パワーストーン
でも確かに言い出しっぺは私だ。
間違ってはいない。
石を揃えて欲しいと言ったのも、私。
「……後からちゃんと怒られます」
ごめんなさい、陛下。
「大丈夫よ!カインだって無理な事は無理って言うし、こんなのワガママのうちに入らないわよ」
一方のシーラ先生は、あっけらかんとしたものだ。
「赤の聖女様や騎士たちのためにって、貴女たちが考えたことでしょう?宝石が欲しいですぅ♡ってバカな女のおねだりじゃないんだから。むしろ、こちらからお願いしないといけないくらいよ」
そう、堂々と胸を張って言ってくれた。
その言葉に、私と黄華さんは顔を見合わせて笑った。
「ありがとうございます、シーラ先生。ちょっと気が楽になりました」
意外と口が悪いシーラ先生に、黄華さんも驚きつつも、可笑しいと笑い続けている。
さあ、じゃあ陛下のご厚意をありがたく受け取って、頑張ってみましょうか!
そうして、まずは一番の光魔法の使い手である黄華さんが、石を選ぶ。
いきなり宝石は気が引くようで、とりあえずとなんの変哲もない石ころに見えるものを手に取った。
石ころ……というか、玄武岩とか黒雲母とか、そんな感じのちゃんとした鉱物なのだろうが、詳しくない私には分からない。
「それは火山の近くで取れる鉱物ですね」
宝石たちを運んでくれた方がそう教えてくれた。
どうやら鉱物の研究者さんらしい。
なにか力になれるのではと、陛下が遣わせてくれたようだ。
「ふーん、じゃあ火の耐性とか、そういうのに向いてるかもしれないね。石の性質ってのも、関係ありそうじゃない?」
それを聞いていたカルロスさんが、真面目な顔をしてそう言った。
なるほど、確かにそういうこともあるかも。
黄華さんも頷き、じゃあ火魔法耐性の魔力を込めてみようということになった。
黄華さんが意識を集中させ、目を閉じる。
すると、両手の掌の上に乗った石が、少しだけ光った。
思わず声を上げてしまいそうになったが、黄華さんの気を逸らしてはいけない。
むぐっと口を自分の手で覆う。
しばらくすると、光がおさまり、黄華さんも目を開けた。
「多分、できたと思います。武具などにやろうとした時とは違って、手応えがありました」
その言葉に、シーラ先生やカルロスさんが、おおっと声を上げる。
そして黄華さん本人が、鑑定で確かめる。
「……バッチリです。火魔法の耐性が30%上がるものになっています」
「す、すごいわ!私にも見せて!」
我慢できないとばかりに、シーラ先生が黄華さんの掌の上の石を覗き込んだ。
驚きつつも、黄華さんはその石をシーラ先生に渡す。
すると、団長ズルい!とカルロスさんまで参戦した。
ここの師弟、魔法好きなんだもんね。
新しい発見にわくわくしているはずだ。
光にかざしてみたり、叩いてみたりと、まるで子どものように目をキラキラさせながら、石を見つめている。
「さ、そこのふたりはほっといて、次いきましょう、オウカ様」
リオ君に年上を敬う気持ちはないのだろうか。
にこにこしながら黄華さんに次の石を勧めている。
ま、まあシーラ先生とカルロスさんには聞こえていないみたいだし、大丈夫かな……?
「ほら、瑠璃さんもぼーっとしてないで。瑠璃さんだって光魔法、使えるんでしょう?付与できるはずですから、一緒に。団長さんへは瑠璃さんが作ったものを渡してはどうですか?」
そんな私に、黄華さんがそう声をかけた。
あ、なるほど。確かに私にもできるはずだ。
ひとつふたつを作れば良いわけでもない。
黄華さんひとりに任せるには、量が多すぎる。
「よし、じゃあ私も頑張りますか!黄華さん、教えて下さい!」
少しでもみんなの助けになるように。
そして、無事に帰ってこれますようにと、願いを込めて。
そうして色々実験しながら作った結果、やはり鉱物と付与する内容には相性があるらしかった。
そして、石に合わない、もしくは過度な効果を付けると、石が割れてしまうことも分かった。
鉱物の研究者さんやシーラ先生と相談しながら、付与する内容を決めていく。
そういう意味でも、研究者さんがいてくれて、本当に助かった。
すごく良い人で、少しでも力になれて良かったですって言ってくれたの。
陛下にもお礼を言わないと。
そして、いよいよ紅緒ちゃんに贈る石を決めることに。
せっかくだから、黄華さんと私、ひとつずつプレゼントすることにした。
付与する内容は、魔法攻撃力アップと、物理防御力アップ。
選んだ石は、ガーネットとブラックスピネル。
勝利の石と、危機回避の石。
それに、赤と黒は、紅緒ちゃんと陛下の色だから。
ふたりへの思いを込めて、黄華さんとふたり、魔力を石に込めていく。
そうして出来上がったふたつの石は、キラキラと輝いていた。
どうか、紅緒ちゃんを守ってね。
「赤の聖女様、喜ぶわね」
「うん。ベニオのことだから、泣いちゃうんじゃない?オレには冷たいけど、ふたりのことは本当に信頼してるみたいだし」
付与作業が終わり、ぐったりする私と黄華さんに、シーラ先生とカルロスさんがお茶を淹れてくれた。
どうやら魔法の付与にはMPも使うみたいで、残り僅かだ。
あまり使いすぎると魔力切れを起こしてシーラ先生のように倒れてしまうとのことで、残りはまた明日、となった。
残り、といってもまだ付与していない石は、それほど多くない。
一、二時間程で終わるだろう。
「あとは、あの石をどうやって身に着けてもらうかね。ネックレスや指輪なんかに加工するには、時間が足りないわね……」
そう言われてみれば、そうだ。
うーんと悩む私たちに、閃いたと黄華さんが手を挙げた。
「それなら、瑠璃さんとリーナちゃんが作ったように、お守り袋を作ってその中に石を入れてはどうでしょう?紐を長くすれば、首にかけられますし」
お守り?と首を傾げるシーラ先生やカルロスさんに、リーナちゃんと作ったお守りの話をすると、それは良いわねと同意してくれた。
「あ、それなら。良いこと思い付きました!」
お守りなら……と私が思い付いたことを話すと、こちらもみんなから賛成の声を頂けた。
「それなら、騎士たちや家族も喜びそうですね。ルリ様、さすがです」
「……なんか、久しぶりにアルに素直に褒めてもらえた気がする」
そんな私とアルのやりとりに、周りのみんなが笑ったのだった。




