お守り
「では、よろしくお願いしますね、リアムさん」
「……そんな大役、私で本当に良いのでしょうか」
勿論です!と返せば、頬を染めたリアムさんが、照れたように少しだけ俯いた。
「ご両親とも話をしようと決意されてから、少し角が取れたようですね。とても良い表情をしている。貴方には、期待していますよ」
そんなシトリン伯爵の言葉に、リアムさんはばっと顔を上げ、少しだけ嬉しそうに笑った。
「――――謹んで、お受けいたします」
これでまたこの国の教育は一歩進んだ、そう信じて、私たちは握手を交わした。
午後からの打ち合わせも何事もなく終わり、夕方、私はラピスラズリ邸に帰って来ていた。
「出発は、一週間後かぁ……」
ついでにとばかりに、王宮でベアトリスさんに遠征食の手伝いと、シーラ先生やヴァイオレットちゃん、アーサー君にポーション作りの手伝いを申し出てきた。
色々考えたけど、やっぱり私にできるのはこれくらい。
紅緒ちゃんやレオン、ウィルさんやイーサンさん、みんなに無事で帰って来てほしい。
ただそれを願うばかりだ。
「ルリせんせい?」
「あ、リーナちゃん。ただいま」
少しだけ下向きな気持ちで廊下を歩いていると、リーナちゃんが声をかけてくれた。
私の様子を見て、心配そうにしている。
相変わらずの天使っぷりだ。
そんなリーナちゃんも、もうすぐ五歳。
身長も伸びたし、話し方も随分つたなさがなくなってきた。
それにますます可愛くなった気がする。
ぷにぷに感はなくなったけど、女の子!って感じになってきた。
それを言ったらレイ君もだけどね。
少年!って感じになって、可愛さよりもカッコ良さが際立ってきた。
あれは同年代のお嬢様方がほっとかないだろうなぁ……。
「ルリせんせい?なんかへんだよ?」
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた……」
あははと誤魔化せば、リーナちゃんは首を傾げた。
そして夕食まで少し時間があるからと、部屋に誘ってくれた。
最近ゆっくりリーナちゃんと過ごすことも少なかったしね、もちろん喜んでお邪魔させてもらうことにした。
マリアにお茶を淹れてもらい、ふたりソファに並んでくつろぐ。
「ルリせんせい、なにかあったの?さっき、げんきがないふうにみえた」
やっぱりリーナちゃんは鋭い。
それになぜだか相談したくなってしまう。
黄華さんも王宮の人によく相談受けているらしいし、ひょっとしたら光属性魔法の効果なのかな?
「うーん、実はね……」
思えば、今までも何度もリーナちゃんにアドバイスをもらってきた。
だからつい、話してしまったのかも。
だけど、話を聞きながら、リーナちゃんの顔が強張っていくのが分かった。
そうだよね、リーナちゃんも紅緒ちゃんやレオンのこと、心配だよね。
不安にさせるような話をしてしまったと、申し訳ない気持ちになってしまった。
ごめんねと謝ると、リーナちゃんはううんと首を振る。
「おしえてくれて、ありがとう。なにもしらないままより、ずっといいもん」
強くなったなぁ、リーナちゃん。
よしよしと頭を撫でると、くすぐったそうにする仕草は、以前と変わらない。
「わたし、いまはなにもできないけど、まほうも、もっとべんきょうする。ルリせんせいみたいに、レオンおじさまやたいせつなひとをまもれるよう、がんばる」
意志の強さを感じる眼差しでそう告げられ、またひとつリーナちゃんの成長を感じた。
「うん。そうだね。レオンが聞いたら、感動して泣いちゃうかも」
甥姪を可愛がっているレオンのことだ、泣きはしなくても、目が潤むくらいはするんじゃないかな。
あ、その前にエドワードさんが、パパは!?と嫉妬して泣くかも。
うん、すっごくあり得る。
くすくすと笑みを零す私に、リーナちゃんが不思議そうな顔をしたので、考えていたことを話すと、そうかも!と笑ってくれた。
良かった、ちょっぴり暗い空気だったのが、少し和らいだ。
「あのね、いまはなんのやくにもたてないけど……わたしにも、レオンおじさまやベニオちゃんにできること、ないかな?」
くうっ!カワイイ!発想がもう天使!
リーナちゃんにもできること、かぁ……。
「あ、そうだ。私たちの住んでいた国では、これから何かを頑張る人のために、お守りを送ったりしてたよ」
「おまもり?」
???とリーナちゃんがハテナを飛ばしている。
そりゃ知らないよね。
まず神社なんてあるわけないし。
「うーんとね、スタンダードなのは、これくらいの小さな袋に、えーっと、何が入ってるんだろ……。護符?願いを込めた紙とかを入れるのかな。元気な赤ちゃんが生まれますようにとか、事故に合いませんようにとか……」
だいたいの大きさを指で示しながら説明してみるが、悲しいことに、自分でもお守りって何か、よく分かっていない。
しっかりしろ、純日本人。
心の中で自分を叱っていると、何となく分かったとリーナちゃんが言ってくれた。
え、嘘。今の説明で分かる?
「うーんと、ちいさなふくろに、おねがいごとをこめたものをいれて、もっててもらうってこと、だよね?」
「そうそう!それ!」
すごい!リーナちゃんの理解力、素晴らしい!
「そういえば似ているのでは、パワーストーンなんかもあったなぁ。ブレスレットをみんなで買ったこともあったっけ。恋愛成就とか、仕事運を上げるとか、あとは魔除け、と、か……」
そこではたと気付く。
そっか、その手が!
「ありがとうリーナちゃん!すっごく良いこと思い付いた!」
「え、ええ?」
わーっわーっ、なんで今まで思い付かなかったんだろう。
ポーションがだめでも、これならひょっとして……!
「そうだ、レオンや紅緒ちゃんにお守りを作るなら、一緒に作ってみよう?きっと喜ぶよ」
なんだかよく分からないけど……とリーナちゃんは戸惑っていたけれど、お守りは作りたいと思ってくれたみたい。
それほど難しくないし、材料さえあれば、夕食の後にでも作ってみようと、リーナちゃんと約束をしたのだった。




