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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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愛馬

翌日。私は部屋でレオンと話していて、お酒を飲み始めてからの記憶がおぼろげだった。


「う〜ん、確か紅緒ちゃんの話をしていて……。レオンに励まされて、それから……?」


「いや、覚えていないならそれで良いんだ」


なぜか諦めたような表情のレオンに、私は首を傾げるしかなかった。


覚えていない。覚えていないけど、多分私は何かやらかしたのだろう。


「えーっと、ごめんね?」


「いや、謝るようなことは何もしていない。ただ、ひとつ約束してくれ。俺がいない所では飲まないこと。それと、飲むにしても少量にすること。あと、男に勧められても絶対に飲まないこと」


……ひとつじゃない。


そう思いはしたが、ここは大人しく頷いておこう。


そして、私はできるだけ飲まない方が良いらしい。


確かにグラス一杯しか飲んでないのに記憶がないなんて、おそろしい。


飲みやすいし美味しいと思ったのだが、意外と強いお酒だったようだ。


「それと、赤の聖女様から誘いがあったぞ。今日、王宮に来れないかと」


「!きっと陛下と話した件だよね。分かった、ありがとう」


そうだ、それを心配してレオンと話していたんだった。


陛下とちゃんと話せたのだろうか。


「一日空いているとは言っていたが、黄の聖女様の都合も聞いておくと言っていたから、一度連絡してみると良い」


「そうだね、ありがとうレオン」






その後紅緒ちゃんに通信し、黄華さんとも都合を合わせて昼過ぎに王宮で会うことになった。


時間があるので、紅緒ちゃんの好きな甘いものを持って行こうと思い立ち、チョコチップスコーンを作ることにした。


元の世界のコーヒーショップでよく頼んでいた、ケーキのピース型のもの。


家でも食べたくて作ってみたら、意外と簡単にできることが判明して、それからは板チョコとホットケーキミックスでよく作ってたなぁ。


まぁこの世界にホットケーキミックスなんてものがあるはずもないので、生地からちゃんと作るんだけどね。


それでも、そんなにたくさん材料があるわけじゃないし、大変ではない。


紅茶やコーヒーに合うのよね。


たくさんできるし、ラピスラズリ家のみんなの分も作っておこう。


そうして焼き上がったスコーンを包んで、王宮へ行く準備をする。


今日はレオンが送ってくれると言うので、お言葉に甘えることにした。


「わざわざごめんね」


「いや、どうせ夜勤で夕方には出仕しなくてはいけないからな。少し早めに行くだけのことだ」


それに差し入れももらえたしなと、レオンがスコーンの入った包みを揺らす。


甘さ控えめが好きなレオンには、ビターチョコ入りのほろ苦スコーンを作ってみた。


夜勤だって言うから、簡単なサンドイッチも一緒に。


気に入ってくれると良いな。


そんなやり取りをしながらエントランスから外に出ると、そこにはセバスさんが一頭の馬を連れていた。


黒い、綺麗な毛並みの馬だ。


レオンがセバスさんにお礼を言って綱を持つと、さあ行こうかとこちらを向いた。


「え、馬で行くの!?」


「ああ、たまにはどうかと思ってな。良いだろう?」


こくんと頷く。


前にスタンピードの遠征に行った際、馬に乗れると良いなぁって思ったっけ。


なかなか機会がなくて、陛下に子守唄を歌いに行った時以来練習することはなかったけど、レオンと一緒なら安心して乗れそうだ。


レオンの愛馬、名前はルカ。


とっても賢くて、少し気位が高いんだって。


……私、乗せてもらえるのかしら?


「大丈夫だ。私が気を許した相手なら、こいつも従ってくれる」


レオンがそう言うので、恐る恐るルカに触れてみる。


わ、意外と硬い。でも温かくて、綺麗な毛並みだ。


「よろしくね、ルカ。乗せてくれる?」


意思の強そうな目を見ながらそう聞いてみると、じっと見つめられた。


しばらくそのまましていると、やがてぺろりとルカが私の頬を舐めた。


「気に入られたみたいだぞ。良かったな、ルリ」


ぺろぺろとなおもルカが舐めてくる。


「本当?嬉しい!ルカ、ありがとう」


レオンのお墨付きをもらえたのなら、大丈夫なはずだ。


鼻の先を撫でると喜ぶぞと言われたのでやってみると、こしこしと手のひらに擦りつけられた。


「じゃあ頼むぞルカ。私の恋人だからな、慎重に走ってくれ」


そう言って先に騎乗したレオンが、私に手を差し出した。


上手く乗れるかなと不安に思いながらも、セバスさんに手伝ってもらいながら乗り上がる。


「わぁ……!高い!」


思っていたよりも目線が高くて驚く。


だけど、怖いわけじゃない。


むしろ、すごく気持ち良い。


「じゃあ進むぞ。ルカ、ゆっくり頼む」


レオンが合図を出すと、ルカがゆっくりと歩き出す。


わ、動いた!すごいすごい!!


「思っていたよりも平気なようだな」


「うん!すごく楽しい!」


ルカが気を遣ってくれているからだろうが、揺れもそれほど激しくないし、緩やかな走行は風が気持ち良い。


うしろから感じる体温が温かいから寒くないし……って、あれ。


「どうかしたか?」


みっ、耳元!ち、近い……!


初めての乗馬体験ではしゃいでいて気付かなかったが、このうしろから抱き締められている格好は、かなり恥ずかしい。


体温を感じるのはもちろん、しゃべりかけられると耳に直接響く。


馬車と違って周りからは丸見えだし、何よりこんな綺麗な馬に、こんな美形騎士様が乗

っているのだから、目立たないわけがない。


チラチラと見られている……!


視線が痛い!!


「え、えーっと。レオン、私平気そうだし、もう少しスピード出しても良いよ?」


ここでルカから降りるのは無理だ。ならばせめて、早いこと終わらせよう。


そう思ってレオンに提案したのだが、あえなく却下されてしまった。


油断すると危ないから、だって。


真面目だなぁ……でもそう言われてしまったら、このまま耐えるしかない。


「昨日のお返しに、これくらい良いだろう」


「?何か言った?」


うしろでレオンが何か呟いたと思ったのだが、何でもないと言われる。


そしてなぜか上機嫌?


「……ね、ひょっとしてわざと距離詰めてない?」


「ばれたか?」


もう!と怒りたくなったが、ここは馬上。


バランスを崩して落馬する訳にはいかない。


赤くなる顔を自覚しながら、私は黙ってこの羞恥に耐えるしかないのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 乗馬は初めてではないですよね?陛下を寝かしつけに行った時に結構なスピードで駆けてたような… 馬の名前が以前と違うのは、前回は侯爵家の馬だったのかな?
[一言] ルリさん………やっぱり覚えて無かった~(* ̄∇ ̄*) レオンさんはルリさんに攻められたお返しとか!!(///∇///) 二人のイチャラブは可愛いくて好きです(*´ω`*)
[良い点] 子守唄で出てきたフレイヤはどこへ行ったの?
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