パワー
そんな感じで、リーナちゃん主導で進められたお茶会も無事?終わり、リーナちゃんは帰る時間になった。
護衛騎士のみんなと合流して、馬車置き場へと向かう。
色々と聞き出され、息も絶え絶えな様子だった紅緒ちゃんと黄華さんも、道中は少し寂しそうだった。
また紅緒ちゃんが討伐から帰ってきたら、会おうねと約束をする。
そしてラピスラズリ家の馬車で待っていてくれたマリアに、リーナちゃんを託し、三人で見送った。
「さて、じゃああたしは訓練に戻ろうかな。リーナちゃんのおかげで、良い意味で力が抜けた気がするわ」
「そうですね、顔が明るくなっていますよ。そう気負わずにいれば良いんですよ。団長さんたちもいるのですから」
いつもの紅緒ちゃんの様子に、黄華さんもほっとしたようだ。
試練だとか総司令官だなんて言われたら、どうしても固くなっちゃうよね。
でも、周りも頼って良いんだってこと、忘れないでほしい。
「うん。ひとりじゃないって思えるようになったわ。それに、お守りもあるしね」
そう言って紅緒ちゃんが取り出したのは、リーナちゃんからもらったお守り袋。
花の種が入っていて、無事に帰ってきたら一緒に植えたいねってことも、先程伝えていた。
「リーナちゃんって、なんであんなにかわいいのかしら?あたし、子どもってあんまり得意じゃなかったんだけど、リーナちゃんは別だわ」
「あら、では陛下との子もあんな風に育つように教育しなくてはいけませんねぇ?」
「な、ななななに言ってんのよ!?」
リーナちゃん相手に調子を崩された黄華さんが、いつもの紅緒ちゃんいじりを始めた。
イキイキしている。
そして紅緒ちゃんは真っ赤な顔で否定しているが、まあ結婚したら当然そんな話になるだろうし、生まれた子は王位継承者となるわけで……。
「それこそ、リーナちゃんにお世話係になってもらうと良いかもね?」
「瑠璃さんまでなに言ってんの!」
そんな日がいつか。
そう願いながら、あははと笑い返した。
これ以上いたらおもちゃにされる、そう悟ったらしく、紅緒ちゃんはアルバートさんを連れて、さっさと訓練場へと行ってしまった。
黄華さんは今日一日予定がないと教えてもらっていたので、先日思いついたことを話してみた。
「パワーストーン、ですか?」
「うん、黄華さんなら作れそうだなと思って」
元の世界にもあったよね。
元々の石の力もあるけど、霊感とか占い師さんとか、そういう人がパワーを込めたりするのもあったはず。
それなら、光の魔法を使う黄華さんも作れるのではないかと思ったのだ。
「確かにありましたね、そういうものも。実は、私もポーション以外のものに、支援魔法を付与できないかと思っていたんです」
紅緒ちゃんに聞いたところ、ゲームでは装備品にそういうものが付与されていたらしい。
祈りの指輪とか、護りの腕輪とか。
そこで、騎士さんたちが身に着けても邪魔じゃないようなものに、魔力を込めてみたのだが、上手くはいかなかったようだ。
「色々やってみましたが、石はやっていませんでしたね……」
「それなら、ちょっと試してみませんか?よく考えたら、この国の創世記にも宝石が出てきますし、特別な魔力が込められた石なんて、ちょっと気持ちも上がりますよね、きっと」
自分でそう言いながら、すごく良いアイディアな気がしてきた。
この国の人がどれだけ信仰深いかにもよるけど、貴族の人なんて自分たちのにも宝石の名前がついているんだもの、士気も上がりそう。
「それは良い案ですね。喜ぶ者が多いと思いますよ」
「うん。僕も欲しいって思うし、きっと他の騎士もそうだと思う」
アルとリオ君も同意してくれた。
「では、石も用意しなくてはいけませんし、シーラ先生に相談してみましょうか」
ということで、魔術師団棟へと四人で向かうことにした。
「――――なるほどね。面白そうじゃない!早速やってみましょう!」
シーラ先生に事情を話したところ、とても興味を持ってくれた。
目が爛々と輝いている。
そういえば、シーラ先生って魔法がすごく好きなんだもんね。
だけど、先生の机の上にあるたくさんの書類の束も気になる……。
それは後回しにして良いものなんですか?と聞きたい。
「ま、団長が本気出せば二時間くらいで終わるから、大丈夫でしょ」
からからと側にいたカルロスさんが笑う。
そして彼も興味があるらしく、同席させてほしいと言ってきた。
興味があるのは、パワーストーンなのか黄華さんなのか。
そう聞いてみたい気もしたが、今日の黄華さんはリーナちゃんに根掘り葉掘り聞かれて、かなりお疲れなので、黙っておくことにした。
「あ、でも肝心の石はどうしますか?」
「そんなもの、カインに言ってすぐに用意させるわよ」
さも当然というかのように、シーラ先生が即答する。
「国王陛下を顎で使うのは、この人くらいでしょうね……」
そんな様子を見て、アルがぼそっと呟いた。
うん、同感。
陛下……今までもこうやって、シーラ先生の色んな無茶ぶりを聞いてきたんだろうなぁと思うと、同情心が湧き出てきた。
パッと見、恐そうだし実際口は悪いけど、意外と陛下ってば苦労人よね。
「ちょっと待って。忘れているようだけれど、一応私も苦労人だからね?設定、忘れないで頂戴?」
そ、そうでした。
シーラ先生が念を押すように、ね?と首を傾げたのに、私はこくこくと何度も頷いたのだった。
で。
陛下に使いを出して、数十分後。
「とりあえずこれくらい種類があれば良いわね!」
「さすが陛下ですね〜。こんだけの種類を短時間で。んじゃ、オウカ頼むよ〜」
シーラ先生の部屋に、様々な種類の宝石や石が並べられ、シーラ先生とカルロスさんはご機嫌だ。
うーん、本当に揃えてくれるあたり、陛下ってば慣れてるわね……。
「シーラ様。言われた通り、青の聖女様からのご提案だとお伝えしてきました」
呑気にしていると、お使いに行ってくれた魔術師さんが、シーラ先生にそう報告しているのが聞こえた。
「やられましたねぇ。陛下はきっと、瑠璃さんのせいだと思われているでしょうね」
黄華さんに、ポンと肩を叩かれた。
あれ?これってひょっとして、「やっぱり言い出しっぺはお前か!」って私が後から怒られるパターンかも?




