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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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彼と彼女と王位

(は?今、この男なんて言った?)


『俺はお前が好きだ』


(好き?好きって言った?この俺様男が?)


「……おい、ちゃんと聞いていたのか?」


何を言われたのか、信じられない思いで紅緒が呆気にとられていると、カインが眉間に皺を寄せた。


「え、あ、ごめん。あんたがそんなこと言うの、意外で……」


「……」


「……」


(ちょ、ちょっと!なんとか言いなさいよ!結局沈黙じゃない!っていうか、好きって、私を?)


じわじわと告白されたのだと理解し、顔が赤く染まっていくのが分かる。


色々聞きたいと思っていたはずなのに、急にそんなことを言われたら……。


「……嬉しい」


思わず本音が口から出てしまった。


それは本当にぽろりと零れてしまったもので、言った本人も驚き自身の口を手で塞いだ。


聞こえた!?と、そろりとカインの方を見れば、彼もまた驚きのあまり、あんぐりと口を開いていた。


「ち、違うの今のはっ!びっくりしてつい本音……じゃない、ええと……!」


真っ赤な顔であたふたと言い訳をし始めた紅緒に、カインがふっと笑った。


「そうか。嬉しいと思ってくれているのか」


好きな相手からの嬉しいという言葉に、自分も嬉しく思っていると、そのはにかんだ表情が告げていた。


(ちょ……!?なにこいつ、こんな顔して笑うの!?いつもバカにしたような、上から目線の乾いた笑いばかりのくせに……。そんな顔、反則だわ!)


一方の紅緒は、見たことのないカインの微笑みに、心臓をバクバクさせていた。


(好きだって、あたしが言おうと思ってたのに、先に言われた……っ)


そして、訳の分からない対抗心を燃やしていた。


そんな紅緒の胸の内など知る由もないカインは、ひとつ息をつくと、表情を変えて口を開いた。


「ならば尚更、お前には聞いてもらいたい」


真剣な瞳で自分を見つめるカインの迫力に圧倒されながら、紅緒はこくりと頷いた。



******


「王妃候補、か……」


父の死により、突然もたらされた王位。


それは、まだ先になるはずだった。


聖女たちを召喚することで魔物の発生がおさまりつつあり、緊急事態はこれで過ぎたと皆が胸を撫で下ろした。


国内が安定し始めると、貴族どもの間では俺の妃、つまりこの国の王妃は誰になるかという話題でもちきりになった。


元々婚約者すらいないのが異常だった。


後継者を作るのも、王族にとっては立派な務めの一つだ。


それでも、俺にはある問題があり、相手役はなかなか決められずにいた。


だから、聖女を召喚すると決めた時から、こうなるであろうことはうすうす感じていた。


召喚の前日も、そのことを考えていた。





――聖女召喚 前日――


聖女を、妃に。


恐らく、いつかそういう話が出る。


聖女として喚ばれた者には迷惑でしかないだろう。


人生を、大切な人を、夢を捨てさせられて、この世界に連れてこられて、その上――――。


それでも、この国のためには聖女が必要で。


いくら罵倒されても良い。


どんな憎み事だって受け入れよう。


どんな聖女だろうが、大切に慈しむ。


愛されたいと願うなら、心を込めて尽くそう。


それを望まないならば、務めを果たした後は、好きに過ごせるように手配でも何でもする。


「……父の残したこの国を繋ぐために、どうか」


もう俺には、その選択肢しか選ぶことができない。


死ぬまで、償う。


だから、どうか。






そうして召喚されたのは、ふたりの女性。


ひとりは幼い顔立ちだが、恐らく年上。


見知らぬ世界に連れられたというのに、呆然とはしているが大して驚きもせず、その目には光が無い。


絶望か焦燥か。


理由は分からないが、丁重に扱わなくては、そう思った。


そしてもうひとりは――――。


『はああああ!?』


気の強そうな、少女。


最初はやかましいだけの女かと思ったが、俺達の説明を聞いて、徐々に顔色が悪くなる。


『うそ、でしょ?パパやママに、もう会えないって、こと……?』


泣き崩れたその少女を目の当たりにして、ああこれが自分たちのした結果なのだと、身にしみて感じた。


深い罪。


その上、彼女たちのどちらかに課せられることになるかもしれない、重荷。


どんなに謝っても許されない。


いや、許されてはいけない。


それならば――――。


『お前は、その程度なのか?』


嫌われても良い。


この少女に、生きようとする気持ちを持たせるためなら。






死んだ目をしていた女は、オウカという名前で、しばらくするとこちらの生活にも慣れ、少しずつではあるが、表情も出てきた。


やはり彼女は年上――――それもかなり―――だった。


おっとりとしているが、元の世界では苦労したのだろうか、どこか達観したところがあった。


そしてもうひとり。


黒髪の少女は名をベニオといった。


オウカとは違い、一週間が過ぎても不安定だったのを見かねて、様子を見に行った。


その時、直感で思った。


ああ、この少女には、慰めではなく、自らを奮い立たせる言葉が必要なのだと。


……煽るだけの言葉しか出てこなかったのは、俺が悪かったと思う。


その場にいた全員から白い目で見られた。


しかし、ベニオは立ち直った。


オウカの支えもあり、少しずつこの国を受け入れ、自分ができることややりたいことを見つけ始めた。


時々顔を合わせると喧嘩にしかならないが、まあ良い。


怒った顔の方がよほど、泣き顔よりもあいつには合っている。


攻撃魔法が得意だということもあって、俺と共に訓練に参加することにもなった。


そのすぐ後くらいから、僅かではあったが、ベニオが候補かという声が聞こえるようになった。


……現金なやつらだ。


聖女たちが必死にこの国で生きようとしている時に、魔物の発生が落ち着いたからといって、自分たちの損得を考えはじめるとは。


……まあ、それは俺も同じだな。


俺には、やつらを責める資格はない。






そんなある日、三人目の聖女が現れたとの知らせが入った。


第二騎士団団長であるレオンハルト。


少し前、やつが原因不明の体調不良に倒れたことがあった。


もうだめかと誰もが思っていたのだが、兄が見つけてくれた魔術師に助けられたのだと、すっかり回復した姿を見せられたときは驚いた。


レオンハルトがその魔術師を探していたのは知っていたが……。


まさか、三人目の聖女がいたとは。


しかも、話を聞くと聖属性魔法を得意としているという。


報告を聞いて、心臓がどくりと鳴った。


俺が人生を奪ったのは、ふたりだけではなかったのだと。


また、罪が重くなったなと自嘲する。


『……その聖女を、王宮に呼べるか?』


きちんと、喚んだ者たちと向き合わなければ。


そして、自分の無力さを、せめて謝らなくては。






そうして王宮を訪れた三人目の聖女。


『――――お初にお目にかかります。和泉瑠璃と申します』


ルリと名乗ったこの三人目の聖女が、後に救いの道へと導いてくれることになるとは、この時の俺は思いもしなかった。

今日でなんと投稿を始めて1周年!!

なんとなく書き始めた話をここまで続けられたのも、皆様のおかげです。

ありがとうございます。


紅緒ちゃんが落ち着くのも、もう少しかな?

そしてレオンと瑠璃はいつになったら……笑

最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 祝!!一周年(*^▽^)/★*☆♪ いつの間にか一年も経っていたなんてびっくりですね! 一年前にふと気になった(旧)タイトルをポチっとクリックして、そのまま面白くて読んでいたら、あれよあれよ…
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