魔法講座
暫く辻馬車に乗り市井に着くと、そこは活気に溢れていた。
孤児院まで、少し歩くらしい。
二人で並んで歩いていると、女性の視線がビシビシ当たって辛い…。
すみません、美形の隣がこんな女で。
「レオンハルトさんは、王宮に勤めてらっしゃるのですよね?第二、と言うことは騎士団にも種類があるのですか?」
居たたまれなくて、会話をして気を紛らわす事にした。
「ああ、第一は所謂近衛だな。王族と…今は聖女様の警護が主な仕事だ。」
ドクン
「聖女様…ですか」
「ああ、今代はお二人おられる」
「レオンハルトさんは、聖女様にお会いしたことが?」
「…一度だけ、ある」
「そうですか…。どんな方々だったか、聞いても良いですか?」
「まあ、隠している訳ではないし、良いのではないか?そうだな…お一人はまだお若くて、少々気の強そうな黒髪赤目の少女だった。もうお一方は茶髪に金目で、私より少し年上のようだが常にニコニコしていて、天真爛漫な方らしい。」
「そう、なんですね」
恐らく一緒に召喚された人達。
私と同じ世界から来たのか、この世界で生きることを受け入れたのか、王宮でどう過ごしているのか…。
聞きたいことは山のようにある。
少し沈んだ顔になってしまったのだろう、レオンハルトさんが顔を覗いてきた。
「あ、ごめんなさい。それで、レオンハルトさんがいる第二騎士団は、どんなお仕事をされているのですか?」
「第二と第三は主に魔物討伐だったり、王都の警備が仕事だな。第二は通称魔法騎士団と呼ばれ、魔法教育を受けている貴族出身が多い。第三は基本腕っぷしで選ばれるので、貴族もいるが平民出身も多いな」
「へえ…と言うことは、レオンハルトさんも魔法を?」
「ああ、それなりに使える」
いやいや、そんな謙遜しなくても。
団長ってことは、きっとかなりの使い手なのだろう。
「貴女も、魔法を?」
ドキッとする。
「…はい、水属性魔法を少しだけ」
嘘ではない。
その他にも、色々使えるらしいけど。
実際使ったことがあるのは、水属性魔法と聖属性魔法だけだ。
それも必要な時だけで、むやみやたらには使っていない。
…というか、魔法の使い方が良く分からない。
「そうか。水属性魔法は私達騎士団にとっては貴重な存在でね。もし団員がそれを聞いたら、貴女を勧誘に来るかもしれないな」
「ええ?そんな、大した魔法は使えませんよ。でも、どうして貴重なんです?」
「ああ、知らないのか。水属性魔法は聖属性魔法以外で唯一回復魔法が使えるんだ。知っての通り、聖属性持ちは希少だからな。効果は劣るが、水属性持ちの回復魔法に助けられることは多い」
なるほど。
って言うか、聖属性魔法は希少なのか。
これは絶対に口に出来ないな…。
「そうなんですね。私にも使えるようになるのでしょうか?」
「貴女のレベルにもよるが、練度を上げ魔力操作を鍛えれば使えるようになるかもしれないな」
そうなんだ!
聖属性魔法のカモフラージュの為にも、習得すると良いかもしれない。
「練度と魔力操作、ですか。実は私、全然魔法のことに疎くて。勉強したいなとは思っているんですけど…」
これは本当。
魔法が使える、なんてすごいじゃない?
しかも色々な属性を持っているみたいだから、どんなことが出来るのか興味がある。
「ならば、リリアナと一緒に魔術師の講座を受けてはどうだ?リリアナもじきに4歳だ。学び始めるには良い頃合いだしな」
「なるほど…帰ったら、エドワードさんに相談してみます!あ、でも雇われている私が受講するのって、おかしいです、よね?」
「あの夫婦のことだ、気にしないだろう。私からも口添えしておく」
わあ…レオンハルトさん、面倒見良すぎじゃないですか?
初対面の冷たい雰囲気が嘘のようだ。
こっちが素なのかな?
「ありがとうございます!」
それはもう、満面の笑みで伝えましたよ。
するとレオンハルトさんは一瞬目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んでくれた。
バタバタバタッ!!!
周囲で女性達が倒れたのは、仕方ない事だと思う…。
そうこうしているうちに、孤児院が見えてきた。
「あ、クレアさんだ」
クレアさんもすぐに私達に気付いてくれて、微笑んで手を振ってくれた。
「こんにちは。お待たせしてしまいましたか?」
「いえ、私達も今来たばかりですわ」
そう言うクレアさんの後には、護衛だろうか、背の高い金髪の男性がいた。
「ルイス=アメジストか。今日は姉君の護衛か?」
「これは、団長。はい、姉が孤児院に行く日はいつも付き合わされているんです。それにしても、団長も…?」
「ああ、姪の家庭教師だ。お前の姉君に誘われたから、護衛を頼むと兄夫婦に言われてね」
団長が…!?とルイスさんは驚愕の表情だったが、気持ちは分かる。
普通、こんなことに付き合わされる地位の人ではないはずだ。
「ああ、これは騎士団に所属しております、私の不肖の弟です。荷物持ちに丁度良く、子ども達の良い遊び相手でして。どうぞよろしくお願いします、ルリ様。魔法騎士団長殿も、いつも愚弟がお世話になっております。」
「不肖に愚弟って…。まあ良いけど。ルイス=アメジストです。今日はよろしく」
ルイスさんは人好きのする笑顔で握手を求めて来た。
「ルリと申します。よろしくお願いします」
貴族の方だろうに、気取ったところがないのは親しみやすい。
少し躊躇ったが、握手を返した。
「ルリさんって、貴族じゃないんですか?意外だなあ。まあ、俺はそういうのあんまり気にしないから、ルリさんも普通にして下さいね」
まあ、普通に考えたら侯爵令嬢の家庭教師が庶民ってあり得ないよね。
あはは、と笑って誤魔化しておいた。
「自己紹介はその辺りにして、そろそろ行きましょう。」
「そうだな。…そう言えばこの荷物は、何が入っているんだ?」
「あ、それは…」
瑠璃先生のお遊びグッズとお土産ボックスです!
 




