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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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贈る

パタンと部屋の扉を閉めると、いつものレオンの部屋のはずなのに、空気が違うような気がした。


私がこちらの世界に来てから、頻繁に訪れるようになったからって、いつもマーサさんやマリアたちが整えているから、変わりはないはずなのに。


明日のことを考えると、不安だからなのかもしれない。


心配かけちゃうから、明るくしていようって思っても、つい考えてしまう。


「少し、お茶でも淹れてもらおうか」


そんな私に気付いているのか、レオンが優しくソファへと誘ってくれた。


そして隣り合って座ると、マーサさんを呼んでお茶と、少しつまめるものを用意してもらう。


そんなマーサさんも静かにお茶を淹れると、温かい表情で、どうぞとサーブしてくれた。


カップにそっと口をつけると、じんわりとした熱と、ふわりと微かな花の香りを感じる。


その時、自分の手が冷たくなっていることにも気付いた。


こくりと一口お茶を含むと、体の中に温かさがしみ渡る。


「落ち着いたか?」


やはり、レオンには気付かれていたらしい。


ごめんねと苦笑を零す。


「良いさ。慣れろとは言わない。それに、ルリや黄の聖女様、殿下方や料理長達が色々と頑張ってくれたからな。ポーションも食事も、それに特別な力の込められた石もあるのだから、むしろ騎士たちの不安は少ないんだ」


そう言われると、私たちが来る以前の騎士の仕事って、とても過酷だったんだなと思う。


騎士のみんなの不安を、少しでも取り除けたのなら良かった。


「それで?俺の分もあるんだろう?」


にこにことレオンが良い笑顔をする。


うっ。ま、まあそりゃ分かるわよね。


リーナちゃんが私と作った、と言っているのだから、私が作っていないわけがない。


「もちろん、あるよ。でも、そんな期待のこもった目をされると……」


ある、と答えた時にレオンの目がさらに輝いた。


うーん、青銀の騎士様はどこに行ったと言わんばかりの表情だ。


だけど、それがすごく嬉しくて。


また、じんわりと心が温かくなる。


「はい。……レオンが無事に戻りますようにって、想いだけは誰にも負けないくらい込めたつもり」


そう言って、おずおずとお守り袋を渡す。


するとまたレオンがほくほく顔になった。


……ちょっとかわいいと思ってしまったのは、内緒だ。


「どんな石なのか、中を見ても?」


「私のいた世界のお守りは、開けちゃいけなかったんだけど……。でも中身が全然違うし、良いと思う」


パワーストーンってブレスレットとかにしてたし、見ても問題はないはず。


そんな軽い気持ちで良いよと言ってしまったのだが、中を見たレオンはなぜか固まってしまった。


ラピスラズリが嫌いってわけはないと思うのだけれど……。


どうしたのだろうと思っていると、徐にレオンが口を開く。


「これは、ラピスラズリ、だよな?」


「?うん、そうだよ」


「意味を分かっているのか?」


「???」


レオンの言いたいことがよく分からない。


首を傾げていると、そうだよな深い意味はないよなと、レオンがぶつぶつと呟く。


「えっと、ダメ、だった……?」


「いや、ダメではないのだが……」


恐る恐る聞いてみたのだが、どうもハッキリとしない。


ではどういうことなのかと聞いてみれば、微妙な顔をした後、はぁとため息をついてレオンが説明してくれた。


「……この国では、求婚する際に、家名の宝石を贈る習わしがあることを、知っているだろう?もちろん俺もラピスラズリだが、ルリの名前も……。その、向こうの世界ではラピスラズリという意味なのだろう?」


…………。


わ、忘れてたぁぁ!!


ということは何!?


私ってば、レオンにプロポーズしたってこと!?


驚愕の事実に、赤くなるやら青くなるやら、とにかく私は大混乱だった。


やはり深い意味はなかったか……と、頬を僅かに染めながらレオンがまたため息をついた。


こ、これは謝るべきところ?


でも、謝ったら、そんなつもりはないって言ってるようなものだし……。


あわあわとしていると、こほんと咳払いをしたレオンが、落ち着けと声をかけてきた。


「たまたま、俺のことを思って選んでくれたのがラピスラズリ(これ)だったのだろう?大丈夫だ、分かっている。深い意味はないと分かっているから、そんな顔をするな」


「ち、違うの!」


そう言いながらも、少し残念そうに見えたレオンに、私は思わず違うと言ってしまった。


「その、そんな意図があって選んだわけじゃないけど、いずれはそうなりたいとは思ってる……っ!な、なに言ってるんだろ私!ご、ごめん!」


結局まとまらずに余計なことを話してしまった気がする。


もう嫌だ!と涙目になると、そっと温かい手が、頬に触れた。


「分かった。ルリの気持ちはよく分かったから。……ありがとう。俺も、ちゃんとそのことは考えている」


きゅっと抱きしめられ、そう耳元で囁かれた。


耳に直接響く甘い声と、変なことを口走った恥ずかしさで、くらくらする。


ちゃんと考えてる……って。


それって……っ!


「無事に帰ってきて、陛下たちのことも落ち着いたら、ちゃんと俺から渡す。その時は、迷わず受け取ってくれるか?」


声を出すのは恥ずかしい気がして、こくんと腕の中で頷く。


それでもきちんとレオンには伝わったようで、くすっと笑った気配がした。


「だが、正直この状況は我慢がきかないというか……。とりあえず、離れようか」


え、もう終わり?と思ってしまい、手を離そうとするレオンの服を、咄嗟にぎゅっと掴んでしまった。


私の行動が予想外だったのか、レオンがぴたりと動きを止めた。


「……ルリ、悪いが俺はそんなに我慢強くはないん「我慢しなくて良い」


レオンの言葉に被せるように、はっきりとした声で告げる。


「もう、我慢しなくて良いよ。ありがとう、ずっと待っていてくれて」


「ルリ?」


そのつもりではなかったけれど、いつでも良いと、決心はしていた。


その時が、今になっただけだ。


「レオン、好き」


少しだけ震える唇で私の気持ちを伝えると、驚きの表情を浮かべたレオンに、くすっと笑ってそっとキスを贈った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 瑠璃さんらしい『うっかり逆プロポーズ』www(///∇///)
[一言] やっぱり瑠璃さん天然の男殺しだ……そういう意図してないけどストライク決めて来る方が男には響くのですよ、ええ。
[良い点] まあ戦場に行く前に男と女で盛り上がるのはお約束ですな。 [気になる点] でも結婚の約束をすると死亡フラグが断つのが悩みどころ。 でもそれを乗り越えてこそですかね。
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