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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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愛称

紅緒ちゃんたちが出発して、二日が経った。


目的の魔物が出る森までは、片道四日程度。


今ところ特に問題はなく、順調に進んでいるらしい。


僅かな時間だけれど、夜にレオンや紅緒ちゃんが通信で連絡してくれて、向こうの様子を教えてくれる。


だがら、向こうの状況が分からなくて不安になることはない。


「だけど、待っているだけってすごく虚しい……」


「なら、さっさと手を動かして下さい」


肩肘をついてはぁとため息を零す私に、ずばっと突っ込みを入れたのは、ヴァイオレットちゃん。


今日は、来週王宮で行われる、ヴァイオレットちゃん主催のお茶会、そのお手伝いに来ていた。


レイ君やリーナちゃんも招かれているもので、もし良かったら色々とアドバイスをくれないかと、ヴァイオレットちゃんから声をかけられていたのだ。


そこで私が提案したのは、テーブルに置く名札。


結婚式なんかでよく見るあれだ。


私も元の世界で何度か招かれて出席したのだが、名札の裏に、一言だが新婦である友人からのメッセージが書かれていて、感激したことがある。


仕事に新生活の準備にと忙しい中、来てくれた人をもてなしたいとの心配りに、胸が温かくなった。


もしも王妹であるヴァイオレットちゃんからの、直筆のメッセージがあったら……。


きっと、招かれた人は驚き、喜ぶのではないだろうか。


そう思って提案してみたのだが、これが意外と乗り気だからびっくり。


カードを手作りする人もいると伝えれば、やってみたいと言ってくれた。


というわけで、こうして私も手伝っていたのだが、遠征隊のみんなのことが気になって、手元が疎かになってしまっていたようだ。


「ご、ごめんなさいヴァイオレットちゃん」


慌てて謝れば、ちらりと横目で見られ、はあっとため息までつかれた。


「……他の者がいる時は、ちゃん呼びは止めて下さいね?」


あああ!私ったら、いつの間にか殿下呼びを忘れていた!


心の中でちゃん呼びしていたから、つい!


「べっ、別に私とアーサーだけの時は構いませんけどね!?一応あなたは聖女様ですし、王族と変わらない地位にいますから、不敬ではありませんし!」


「つまり、気安く呼んでくれても構わないってことだよね?姉様?」


ヴァイオレットちゃんがまくし立てるように話していると、そこへアーサー君もやって来た。


用事が済んだら僕もやりたいと言ってくれたので、呼んでいたのだ。


そんな弟の言葉に、ヴァイオレットちゃんが真っ赤な顔をする。


「そうなんですか!?わ、嬉しい!」


「ヴィオラ……」


「え?」


気を許してくれた感じが嬉しくて、笑顔を返すと、ヴァイオレットちゃんが何やら呟いた。


「……っ!さすがにちゃん付けは無理ですが、皆の前でも、ヴィオラって呼んで下されば結構ですわ!」


どうやら愛称で呼んでも良いとのことらしい。


「えっと、ヴィオラ殿下、でよろしいですか?」


「良いですわ!いちいち確認とらなくも良いですから!ほら、手を動かして下さいルリ様」


ぷいっと顔を逸らすヴィオラちゃん、かわいいぞ。


それに、なんだかちょっと紅緒ちゃんに似ている気がする。


最近まであまり仲良くなれなかったと聞いていたが、似すぎていて上手く歩み寄れなかったってやつかな?


ふたりとも素直じゃないからなぁ……。


あとは、大好きなカイン陛下(お兄ちゃん)を取られるかもって、ヴィオラちゃんがヤキモチを焼いたせいってのもあるよね、きっと。


まあとりあえず、互いにずいぶん心を開いてきたみたいだし、良かった。


今回も、遠征のためのポーション作り、頑張ってくれてたもんね。


好きな人たちが仲良しって、やっぱり嬉しい。


「……また手が止まってますわよ」


「あ、ごめんなさい。つい」


そのヘラヘラした笑みで見つめるのも止めて下さい!と怒られたが、照れているだけだと分かれば、微笑ましいだけだ。


そして、そんな私たちを見て笑うアーサー君も、随分表情が豊かになったと思う。


今回のお茶会で、ふたりにもお友達ができると良いな。


もちろん、レイ君やリーナちゃんとも、仲良くなれると良いな。


どうか、お茶会が成功しますように。


そう願いを込めながら、名札作りの手を動かし始めた。






「王弟殿下と王妹殿下とは、随分と楽しそうにされていましたね。扉の外にもよく声が響いていましたよ」


「うん、楽しかったよ。ふたりとも緊張はしてるけど、お茶会には意欲的みたい。友達ができると良いですねって言ったら、ヴィオラ殿下が真っ赤な顔してたわ。本当は、ずっと友達がほしいって思ってたのかもね」


ラピスラズリ邸への帰り道、馬車の中でアルと今日のことを話していると、驚いたような顔をされた。


あれ?私、なにか変なこと言ったかしら?


「いつの間に王妹殿下を愛称で呼ぶようになったのです?」


ああ、そのことか。


つい先程からだと答えれば、そうですかと苦笑いされた。


なによ、別に悪いことでもないでしょうに。


「いえ、悪くはありませんが……。ただ、相変わらず着々と人をたらし込んでいるなぁと思っただけで」


言い方!交流の輪を広げているとか言ってよ!


「そうは言いましても。王妹殿下が愛称で呼ぶことを許しているのは、今まで陛下とアーサー殿下だけでしたからね。貴女を特別に思っていることは、間違いないでしょうね」


「ああ、そっか。でも……」


うーんと少し考えて、口を開く。


「それはきっと今だけで、今度のお茶会とかで、愛称で呼び合えるような友達がすぐにできるよ。これから外に出る機会も増えるだろうしね」


あのふたりにも色々あって、今まではあまり人と関わろうとしなかっただけだもんね。


「ふたりとも、すごく良い子だもの。きっと、仲良くなれる子がすぐ見つかるよ」


良い人の周りには、良い人が集まるものだ。


本人たちが勇気を出して踏み込もうとすれば、きっと。


「それで、仲良くなった子を紹介してもらうのが、今の私の楽しみ。ふふ、どんな友達を連れてくるのかしらね?」


その時は、陛下にも教えてあげないとな。


それを想像して、にまにまとしていると、アルがはぁっと息をついた。


「まあ、そうですね。その“特別”を、特別視しないのがルリ様でしたね」


「特別な人なんて、これからいくらでも増えるわよ。あの子達は、これからなんだから」


脱力したアルに、私はきっぱりとそう言うのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 瑠璃さんはまさに人誑し…………( ̄▽ ̄)b ホント、老若男女関係なしですねぇ(´・ω・`) ヴィオラちゃんのツンデレが可愛いwww(///∇///)
[良い点] 友達って大事ですよね…殿下達にも友達100人作ってほしい。 [気になる点] 瑠璃先生も頑張って社交界で大きなお友達作らないとね^^
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