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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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援護

「試練、か……」


ぽつりと紅緒ちゃんが零す。


先程シリルさんから出された試練。


それは、紅緒ちゃんが総司令官として立ち、レオンやウィルさん、イーサンさんを引き連れて魔物の討伐に出ることだった。


『先日、陛下たちが調査に行かれたことがあったでしょう?あの後、良くない話が出ましてね』


シリルさんの話を聞くと、調査の結果、スタンピードが起きそうな場所が見つかったらしいのだ。


『お前たちがオルトロスを倒した時、黒い核を浄化したと言っていたな。その、黒い核を持っているとされる魔物が現れたらしい』


どんな魔物なんだろうと思い尋ねると、ヒュドラだという答えが返ってきた。


ヒュドラ……って聞いたことあるけど、なんだっけ?と思っていたら、頭が九つある蛇だという。


へ、蛇かぁ……しかも頭が九つ……。


ちょっと苦手かも、と思って紅緒ちゃんの方をチラリと見たが、しれっとした顔をしていた。


そんなに苦手じゃないのな?


すごいなぁと思っていたら、隣にいた黄華さんは顔が引きつっていた。


うん、黄華さん気持ち分かるわぁ。


とにかく、本格的なスタンピードが起こる前に、その蛇の魔物を倒すのが試練ということだ。


『話しにくいこともあるでしょうから、私はこれで失礼しますね。どうぞ、皆様で話し合って下さい』


そう言うと、シリルさんは執務室を出て行った。


そして現在。


「“信じて待つこと”が俺の試練とは、どういうことだ」


陛下がぶーたれている。


「一見ベニオ様にだけ厳しいようですが、陛下にとってはかなり難しい試練となりそうですね」


ウィルさんも苦笑いしているが、確かにそうかもね。


「それにルリとオウカは連れて行かないこと、なんて。魔術師団長としては情けないけれど、回復・援護が疎かになってしまうわ。……宰相(腹黒ジジイ)のヤツ、なに考えてるのかしら」


シーラ先生、こちらも不満そうな顔だ。


しかもシリルさんへの暴言ひどい。


こうした様子を見ると、陛下と似ている気がする。


さすが血縁者。


「回復に関しては、瑠璃さんがポーションや遠征食など、色々開発してくれたので、まあ何とかなるでしょう。王弟、王妹殿下も喜んで力を貸してくれるでしょうし。ただ、支援魔法については……」


黄華さんが言いよどんだ。


確かに、黄華さんの支援魔法はすごく頼りになるのよね。


それナシってなると、かなりキツイかも。


だけど、私たちふたりがついて行って、さらに私たちを推す声が増えても、試練する意味がないとシリルさんは言った。


まあとにかく、紅緒ちゃんひとりで解決して、周囲に認めさせることが目的ということだ。


「まあルリたちがいない時は、それでやってきたのだからな。最近が恵まれ過ぎていただけで、俺たちも気を引き締めろということだろう」


ずっと黙っていたレオンが、ため息をついた。


少し眉間に皺は寄っているけれど、納得している様子だ。


「そうだな。聖女サマの援護に頼り切っている騎士どもに、喝を入れる機会でもあるな」


イーサンさんもそれに同意する。


しかも、どことなく楽しそうだ。


ま、まあとりあえずレオンとイーサンさんはかなりやる気みたいだし、ウィルさんもそうですねと頷いているから、大丈夫みたい。


あとは、紅緒ちゃんだけど……。


「紅緒ちゃん、蛇は苦手じゃないんですか?」


私はちょっと苦手で……と黄華さんがたじろぐと、目つきを鋭くした紅緒ちゃんが口を開いた。


「超・絶・嫌いよ」


…………。


あまりの迫力に、歴戦の騎士団長ふたりすらも押し黙ったのだった――――。






『まあでも剣で切るわけじゃないから、距離はとれるし、嫌いだからこそ遠慮なく魔法ぶっ放せるから、多分大丈夫よ』


だって。


うーん、紅緒ちゃんたくましい……。


「それにしても、私たちだけ何もしてあげられないのは、悔しいですわね。同じ待つ身でも、陛下には色々出来ることがありますけど……」


試練の話があった翌日。


私は今日も王宮に来ていた。


午後からシトリン伯爵たちとの打ち合わせがあるので、その前に時間のあった黄華さんと一緒にお茶を頂いていた。


紅緒ちゃんは訓練だって。


かなりやる気みたいだけど、無理はしないでほしいな……。


そして、黄華さんもまた、紅緒ちゃんを心配している。


「そうですよね、私たちも何かできないかな……。ついて行くのは無理でも、考えれば何か思い付くかもしれません」


私の場合は……やはりポーションと料理だろうか。


遠征食やポーション作りに参加させてもらおう。


「そうですわね、瑠璃さんの作ったものは美味しいですし、効果も高いですから、みんな喜びますね。さて、私はどうしましょうか」


そうなんだよね。さすがにポーションみたいに、黄華さんが作ったからといって、防御力や攻撃力が上がるものができるわけじゃない。


どうして私の聖属性魔法はオッケーなのに、黄華さんの光属性魔法はダメなのか。


よく分からない。


「ポーションは無理でも……」


「?何か思い付きました?」


「いえ、でももう少し色々考えてみます」


否定はしたけど、真剣な顔の黄華さんは、何かヒントを得たような様子だ。


出発は一週間後。


それまで、出来ることはやろう。


そこで、そういえばと気になっていたことを、せっかくふたりしかいないので、聞いてみることにした。


「黄華さんは、私たちも陛下の妃候補に見られてたって、知ってました?私は全然で。びっくりしちゃいました」


「ああ。うーん、そういう話をちらほらとは耳にしていましたからね。まあでも、陛下の相手など、私はないなと思っていましたから」


そっか、黄華さんなにげに情報通だもんね。


そして笑顔でバッサリと“ない”と言い放った。


陛下相手に、容赦ないなぁ。


あははと苦笑いするが、私だって陛下のことは嫌いじゃないけど、そういう対象として見れるかと言われたら、答えは“ノー”だ。


まあレオンがいるから、陛下じゃなくてもみんなノーだけどね。


とそこまで心の中で考えて、ぴたりとお茶を飲む手を止めた。


そういえば……昨日、どうだったんだろう。


もうひとつ気になっていた話を思い出し、うずっとした私は、笑顔で黄華さんに質問してみた。


「ちなみにウィルさんが相手ならどうなんですか?昨日、半日くらい一緒にいて、何かありました?」


途端、ぶっと黄華さんがお茶を吹いた。


お、この反応は何かあるのかな?


ゴホゴホと咳き込む黄華さんの答えを、わくわくとした気持ちで待ったが、知りません!と言われてしまった。


残念。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ………シリル宰相的には紅緒ちゃんが王妃になる為と言うか、自分も含めて周囲を納得させる為の功績を証明させたいんだと思いますが、紅緒ちゃんだけ(多少支援や下準備はありますが………)でカイン陛…
[一言] ヒュドラって蛇というか本質的には八岐大蛇とかそっち方向の化物で、ヘラクレスも苦戦したガチの怪物ですからね……。 強力な回復魔法とバフ抜きで戦うには少しばかりキツい相手ではありますが、はて?…
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