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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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二杯目

「みんな、相談に乗ってくれてありがとう」


スッキリした様子の紅緒ちゃんがスコーンをもう一つお皿の上に乗せ、ぱくりと頬張る。


美味しいって笑う紅緒ちゃんの顔に、もう迷いはない。


「もし紅緒ちゃんが王妃様になっても、私と黄華さんはずっと変わらないよ。友だちだからね」


『おともだち、ってなに?』


リーナちゃんにも答えたことがあったね。


紅緒ちゃんが嬉しい時は、一緒に喜ぶ。


そして、悲しい時は一緒に泣くよ。


ずっと、応援する。


「スコーン、陛下の分に少し包んでもらうから、紅緒ちゃん、持って行ってくれる?」


「……うん。ありがとう、瑠璃さん」


そして、いつもみたいに前向きな笑顔で、陛下に伝えてあげてね。


“あたしが隣で支えてあげる!”って。






そうしてスコーンを持って陛下の元へと向かう紅緒ちゃんを見送り、部屋の中は四人になった。


まだ時間に余裕があると黄華さんが言うので、もう一杯お茶をとポットに手を伸ばす。


すると、珍しく黄華さんが私が淹れましょうかと言ってくれた。


お言葉に甘えてお願いすると、綺麗な所作で手際良く淹れてくれた。


家元のお父様から茶道を習っていたって話だったけど、紅茶を淹れるのもとても上手だ。


でも料理は苦手なんだよねぇと思っていたら、お茶をサーブしながら黄華さんが口を開いた。


「紅緒ちゃん、かっこ良かったですね」


「そうですね。陛下は本当に見る目ありますね」


きっとふたりは上手くいくだろう。


何だかんだいって、仲も良いし。


それに、紅緒ちゃんは意外と王妃様に向いている気がする。


芯も強いし、度胸もある。


男の人に尻込みをすることもないから、陛下や偉い人たちとも対等に話せるんじゃないかな。


まあこれから勉強しないといけないことは、たくさんあるかもしれないけれど。


そこは、陛下を隣で支えるんだって気持ちがあれば、きっと。


それに、助けてくれる人だって、たくさんいるんだし。


淹れてもらったお茶を一口飲む。


美味しい。


ほっとした気持ちになると、黄華さんがにっこりと微笑んだ。


「私たちも、紅緒ちゃんのためにできることはやってあげたいですわね」


うん、私もそう思う。


それぞれ立場は違うものになるだろうけれど、これからも三人で頑張っていきたい、って。


「すまない、私はそろそろ……」


そんな私たちを静かに見てくれていたレオンだが、仕事の時間になってしまったらしい。


部屋の片付けが気になったが、黄華さんとウィルさんがやっておくと言ってくれたので、お言葉に甘えてレオンを騎士団まで送ることにした。


ふたりにお礼を言って部屋を出ると、そこにはアルがひとり。


「あれ?リオ君はまだ帰ってきてないんだ?」


「ええ。何があるのかは分かりませんが、忙しいようですね。まあ黄の聖女様の護衛なら、引き続きアクアマリン副団長が喜んでやりそうですから、問題ありませんよ」


まあ、確かに。


アルってばいい笑顔だけど、ウィルさん派?


元々はお異母姉さんの婚約者だし、色々あって和解したんだから、そりゃ応援したいか。


それにしても、よく考えたら今、ふたりっきりの状況なのよね。


ただの片付けで終わるかしら?


思い出してみれば、片付けをお願いした時、すごく良い顔をしていた気がする。


これはこれは……何ごとか起こるかも?


