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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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バル風味

夕方、厨房で料理の仕上げをしていると、ひょっこりとレオンが顔を覗かせた。


レオンハルト様!?と料理人のみんながぎょっとしている。


まあ普通はこんなところに出入りしない人だもんね、驚くのも無理はない。


「ああ、今日も料理を作ってくれていたのか。楽しみだな」


ちょっと久しぶりだからね、私もそんな優しい眼差しで見つめられると、胸がきゅんってしちゃう訳ですよ。


ほらほら、侍女さんたちの顔も真っ赤じゃない。


ラピスラズリ家では、もうすっかりこの柔らかな表情がお馴染みだけど、王宮でお仕事中のレオンは、冷静沈着な“青銀の騎士様”なんだよね。


すごく凛々しくて、そんな姿もすごくかっこいいなぁって思う。


思うけど、でもやっぱり私に向けてくれるこの表情が好きだ。


「レイ君とリーナちゃん、レオンに会えるの楽しみにしてたから、先に行ってあげて。私ももう少ししたら出来上がるから」


「分かった。待っている」


そう言うと、レオンはふわりと笑って厨房を出て行った。


早く帰って来てくれて良かった。


私も話したいこと、たくさんあるし。


料理とお酒も、喜んでもらえると良いな。


「おいルリ、顔がニヤけてるぞ」


「えっ!?嘘っ!」


本当だ、とにやにやしながらテオさんがからかってきた。


うう……どうして私の表情筋は素直なんだろう。


こうも思っていることが表に出やすいのは、正直自分でも直さなければと思っている。


「ま、それがルリの良いところでもあるからな。そう気を落とすな」


ぽんぽんとテオさんに頭を撫でられる。


「……子ども扱いしないで下さい」


ぷくっと頬をふくらませてみれば、わははとまた笑われた。


私もまだまだだ、そう思いながらもこうした時間が嫌いじゃない。


こんな時にふと、やっぱり転移してきたのがここで良かったと、そう思うのだ。






「お待たせしました。今日はお酒に合うものを作ってみました。レイ君とリーナちゃんには、お酒風ジュースを作ってみたよ」


そして夕食。いつもの食堂にみんなが揃い、マリアやマーサさんと一緒に、料理を並べていく。


ブルスケッタにガーリックポテト、チーズフォンデュはみんな何これ?という顔をしている。


ワインを添えれば、まるでイタリアンバルみたいなメニューになった。


「わあ!これ、じゅーす?」


「ワイングラスに入れるだけで、確かにお酒のように見えますね」


目の前に出されたジュースを見て、リーナちゃんとレイ君が目を輝かせた。


うふふ、見た目って大事よね。


気分だけでも大人と同じものを味わえる。


「!んっ、すごくおいしい!これなに?」


一口飲んだリーナちゃんが、ぱっと顔を綻ばせる。


隣のレイ君も頬が緩んでいるところを見ると、どうやら気に入ってくれたようだ。


私が作ったのは、ノンアルコールカクテル、ファジーネーブル風。


まあつまり、ピーチジュースとオレンジジュースを混ぜて、グラスに輪切りのオレンジを添えたものだ。


それだけでぐっとオシャレに見えるから、不思議だよね。


「何だそれは!?甘いのか?美味いのか?」


エドワードさんが前のめりだ。


予想はしていたが……やはり。


テオさんの指摘通り、ちゃんと用意しておいて良かった。


エドワードさんの分もありますよと伝えれば、満面の笑みが返ってくる。


これにはエレオノーラさんやレオンが、申し訳無さそうに私に視線を送ってきた。


いえいえと苦笑を返せば、はぁとため息をついたのが分かる。


まあ私も飲みたかったし、作る量が多少増えたところで問題ない。


「さあさあ、テオさんたちが作ってくれたお料理も冷めちゃいますし、いただきましょう?」


ワイングラスを片手に、みんなで料理を堪能しようじゃないですか!


まずみんなが興味を示したのは、やはりチーズフォンデュ。


温めてトロトロになったチーズの前に、ブロッコリーやニンジンなどの野菜や、パン、ソーセージなんかも置いてある。


単純だけど、これが美味しいのよね〜。


まずは見本、とフォークにブロッコリーを刺してチーズを絡める。


チーズたっぷり!カロリーは気になるけど、これが美味しいのだ!


はふはふしながら口に入れると、程よい塩味のついたブロッコリーと、濃厚なチーズの風味が合わさって、たまらなく美味しい。


んん〜!と惜しみなく美味しいことをアピールすると、みんなも私の真似をしながらそれぞれ好きな具材をチーズに絡め出した。


「「「!美味しい!!」」」


「ちーずがとろっとして、すごくおいしい!」


「本当だ。これならリーナもたくさん野菜が食べられそうだね」


よしよし、チーズフォンデュは好評みたい。


ブルスケッタはオープンサンドみたいなものだし、トマトやチーズなど、具材も馴染みあるものだから抵抗なく口に入れてくれているわね。


あとはガーリックポテトだけど……。


「……酒に合うな」


レオンの呟きにうんうんと頷く。


以前作ったフライドポテトも、やめられない止まらないだったけど、これはこれでお酒が進む一品だ。


味見したテオさんも、エールに手を伸ばしかけていた。


イーサンさんに出したら、お酒とポテトを無限に飲み食いしそうだなぁと想像して、くすりと笑う。


イメージだけど、ウィルさんとかもお酒に強そうだよね。


私も、もう少しお酒に強かったら一緒に飲んだりできるのになぁ。


「そういえば、ルリはあまり飲まないのね。遠慮しているのなら、気にしなくていいのよ?」


「あ、えーっと。好きは好きなんですけど、あまり強くなくて。今度、寝る前にちょびっとだけ試してみます」


エレオノーラさんが気にかけてくれたけど、しばらく飲んでなかったし、こちらの世界のお酒のアルコール度数がいかほどなのか、それも気になる。


元の世界では、酔ってもすぐそこにベッドがあったから問題なかったけど。


油断して飲みすぎて、しばらくうとうと……なんて、向こうでもザラだったのよね。


しかも今日は、ついついお酒を飲みすぎてしまいそうなメニューだ。


みんなの前で倒れて醜態を晒すわけにはいかないし、ここは我慢しよう。


エレオノーラさんもそれ以上は勧めず、慣れてきたら一緒に頂きましょうねと言ってくれた。


「このチーズフォンデュとやらは、意外と簡単なのだな。野営でもできそうだ」


そして、レオンが自然な流れで話題を変えてくれた。


「あ、そうだね。チーズを焦がさないように気をつければ、野営でもできると思うよ。それと、チーズだけじゃなくて、チョコフォンデュっていう……」


「チョコ?チョコレートですか?」


「なにっ!?それはどうやって作るのだ!?」


つるっと滑らせた私の言葉に、レイ君とエドワードさん、ふたりの甘党が反応してしまった。


あーあーあという顔をしたエレオノーラさんとレオンに残念な目で見られる。


そして、わたしもたべてみたい!というリーナちゃんの鶴の一声で、結局後日チョコフォンデュを作ることになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 朝一からメシテロありがとうございますw 酒の肴ならバーニャカウダやアヒージョなんかも良いですね(* ̄∇ ̄)ノ (向こうの世界にアンチョビは有るんだろか……σ( ̄∇ ̄;) 両方とも野菜たっぷり…
[良い点] どの料理も美味しそうですな。 どうしてチーズのようなカロリー高いものってあんなに美味いのか。手が止まらないですな。
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