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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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見送り

ふたりだけの温かい時間はそこで終わり、レオンは出立前の準備で早めに出かけた。


私とエドワードさんは王宮で見送りができるけれど、エレオノーラさんやレイ君、リーナちゃんはここでお別れ。


セバスさんやマーサさんも、お気を付けてと涙ぐんで送り出していた。


レオンは苦笑いしていたけれど、みんな心配なんだよ。


それだけ、みんなに愛されてるっていうことだ。


私は、どんな言葉を紅緒ちゃんに贈ったら良いだろう。


ポケットの中に手を入れて、その中に入っているものをぎゅっと握りしめる。


どうか、この石が紅緒ちゃんを守ってくれますように。






そして、気の利く言葉も思いつかないまま、あっという間に出立の時間になってしまった。


「良いの?団長さんの所じゃなくて、あたしの所でのんびりしてて」


「うん。忙しそうだし、昨夜からたくさん時間もらえたから、十分。それに紅緒ちゃんのお見送りも大事だもの」


色々と指示を飛ばすレオンの邪魔はできないしね。


黄華さんと三人、出立までの時間を、紅緒ちゃんの緊張をほぐすために使いたい。


「あら?なんだか余裕ですわねぇ?もう少し、ルリさんも暗い表情をしているかと思ったのですが。ひょっとして、昨夜、何かありました?」


「へ!?い、いや別に何も……」


鋭い黄華さんの言葉に、咄嗟に上手く返せなくて、しどろもどろになってしまったのが良くなかった。


「分かりやすいわね」


「まあ戦場に行く前に……ってお約束ですものねぇ」


対して、ふたりは悟った様子でうんうんと頷いている。


ダメだ、これは否定しても信じてもらえない。


「そっ、そう言う黄華さんだって!私知っているんですよ!ウィルさんにお守り……もがっ」


「そ、そそそんなこと大声で言わないで下さい!っていうかなんでそれを……」


自分だって言ったくせに、黄華さんは慌てて私の口を手で塞いだ。


なぜウィルさんに渡したことを知っているかというと、それは今朝レオンに聞いたから。


お守りの話をしていて、レオンがぽろりとこぼした呟きを、私は聞き逃さなかった。


『そういえば、ウィルも同じようなものを持っていたな。珍しく穏やかな顔で眺めていたが……』


『なにそれ詳しく』


「すっごく喜んでいたみたいですよ?まったく、いつの間に用意していたんですか?」


「ち、違います!たまたま石と布が余っていたから何となく……」


ひそひそと黄華さんとふたりで言い合っていると、はぁと紅緒ちゃんのため息が聞こえた。


「……相変わらずで、なんだか力が抜けたわ。ま、とりあえず瑠璃さんおめでとう」


あ、いつもの紅緒ちゃんの笑顔だ。


でもおめでとう、って何かおかしくない!?


「えーっと、まあその話は置いておきましょう。それより、私たちからもこれを」


黄華さんには後で絶対問い詰めよう、そう思いながらも、今は紅緒ちゃんのことだと口を閉じる。


そして、ポケットの中からお守り袋を取り出し、紅緒ちゃんに差し出す。


「紅緒ちゃんのために、私たちで作ったの。黄華さんのは魔法攻撃力アップで、私のは物理防御力アップの効果がついているわ」


「首からかけられるように、長めに紐をつけましたので、服の中に入れておいて下さいね」


ひとつずつ首にかけてあげると、紅緒ちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。


「ありがとう。これ、御守りよね?懐かしい」


胸元のお守り袋を見つめて、紅緒ちゃんの頰が緩む。


うん、もう変な緊張はなさそうだ。


「頑張ってね。紅緒ちゃんならできる。どうしても無理だって思った時は、私たちを呼んでね」


「そうですよ。私たちは三人で協力して、この世界で幸せにならなくてはいけないんですから」


ひとりじゃないよ、そう紅緒ちゃんに伝える。


「――――うん、ありがとう。行ってきます」


晴れ晴れとした表情、きっともう大丈夫だ。


「用意は良いか?そろそろ出立だ」


その声に、周りの騎士さんたちがザッと整列し、頭を垂れた。


陛下だ。お見送りに来てくれたんだ。


「ああ、お前たちは気にせず用意を続けろ。……ベニオ、気を付けて行って来い」


ふたりのことは、みんな何となく感じ取っているので、そっと離れていく。


それと同じように、私と黄華さんも。


そして、黄華さんがレオンの所に行ってはどうかと言ってくれたので、その姿を探すと、最後の確認も終わったのか、愛馬のルカの前で陛下たちを見つめていた。


そこにそろっと近付く。


優しい表情、陛下とは小さい頃から知り合いなんだもんね、レオンもふたりの幸せを願っているのだろう。


「あのふたり、上手くいくと良いね」


「ルリ。……ああ、そうだな」


きっとまた陛下の素直じゃない激励があったのだろう、紅緒ちゃんが眉間に皺を刻んでいる。


あ、でも照れた時みたいに顔が赤くなった。


……えっ!?陛下が紅緒ちゃんの頭を撫でた!?


「いやぁ……良いもの見ちゃった」


「気付かなかったふりをしてやれ。騎士たちもそうしている」


周りを見れば、みんな見て見ぬ振りをしながら、うんうんと頷いている。


……陛下、紅緒ちゃん。


良かったね、少なくとも騎士団のみんなはふたりの味方みたいだよ?


「さて、そろそろ本当に出立だ」


「うん」


ふたりでの別れは、今朝ちゃんと済ませた。


あとは、笑顔で送り出すだけ。


「気を付けて、行ってらっしゃい」


胸は痛んだけれど、ちゃんと笑うって、決めたから。


「ルカも、レオンをよろしくね」


その鼻をそっと撫でると、ヒヒンと返事をしてくれた。


「では、各自配置に付け」


その声に、全員が馬に乗る。


「出立!」


みんな、気をつけてね。


そう心の中で呟き、手を振って大切な人たちを見送った。





******


「みんなのおかげで、変な緊張は解けたけれど……」


馬上の紅緒は、少し盛り上がっている自身の胸元を見た。


そこから、()()のお守り袋を取り出すと、ふっと頬を緩める。


「さっきは言わなかったけど。無事に帰ってきたら、からかわれるのを覚悟で、瑠璃さんと黄華さんにも教えてあげないとな」


その中のひとつを手に取って、昨夜のカインの姿を思い出す。


『……やる。あいつらの付与はないから、特別な効果はないが。ちゃんと無事に帰って来いとの、約束の証だ』


その中に何が入っているのか、紅緒は知っていた。


そしてそれが、何を意味するのかも。


「全く……。あの無愛想な男が、恥ずかしいことをしてくれるんだから」


だけど、それが自分を鼓舞してくれているのも確かで。


何があっても帰ってこようと、紅緒は前を向く。


この世界の、大切な人たちの所へ、必ず。

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