もいるらしい」
「うん。団長が男の子達に尊敬の眼差しで見つめられ、女の子達からは黄色い声援を浴びてたよ」
ふっ、とルイスさんが遠い目をした。
…色々あったらしい。
「あ、でもルイスさんも小さい子たちに人気ありますよね?読み聞かせの後、みんながルイスさんに一直線、って感じで微笑ましかったです」
「おもちゃにされていた、という表現でも宜しいのですよ?ルリ様」
「姉上、ひどい!」
あはは、と笑い声が上がる。
ああ、楽しい。
また、来たいなーーー。




