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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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あなたと

すっかり夕方になってしまったこの時間、騎士団棟へと向かう途中、中庭の前を通ると、空は夕焼けでほんのりと染まっていた。


綺麗だな、そう思って見上げながら歩いていると、聞き慣れた声に呼び止められた。


「ルリ様?」


「珍しいですね、こんな時間に」


ヴァイオレットちゃんとアーサー君だ。


そういえば、ふたりが取り組んでいる薬草園やポーション作りも順調だと聞いている。


以前のような少し影のある表情はなく、背筋をぴんと伸ばして、元気そうだ。


レオンとアルがさっと控え礼を取った。


あ、そうだった。ふたりは王族なんだもんね。


人前だしと思って、慌てて私もそれに倣おうとすると、普通にしていてほしいと言われたため、いつも通りに接することにする。


紅緒ちゃんや黄華さんとお茶会だったのだと伝えれば、仲良しですねと返ってきた。


そういえばこのふたり、紅緒ちゃんと黄華さんに嫉妬してたんだっけ。


そのあたり、どうなったんだろう?


「私たち、実はこの前おふたりに謝ったんです。あまり良い態度ではなかったでしょうから」


まさに今思っていた疑問に、ヴァイオレットちゃんが答えてくれた。


でもそっか、謝ってくれたんだ。


「訳を話したら、笑って許して下さいました。それと、黄の聖女様からは、体調の悪い時に薬を処方してくれてありがとうとも。大した効き目じゃないはずなのに、助かったと言ってくれたんです」


アーサー君も、穏やかな声で話してくれる。


きっとふたりとも、今は充実した毎日を過ごしているのだろう。


焦らず、一歩一歩進んでいけば良いんだって、そう思えるようになったのかもしれない。


「ふふ。話してみると、ふたりとも素敵な人だったでしょう?私にとっても、大切な友だちなんです。ですから、おふたりにも仲良くなってもらえると、嬉しいです」


私の言葉に、ふたりがはいと返事をしてくれた。


特に紅緒ちゃんは、ひょっとしたら、未来のお義姉さんになるかもしれないんだもの。


気が早いかもしれないけど……やっぱり仲良くしてほしいと思う。


「殿下方、そろそろ……」


「あ、ごめんなさい。ふたりは忙しいのに、話し込んでしまったわね」


護衛さんの遠慮がちな声に、我に返る。


レオンだって今から仕事なのだし、付き合わせてしまって申し訳ない。


慌ててふたりに別れの挨拶をする。


今度はゆっくりお茶しましょうと伝え、ついでにスコーンも少しだけどおすそ分けすれば、笑顔が返ってきた。


できれば、陛下と紅緒ちゃん、黄華さんも一緒に。なんて、よくばりかしら?


ちょっぴりそれを期待しつつ、ふたりと別れ、足を進める。


レオンにも待たせてごめんと謝ると、呆れたような眼差しが返ってきた。


「聞いてはいたが、あの殿下方をああも手懐けてしまうとはな。全く君は」


「ええ、同感です。毎回毎回、本当に驚かされますね。ちなみに赤と黄の聖女様も、殿下方の変わり様に、さすがルリ様だと感嘆されていたようですよ」


いやいや、別に手懐けてるわけじゃありませんから。


「ちゃんと餌付けもなさったでしょう?この前も、今も」


……ま、まあね!だって喜んでくれるんだから、あげたいじゃない!


決して手懐けようとしている訳ではないことは、きっぱりと言わせてもらった。


……はいはいと軽く流されたけど。


そんな私とアルのやり取りを、胡乱な目でレオンが見ているのに気付いたのだが、私は知らないふりをしたのだった。





「じゃあ、お仕事頑張ってね」


「ああ。夜食(これ)があるからな、今日は楽しみがあるから頑張れそうだ」


騎士団長室に着いて中に入ると、サンドイッチとスコーンの入った包みを軽く掲げて、レオンが言う。


簡単なものだけど、いつもレオンはこうやってお礼を言ってくれる。


何気ないやり取りだけど、その……すごく幸せだなぁって思う。


少しだけ表情を崩して笑ってくれるところも、優しい声も、好きだなぁって。


だけどその分、離れるのが寂しかったりもするんだけどね。


「どうかしたか?」


「ううん。昨日、今日ってたくさん一緒にいれて、嬉しかった。また騎士団にも差し入れ、持って来るね」


寂しさを押し殺して、笑う。


けれど、上手く笑えていなかったのか、レオンがそっと私の頬に手を添えた。


「俺も、また連絡する。言っておくが、寂しいと感じているのは、ルリだけじゃないからな?」


「!な、なんで……」


図星を指されてかぁっと頬を染めると、くすっと笑われた。


「外でアルフレッドが控えているからな。声、出すなよ?」


「こえ?っ、ふうっ」


そしてすぐに唇を重ねられた。


最初は優しく、啄むように。


それが次第に、深くなっていく。


「っ……は、あっ」


息が苦しい。でも、嬉しい。


恥ずかしいのに、もっと、と思ってしまう。


縋るようにレオンのマントをきゅっと握ると、背中を支えてくれていた手に、力がこもる。


「ふ、うんっ。れ、おん……」


鼻にかかる自分の声が、甘い。


うっすらと開いた目から見えたレオンの瞳からは、確かに熱が感じられた。


好き、好きだ。


この気持ちを、なんて言えば伝わるのか、分からないけれど。


「レオン、私……」


もっと、あなたと深く繋がりたい。


そう、口にしようとした時――――。


コンコン。


「えーっと、お取り込み中かもしれませんが……。ラピスラズリ団長、陛下から伝令のようですよ?使者が来ています」


「「………………」」


部屋の外からのアルの声に、私たちふたりは我に返り、互いに顔を真っ赤にさせて目を逸らすのであった――――。

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― 新着の感想 ―
[一言] レオン、本日も生殺し確定(今回は場所が悪かった) ルリの方は「何時でもどうぞ」状態になってますから、後は本当にタイミングの問題なのがまた悩ましい。
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