祈りを込めて
「そうか、赤の聖女様やレオンのために」
「うん、おまもり、っていうんだって!わたし、がんばってつくりたい!」
夕食の席、先程のことをエドワードさんやエレオノーラさんに伝えたところ、快く材料の提供を申し出てくれた。
まあ布と紐くらいだから、多分あるだろうなとは思っていたけれど。
材料も確保できたことだし、早速夕食が終わったら作ることにした。
縫う以外はそんなに難しくないもんね、三十分くらいで出来上がるだろう。
「リーナは本当に色んなことに興味を持つようになったね。聖女様や叔父上のために何かしたい、なんて」
いやいや、このところぐっと背の伸びたレイ君も成長著しいですよ?
アラサーともなると時の流れが早く感じるわぁ……。
「そうねぇ。それに、再来週には、いよいよアーサー殿下とヴァイオレット殿下のお茶会ね」
子どもたちの成長に、エレオノーラさんが柔らかい表情でそう言った。
そう、以前ヴァイオレットちゃんが、そろそろ……と言っていたお茶会、急な遠征が決まったものの、無事開催されることになり、レイ君とリーナちゃんも招かれている。
「叔父上たちが遠征で頑張ってくるんだから、僕達もしっかりしないとな、リーナ」
「うん!がんばる!」
そう、レオンたちの出発は来週、そしてお茶会はその翌週に開催されることになっている。
レオンたちにはレオンたちの、リーナちゃんたちにはリーナちゃんたちの戦いがある。
心が安定して以来、少しずつエレオノーラさんとお茶会に参加してきたリーナちゃんだが、やはり王族主催となると、また別格だ。
貴族令息・令嬢としての経験を積んでいる最中なのだ。
「だけど楽しみでもあるよね。ふたりとも、アーサー殿下やヴァイオレット殿下と仲良くなれると良いね!」
私の言葉に、はい!とふたりは大きく頷いてくれた。
ちなみに、予想通りエドワードさんが、パパの分はないのか……?と呟いたのだが、きょとんとしたリーナちゃんに一蹴された。
おまもりは、いまからなにかをがんばるひとにあげるんだよ、だって。
「パパだって毎日家族のためにお仕事頑張ってるじゃないかぁぁーーー!」
そう言って涙するエドワードさんにとどめを刺したのは、レイ君の一言。
「確かにそうだけど、仕事をするのは一家の家長として当たり前でしょう。もし地方に左遷とかになれば、作ってもらえるかもしれませんね」
うっうっと泣くエドワードさんと、それを慰めるエレオノーラさん。
勤労感謝の日ってことで、今度レイ君とリーナちゃんに、お手紙でも書いてもらおうかしら……?と思う私なのだった。
「さて!じゃあお守り作りを始めます!」
「おねがいしま〜す!」
夕食を終えてすぐ、リーナちゃんの部屋に戻り、早速お守り作り開始。
まずは布と紐を選ぶ。
フェルトがあると便利なんだけどな……と思っていたら、少し手触りは違うが、端がほつれない似た布があったので、その中から好きな色を選んでもらった。
紐も同じく、布に合わせて選んでもらう。
リーナちゃんは、紅緒ちゃんには薄いピンクの布に赤い紐、レオンには紺色の布に銀の紐を選んだ。
うんうん、いい組み合わせ。
特に、サバサバしてるけど意外とかわいい紅緒ちゃんに、ピンクをチョイスするあたり、リーナちゃんは分かっているなと思う。
じゃあまず、線を書いた布をハサミで切ってもらう。
直線だし、ハサミはもうかなり上手だもんね、難なくきれいに切ることができた。
「じゃあ、私がこれを縫い合わせている間、中に入れるものを考えてもらおうかな?」
「なかにいれるもの?」
元の世界のお守りの中身は(多分)護符的なものだと思うけど、この世界にそんなもの、あるわけない。
ということで、なら思いがこもっていれば、中身なんて何でも良いんじゃない?ということになった。
大切にしていた石でも貝殻でも、なんなら手紙とかでも良い。
大切なのは、“心”だもの。
無事に帰ってきてほしいっていう、その願い。
「う〜ん、じゃあ、おはなのたねでもいい?かえってきたら、いっしょにうえるの」
そう言ってリーナちゃんが取り出したのは、庭園で自分が育てた花から取れた種。
「うん、すっごく良いと思う!じゃあね、種をぎゅって握って、怪我しませんようにとか、そういうお願いを込めてみて?」
私の言葉に、リーナちゃんは種を握りしめて目を閉じた。
その真剣な様子に、笑みが零れる。
うん、私も。
紅緒ちゃんもレオンも、みんなが元気に帰って来てくれますように。
そんな願いを込めて、一針一針お守りの形に縫っていく。
疲れた時、危ないって思った時。
このお守りを思い出して、頑張ろうって、無事に帰るぞって、思ってくれたら良いな。
私たちに出来ることはこれくらいだけれど、ちゃんと、みんなが帰るのを待ってるから。
「よし、できた」
「わたしも、もうだいじょうぶ」
袋状になった布の中に、それぞれ種を入れてもらう。
何の花の種なのかな?
みんなで植えて、どんな花が咲くのか見守るのも楽しいかもね。
その後は目打ちのようなもので布に穴をあけ、紐を通す。
本当は叶結びっていうんだっけ?あの独特のリボンみたいな形の結び方。
それをするんだけど、正直、結び方が分かりません。
なのでごめんなさい、ちょうちょ結びで……。
情けなく思いながらも、リーナちゃんにちょうちょ結びを教えていく。
さすがにいきなり一人では結べなかったが、少し手を貸しながらやると、綺麗なちょうちょの形になった。
「すごーい!かわいい!」
出来上がったお守りに、リーナちゃんが目をキラキラさせる。
うん、思っていたよりも綺麗にできた。
「きっと喜んでくれるよ。一緒に作ってくれて、ありがとう」
「うん!こちらこそ、おしえてくれて、ありがとう!」
リーナちゃんとふたり、達成感と渡す楽しみで微笑み合う。
そうして完成したお守りは、なんとなく、ほんのちょっとだけど、キラキラと輝いて見えた。




