聖女会議11+α ①
王宮に着くと、ルカを騎士団専用の厩舎につなぐ。
またねと言って鼻先を撫でると、甘えた声を出してくれた。
軍馬だし気位が高いって言ってたけど、意外とかわいい。
またレオンに乗せてもらう機会があったら良いなぁと思うくらいには、楽しかった。
……ちょっぴり恥ずかしい思いはしたけどね。
そうしていつもお茶会をする部屋へと向かうと、途中でウィルさんと黄華さんに出会う。
リオ君じゃなくてウィルさんと一緒なんて、珍しい。
「ああ、リオは所用でね。代わりに私がオウカ様をエスコートしているんだ」
わぁ、ウィルさんてば良い笑顔。
きっとこれ幸いにと、護衛役を買って出たのだろう。
対して黄華さんは微妙な顔をしている。
いや、ほぼ諦めモードって感じかな?
あ、レオンも私と同じことを考えているのか、ため息をついている。
「ね、黄華さん」
「……何です?」
「黄華さんは結局、誰の気持ちを受け入れ――――」
「ああっ、瑠璃さんてばまた美味しそうなお菓子を作って来て下さったんですね!楽しみですわぁ!」
わざとらしく言葉を遮られた。
ちっ。だめか。
イーサンさんはいまいち分からないけど、ウィルさん、リオ君、カルロスさんは本気な気がするんだけどなぁ。
見た感じ、黄華さんが一番意識しているのは、ウィルさんかな。
紅緒ちゃんのことも心配だけど、こちらも気になる。
……誰を選ぶかは分からないけど、黄華さんには幸せになってほしいな。
わいわいと四人で廊下を歩いていると、丁度部屋の前で紅緒ちゃんに会った。
「瑠璃さん、急にごめんね。あ、団長さんも昨日はごめんなさい」
昨日?ああ、私が寝ちゃった時にレオンが応対してくれたからかな?
「ううん。呼んでくれてありがとう。スコーン作って来たから、食べながら話そう?」
包みを見せると、ちょっとだけ紅緒ちゃんの顔が明るくなった。
じゃあこれでと、レオンと別れようとすると、ちょっと待ってと紅緒ちゃんに止められる。
?どうしたんだろう。
「この際だから、団長さんと副団長にも話を聞いてもらいたいのだけど、時間あるかしら?アルバートではその……ちょっと参考にならなくて」
珍しく紅緒ちゃんが言い淀んだのを受け、みんなの視線がアルバートさんへと向かう。
「……すみません。恋愛方面には疎いもので」
レオンとウィルさんがまあ仕方ないかと苦笑いをする。
ふたりの様子からも、アルバートさんは恋人とかいないみたい。
剣一筋!ってことかな?
「私は構いませんよ。どうせ夜勤で夕方まで時間がありますから」
「私も。一応午後は休みなので」
レオンとウィルさんが快く了承してくれて、紅緒ちゃんがほっと息をついた。
ひとりだけ申し訳ないけど、アルバートさんには部屋の前の警備をお願いする。
後でアルも来るはずだし、リオ君も用事が済めば戻るだろうから、大丈夫だろう。
部屋に入ると、いつもの侍女さんがすぐにお茶を淹れてくれた。
スコーンも渡して、お皿に盛り付けてもらう。
いつものように少しだけお裾分けすると、喜んで受け取ってくれた。
そして侍女さんが静かに退室すると、紅緒ちゃんが早速スコーンを口に運ぶ。
「んんっ!美味しい!これって元の世界の?」
「そう、分かる?」
私のイメージしていたコーヒーショップのスコーンと、紅緒ちゃんの考えが一致したようだ。
それを聞いて黄華さんも一口。
「あら。本当ですね。なんだか懐かしいです。私も時々通っていましたから」
三人で懐かしみながら食べているのを、レオンとウィルさんが温かいけれど、少し申し訳無さそうな目で見つめていた。
「確かに美味しいですね。これも、あなたたちの故郷の味ですか」
「おにぎりとはまた違いますけどね」
故郷の味とは少し違う気もするけど、懐かしいことに変わりはない。
味わって、それぞれが一切れずつ食べ終わった頃、紅緒ちゃんが口を開いた。
「今日は、急にごめんなさい。もう知ってると思うんだけど、昨日の夜、あいつと話したの。急に態度が変わったことも、あいつの事情も一応聞かせてくれた」
そうして、紅緒ちゃんは昨日陛下と話したことを教えてくれた。
******
前日、日が落ちた頃。
紅緒はカインに呼ばれて執務室へと向かっていた。
夕日が差す頃からソワソワとしていたが、ほぼ約束通りの時間に呼ばれ、緊張しながら廊下を歩いていた。
きちんと話してくれるのだろうか。
事情とは何だろうか。
自分の気持ちを伝えても良いのだろうか。
そんなことばかりが、ぐるぐると頭の中を回る。
そんなことを考えていると、あっという間に目的地へとたどり着いてしまった。
この扉を叩いて良いのか、いやもう少し心を落ち着かせてから――――
コンコン
「失礼致します」
「ちょっとアルバート!?待ってよ、あたしにだって、心の準備ってものが――――」
「何を今更ぎゃーぎゃー騒いでいるんだ、お前は」
さっさと扉を開けたアルバートに、紅緒が抗議の声を上げると、中から呆れたような声がした。
カインだ。
しばらくゆっくり会う機会がなかったせいか、その姿を見ただけで胸がきゅうっとなった。
「うるさいわね!突然開いたから驚いただけよ!」
けれどそれを悟られたくなくて、つい可愛げのないことを言ってしまう。
しまったと思ってからではもう遅い。
相変わらずだなとカインがため息をついた。
「……今日は、割と顔色良いじゃない」
ちらりと見るカインは、書類仕事に追われて疲れてはいたが、少し前に比べると格段に顔色も良く、言葉も冴えている。
そんな紅緒の言葉を拾い、カインはぼそりと呟いた。
「……体と心が元気になったら、話してやってくれと言われたからな」
「え?なに?」
上手く聞き取れなくて聞き返したのだが、何でもないと言われてしまった。
気になるじゃないと言い返したかったが、ここで揉めても時間の無駄だ。
カインは忙しい中時間を作ってくれたのだからと思い、口をつぐむ。
「まあ、そのソファにでも座れ。今茶を運ばせる」
それがカインにも伝わったのか、座るように言ってくれた。
その言葉に甘え、すとんとソファに腰を下ろす。
そしてアルバートは、紅緒のうしろに少し距離を開けて立った。
一応この国の王と聖女だ。
ふたりきりは、外聞が悪い。
しばらくすると侍女がお茶を運びに来て、手際よくサーブすると、すぐに出ていってしまった。
そして落ちる沈黙。
(ち、沈黙が重いわ!アルバートでは気の利いた言葉も言えないだろうし)
若干失礼なことを考えていると、いつの間にか席を立っていたカインが、紅緒の前のソファへどさりと腰を下ろした。
ふたりの目が合う。
久しぶりに目が合った。紫が混じった、綺麗な黒い瞳だと紅緒が思っていると、カインがまず言っておく、とはっきりとした声で話した。
「俺は、お前が好きだ」




