行方不明
あっちもこっちも短くて……
すみません(T_T)
その翌日。
アルと一緒に王宮を歩いていると、廊下でシリルさんに会った。
「おや。青の聖女様、偶然ですね」
いつものように話しかけてくれて、挨拶を交わす。
こんな風に、にっこりと笑いかけてくれるシリルさんは、どう見ても優しいおじ様なんだけど……。
……隣のアルからも、なんとなく警戒の空気が感じられる。
でも、オリビアも悪い人じゃないって言ってたしなぁ。
そうしてしばらく何でもない会話をしていると、そう言えばとシリルさんの口から、討伐の話題が出た。
「今のところ危険はないようですが、少し難航しているようですね。早く進展があると良いのですが」
その表情と口調からは、紅緒ちゃんと陛下のことをどう思っているのか、分からない。
だけど、どうしてだろう。
何となく、圧を感じるのは。
「国のために、良い結果となると良いですね」
すれ違いざまにそう囁かれて、ぞわっと服の下の肌が粟立つのが分かった。
ふらりと体勢を崩した私を、咄嗟にアルが支えてくれる。
「大丈夫ですか!?……あの方は、相変わらず考えが読めない。あまり油断しないで下さい」
なぜ私は、今までシリルさんのことを、ただの優しい人だと思えていたのだろう。
あんなに温度の低い声、初めて聞いた。
「まあ、そうですわよね。一国の宰相が、ただの優しい人なわけはありませんわよね」
「そうよ。あいつ、見た目詐欺の腹黒狸ジジイよ。ルリ、気を付けなさい」
「あ、はは……分かりました」
シリルさんに遭遇した後、今日も今日とて私と黄華さんは、シーラ先生のところにいた。
遠征組が出発してから、この三人で集まることが多いのだ。
先程のことをふたりに話すと、呆れたように注意されてしまった。
どうやらこのふたりは、シリルさんに良い印象を持っていないみたい。
まあシーラ先生はその生い立ちからも、これまでに色々あったんだろうけど……黄華さんは?
「あの方、視えにくいんですのよねぇ。オーラがぼやけていると言いますか……。とにかく、得体の知れないものを感じます」
眉間に皺を寄せてそう語った。
得体の知れない……って、ちょっとホラー?
とにかく、あの人当たりの良さそうな笑顔は、シリルさんの本性じゃないって思ってるみたい。
でも、オリビアは悪い人じゃないって言ってたし……。
確かに、ただの優しい人じゃないってのは分かったけれど、私もちょっと怖いとは思いつつも、悪い人だとは思わないんだよね。
オーラで人の悪意が見える黄華さんだって、シリルさんからそれが感じられるって言っているわけじゃないし。
でも、じゃあ紅緒ちゃんたちの味方かと言われると……?
「うーん……分からないなぁ」
「なあに?シリル宰相のことが気になるの?」
シーラ先生が顔を顰めている。
「まあ確かに悪い奴ではないかもだけど、腹黒だし、何考えているか分かんないのよね」
……やっぱり色々あったのだろう。
でも、そんなシーラ先生でも、“悪い人ではない”と言っている。
「シリルさんは、何をしようとしているのかな……」
『国のために、良い結果となると良いですね』
あれは、何を思って言った言葉なんだろう。
その、真意が分からない。
しん、と三人で押し黙っていると、そこに突然、通信の音声が聞こえてきた。
『団長!聞こえますか!?』
はっ、と三人が顔を見合わせる。
「遠征に同行している魔術師団の者からだわ。どうしたの?何かあった!?」
『それが……大変なんです!』
シーラ先生に応える、その切羽詰まったような声に、私と黄華さんも息を飲む。
「落ち着きなさい。それで、何があったの?」
『す、すみません。その、緊急事態なんです。ヒュドラが……』
「現れたの!?」
標的が現れたとの知らせに、私たちは揃ってソファから立ち上がる。
『はい、ラピスラズリ団長が率いる先行隊が遭遇したようなんですが……』
「レオンが!?」
その名前に、居ても立っても居られず、声を上げる。
「ルリ、気持ちは分かるけど落ち着いて。それで?レオンたちと戦っているの?」
『お、恐らく……』
恐らく?
どういうこと?
『その、急に霧が濃くなって……。先行部隊が、姿を消してしまったように全く見えなくなってしまったんです。それどころか、声や、物音すらも聞こえず……。どこにいるのか、不明の状況です』
「レオンたちが、消えた……?」
「っ!?ルリ様!」
「瑠璃さん、しっかりして下さい!」
がくりとソファに崩れ落ちた私の耳には、アルと黄華さんの声が、遠くに聞こえたのだった――――。




