家族
そうして次の日も午前中、黄華さんと一緒にパワーストーン作りを行い、お昼には全ての石に付与することができた。
ちなみに陛下にも、ちゃんと支援魔法の付与ができたことを報告した。
あと、昨日私が思い付いたことも相談し、許可をくれた。
ものすごく、またやってくれたな感のあるため息をつかれたが、お礼も言ってくれた。
紅緒ちゃんと騎士さんたちのために、感謝すると頭を下げて。
……陛下ってこんな強面だし、口が悪くて態度も大きいのに、謝罪とかお礼はちゃんとしてくれるのよね。
そういう姿を見ると、紅緒ちゃんの選んだ人が良い人で、良かったなぁって気持ちになる。
「それにしても、よくもまあそんなにポンポン面倒なことを思い付くものだな」
本当に!口は悪いんだけどね!
「別に、私が考えたわけじゃなくて、元の世界でも行われていたことですから。それを思い出しただけです」
「……お前たちの住んでいた世界は、魔物もなく、国は平和だったと聞いていたのだが。それでも、そんな風潮があったのか?」
確かに、この世界に比べたら平和で、命の危険なんてそうそうなかった。
「それでも、大切な人を思う気持ちは一緒なんですよ」
陛下が、紅緒ちゃんを思う気持ちも、きっと。
「さて!皆さん、集まって下さってありがとうございます。私の思い付きに賛同して下さって、とても嬉しいです」
その次の日、王宮のとある一室を借りて、騎士さんたちのご家族に集まってもらった。
お母様だったり奥様だったり、姉妹の方もいるみたい。
「先に知らせていたように、私が住んでいた世界では、今回のように、何かを成しに行く人へ、お守りというものを送るんです」
この人たちも、大切な家族を見送る人たち。
騎士という職業上、いつだって無事を願ってやまないはずだ。
「そして、それを手作りすることもあるんです。そこで今日は、みなさんにそのお守り袋を作って頂きたいと思います。そして、中にはこちらにあるパワーストーン、様々な支援効果のある石を入れてください。どんな効果があるか書いてありますので、送る方にふさわしいと思うものを」
そして、簡単な作り方の説明の後、好きな布や糸を選んで作って頂く。
さすがに皆さん手慣れた様子で縫っていっている。
かわいいし、自分用に作ってみたいという声も聞こえる。
ここに来てくれたのは、平民のご家族がほとんど。
王宮からの呼び出しということで、驚かせてしまったし、畏れ多いと思う方も多かったのだが、騎士として頑張る家族のために、ほぼ全員が参加してくれた。
ほぼ、というのは、少数ではあるが、遠方の方や足の悪い方もいるから。
そういう人には、作り方の書いてある紙を渡した。
出発までに間に合えば、本人に石を選んでもらおうと思っている。
ちなみに貴族のご家族は、それぞれに準備してくれるということだ。
お守りを作ることには協力してくれると返事を頂いたが、今回参加してくれた人はほとんどいない。
まあ急だったし、この場に平民に混じって、和気あいあいと作ってくれる方はあまりいないよね。
「ルリ様、このような感じで大丈夫ですか?」
……クレアさんは来てくれたけれど。
そう、ルイスさんも遠征に参加するとのことで、アメジスト家からはクレアさんが来てくれている。
もともと孤児院にも通ってるしね、こういう雰囲気には慣れているのだろう。
「あ〜もう、上手くいかないわ!私、料理は得意でも裁縫はイマイチなのよね。あのクソ兄貴、死んでも死ななさそうだから大丈夫だと思うけど、ルリ様の提案に乗らないわけにはいかないわよね」
そして、ベアトリスさんも、仕込みの合間を縫って来てくれた。
こちらも騎士時代は平民がほとんどの第三騎士団の、しかも厳つい男性ばかりの中でやってきた人だからね。
抵抗なんてあるわけもない。
とまあ、こんな感じでほんの数名、貴族の参加者もいる。
だけど皆さん、楽しそうに作ってくれている。
中には、一針一針思いを込めて、静かに集中している人も。
新婚さんかな?若いし、兄弟のためにって雰囲気でもないもの。
「それで?ルリ様は愛しの青銀の騎士様のために、どんなものを作ったんです?」
にやにやとした笑いで、ベアトリスさんが声をかけてきた。
ベアトリスさんには、昨日の午後、遠征食の手伝いをする際に誘ったのだが、その時もこうしてからかわれた。
「……まだ、作ってません」
「あら、どうして?」
その理由は、入れる石の発注を、エドワードさんにお願いしているから。
それが届き次第、リーナちゃんと一緒に作る約束をしている。
「なるほどね。ま、ルリ様が作ったものなら、絶対にラピスラズリ団長を守ってくれるわ。心強いわよ、きっと」
元騎士だったベアトリスさんは、戦場での恐怖もよく知っているのだろう。
その言葉には、重みがある。
「……騎士の皆さんにとって、心の拠り所になると良いのですが」
私の言葉に、大丈夫よとベアトリスさんが笑った。
「では、皆さん今日はありがとうございました。ご家庭で、家族の方にお渡し下さい」
石選びも行い、全員が無事に作り終えることができた。
皆さん嬉しそうに、大切そうにお守りを手にしている。
挨拶を終えて解散すると、ひとりの女性に声をかけられた。
「あの、平民の私が、聖女様を相手に、不躾にすみません。でも、どうしてもお礼が言いたくて……」
先程の、新婚さんらしきお姉さんだ。
ちょっぴりオドオドしている。
聖女とか、気にしないで下さいと言えば、少し肩の力を抜いてくれた。
「こんな機会を下さって、ありがとうございます。実は私、結婚したばかりで……」
おお、やっぱり新婚さんだったか。
初々しい感じでかわいらしい。
「それなのに、急に魔物討伐隊に選ばれたって聞かされて。覚悟はしていたつもりでも、やっぱり不安だったんです。何かできないかなと思っていても、何も思いつかなくて。そんな時にこのご提案を頂けて、すごく嬉しかったです!」
うっすらと涙の滲む瞳。
きっと、不安に耐えていたんだろう。
「もちろん、中の石を作って下さった聖女様のお力だと、分かっています。それでも、私もお手伝いをしたものが、彼を守ってくれるのだと思うと、嬉しくて。自己満足かもしれないけど、これを見て、私を思い出してくれたらって、そう思うんです」
一生懸命説明してくれる彼女の気持ちが、すごく伝わってくる。
ああやっぱり、彼女も私も、同じだ。
「……お礼を言いたいのは、私の方です。素敵なお言葉、ありがとうございました」
そっと彼女の手を取ると、笑顔を返してくれた。
「自信を持って。戦場で、大切な人を思い出して、死ぬわけにはいかないって自らを鼓舞する物があるっていうことは、とても心強いものよ。あなたの作ったお守り。きっと喜んでくれるし、彼の力になるわ」
そのベアトリスさんの言葉に、彼女は涙を流して、しっかりと返事をしたのだった。