「紅緒ちゃんもだけど、黄華さんにも後から聞かなきゃね」


「ルリ?どうかしたか?」


「ううん。なんでもない」


不思議そうな顔のレオンにそう答えて、アルと三人、騎士団へと続く廊下を歩くのであった。






******


瑠璃とレオンハルトが出て行った後、黄華はウィルと一緒に、少しだけ残っていたお茶を飲んでいた。


リオの用事はもう終わっているだろうかと考えながら、黄華はカップをソーサーに置いた。


その時、そういえばふたりきりだと、はたと気が付いた。


「そんな顔をしなくても。まあ、意識してくれているという意味では嬉しいことですが」


そんな黄華の心情を読み取って、ウィルがくすりと笑う。


見透かされているようで落ち着かないが、ウィルを意識してしまっているのは事実なので、否定することもできない。


いつもなら、瑠璃や紅緒にするように、からかう役目は自分なのに。


この男を前にすると、ペースを乱されてしまうのは何故なのか、分かってしまうのが怖かった。


「……ただ、紅緒ちゃんのことが気になっただけです」


精一杯の強がりで、嘘ではないことを口にすると、またぷっと吹き出された。


「全く。貴女たちは揃いも揃って……。まるで本当の姉妹のようですね」


その笑みがとても優しくて。


思わず、黄華の胸が高鳴った。


(いっ、今の“ドキッ”は、気のせいですわ!いつも愛想笑いをしているだけのくせに、あんなに優しく笑うから……っ!)


他の者に向けられたのを見たことがないような微笑みに、ただ動揺しただけだと、自分に言い聞かせる。


それに、姉妹のようだと言われて、嬉しかった。


自分には兄弟がいない。


それどころか、家族も、親しい友人だと言えるような人も。


けれど、異世界に来て、出会った人たちの温かさに触れ、心を取り戻した。


家族のように私のことを大切に思ってくれて、私のために泣いて、私のために笑ってくれる人がいる。


それならば、私もそれを返したい。


「……長女は私ですか。それならば、妹たちが幸せになるのを見届けないと、私も先には進めません」


ふいっと顔を背け、赤くなった頬を隠す。


すると、ウィルが嬉しそうな声を上げた。


「成程、ではベニオ様が上手くまとまれば、私のことをちゃんと考えてくれるということですね?基本、人の色恋沙汰に首を突っ込まないようにしているのですが、これは協力しないわけにはいかなくなりましたね」


「なっ!?そ、それは……!」


貴方のことを考えている余裕などないと、暗に告げたつもりだったのだが、違う風にとられてしまった。


というか、どれだけポジティブな考えなのか。


二の句が継げなくて、口をぱくぱくさせていると、今度は甘い微笑みを向けられる。


「申し訳ありませんが、そう簡単に諦められる気持ちではないのですよ。ああ、貴女が言っていた、“心を乱す”という意味、私はよく分かりましたよ。どうやらエリーも、似たことを言っていたらしいですね」


そう言うとウィルは、そっと黄華の頬に触れた。


ほんの少しだけ、指で撫でられただけなのに、黄華は胸がきゅっと縮んだのが分かった。


「そして、恋い焦がれる(ひと)には、()()手が出てしまうものらしいですよ」


そう言うと、ウィルの親指が黄華の唇を軽くなぞっていった。


「〜〜〜っっっ!」


声なき声を上げる黄華を、くすくすと笑いながらウィルが見つめる。


ひとりでドキドキしているのが無性に恥ずかしくて、その手を振り切るように、黄華は席を立った。


「そっ、そろそろ行きましょう!この後は、講義の予定があるんでしたわ!」


そう言って、簡単に茶器を片付けて侍女を呼ぶ。


そして扉を開けると、「リオはまだなんですか!?」と焦った声を上げた。


自分の言動で、真っ赤な顔と涙目になってしまった黄華がかわいくて、ウィルも頬を染めて満足気に笑い、その後を追うのであった。


******

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― 新着の感想 ―
[一言] 紅緒ちゃんはもう覚悟を決めているので、あとはカイン陛下が…………漢を見せるだけなんだけどなぁ( ̄▽ ̄;) つか、もう腹を括って紅緒ちゃんをお嫁さんにしちゃえってwww
[良い点] 紅緒ちゃんの迷いが晴れて良かったです。 陛下と結婚したら良い姐さん女房になりそう。紅緒ちゃんJKだけど。 [気になる点] レオンといいウィルといいどうしてそう女性に対して積極的なんですかね…
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