恋話
そうして作ったお守り、レオンは出発までに、一度ラピスラズリ邸に来てくれると言っていたので、その時に渡すことにした。
紅緒ちゃんはさすがに無理かな?と思っていたんだけど、シーラ先生のはからいで、相談した翌日に、私たち三人とリーナちゃんのお茶会をセッティングしてくれた。
前にも遠征の後、一度だけお茶会をしたけど、そうそう何度もひとりの貴族令嬢だけ聖女と仲良くするのは、外聞が悪いみたいだから、内密で。
こういうところ、聖女って面倒くさい。
でも、紅緒ちゃんにとっても、少し気を緩める良い機会かなと思う。
本人はそんなつもりないみたいだけど、やっぱり気を張っているなって、周りの人は分かるもの。
「リーナちゃん、わざわざありがとう。少ししか時間取れなくて、ごめんね」
「ううん。ベニオちゃんこそ、いそがしいのに、ありがとう」
リーナちゃんお得意のエンジェルスマイルで、紅緒ちゃんもめろめろだ。
とろとろの顔をして、リーナちゃんの頭を撫でている。
うんうん、癒やしって必要よね。
そんなふたりを見て、黄華さんもほっとした表情をしている。
毎日頑張っている紅緒ちゃんの様子を見て、きっと心配していたのだろう。
「あのね、またまものたいじにいくってきいたから、わたしにもなにかできないかなっておもって。はい、これ!」
そう言ってリーナちゃんは、カバンからラッピングされた小さな包みを取り出して、紅緒ちゃんに差し出した。
「え、ありがとう!開けてもいい?」
「うん!」
リーナちゃんの許可を得て、紅緒ちゃんが包みを開く。
丁寧にリボンを外すと、現れたのは先日一緒に作った、あのお守りだ。
「これ……」
「ルリせんせいにおしえてもらって、いっしょにつくったの。おまもり、ベニオちゃんもしってる?ぶじにかえってきてね!」
優しい笑みとともに贈られたお守りには、リーナちゃんの心が詰まっている。
もちろん紅緒ちゃんにもそれが届いたようで、はじめは驚いたように目を見開いていたが、リーナちゃんの言葉を受けて、じんわりと目尻に涙が溜まっている。
「もうびっくり!まさかこの世界でこんなものもらえるなんて。瑠璃さん、さすが。リーナちゃん、本当にありがとう」
紅緒ちゃんが大切そうに、ぎゅっとお守りを胸の前で握り締めた。
良かった、喜んでくれて。
「お守りなんて、懐かしいですね。リーナちゃんの気持ちが込められているなら、きっと紅緒ちゃんは無事に帰って来れますよ」
そう言って黄華さんもリーナちゃんの頭を撫でた。
みんなからよしよしされて、リーナちゃんも嬉しそうだ。
「えへへ。かえってきたら、ベニオちゃんはへいかのおよめさんになるんでしょ?おうひさまになっても、なかよくしてね!」
「!ちょ、ちょっと?リーナちゃん、なんでそのこと……」
「?ベニオちゃんは、へいかのことすきなんでしょ?このまえあったときも、おへやによばれたっていってたし」
「い、いやいやいや、ち、違うの!いや違わなくもないけど。で、でもそうなるにはまだ早いっていうか、ほらまだ若いし……」
まさかのリーナちゃんからの攻撃に、紅緒ちゃんがタジタジだ。
「うーん、じゃあオウカさんがさき?ウィルさんと、どうなってるの?」
ここでまさかの、矛先が黄華さんに向いた。
「わ、私とウィルさんは別にそんなんじゃ……」
「でも、かお、あかいよ?ウィルさんのこと、きらいなの?それともすき?どっち?」
「き、嫌いでは、ありませんけど……。す、好きか嫌いかの二択なんですか?」
出た。これ、私も前にリーナちゃんに聞かれたんだよなぁ。
レオンのこと、どちらかといえば好きかな〜って答えたら、マーサさんに生温い顔で見られた。
懐かしい。
今度は黄華さんがタジタジになり、紅緒ちゃんがほっとした顔をしている。
うーん、見ているだけなら面白い。
でも、そんな私をただの傍観者にしてくれるはずもなく、黄華さんがキッとこちらを振り返った。
「ま、まずは瑠璃さんが先だと思いますよ!?ほら、大好きなレオンハルトの叔父様と瑠璃さんの結婚式、リーナちゃんも見たいですわよね!」
なんとここで爆弾を投下してきた。
「ええっ!?なんで私!?」
「うーん、それについては、おかあさまもおにいさまも、なやんでるんだけど……。さっさとすればいいのに、ってふたりともいってる。かいしょう?がなんとかって……」
そしてリーナちゃんから語られる、まさかの事実。
エレオノーラさん、レイ君。
リーナちゃんを前になんて話してるんですか。
「そ、そうね!瑠璃さんのウエディング姿を見届けないと!」
そして紅緒ちゃんもそれに乗ってきた。
う、裏切り者!
しかし、ここでリーナちゃんがまた予想外の発言をした。
「でも、ルリせんせいのことはおうちでもきけるから、きょうはベニオちゃんとオウカさんのこと、ききたいな。おちゃかいでも、おともだちとはなしてるの。えっと、コイバナ?わたしはまだわからないけど、おねえちゃんたちは、かっこいいおとこのこのはなしとかしてる」
なんと。
私に向きかけた矛先を、ふたりに構え直した。
そしてお茶会で恋バナって……。
子どもとはいえ、女だ。
元の世界でもそうだったが、六歳くらいになると急にそういう話が増えてくるのよね……。
そうか、お茶会でおねえさんご令嬢たちに教わったのか……。
リーナちゃんの目は、完全にふたりにロックオンされている。
逃げられない、紅緒ちゃんと黄華さんはそう悟りながらも、必死にこの状況を打破する方法を考えているのだろう。
いや、押し付け合いかもしれない。
チラチラとふたりは、目配せしながら無言の攻防を行っている。
……良かった私、今日は大丈夫そう。
「レオンおじさまのかいしょうのおはなしも、きになるけど」というリーナちゃんの呟きには、聞こえなかったふりをして、カップを傾け、お茶を一口頂くのだった。




