誤解
リアムさんに了承を頂けたので、近くにあったベンチへと移動する。
できれば二人で話したいなと思ったので、アルには少し離れたところで護衛してもらうことにした。
二人並んでベンチに腰を下ろすと、リアムさんに少し距離をとられた気がした。
うーん、これは信用できないとの警戒の表れなのだろうか?
それとも別に理由がある?
「……何か?」
じっと見つめていると、居心地が悪そうにリアムさんがこちらを向いた。
あ、ちょっと不躾だったなと反省し、話し始める。
「すみません、こんな風にお呼び立てしてしまって。先程は本当にありがとうございました」
あまり硬くならないでほしいなと思い、笑顔でお礼を言ったのだが、やはり眉をひそめられた。
うん、ちょっと傷付くけど、まあこれは予想内だ。
「では、本題に入りますね。ずっと気になっていたのですが、リアムさんはどうして管理者に応募されたのですか?」
一応これは、前回の面接の際にシトリン伯爵も尋ねている。
その時の答えは、『新しい教育方法に興味を持ったから』という、可もなく不可もない、ありふれたものだった。
そして今回も、同じ答えを返される。
前回も答えたでしょうという心の声が聞こえてきそうな、怪訝な顔で。
うん、ちゃんと覚えてますからそんな顔をしないで下さい。
でも、その答えは確かに間違ってはいないかもしれないが、それだけじゃない気がする。
「うーん、では、質問を変えますね。リアムさんは、なぜ今のお仕事に関係があるわけでも、領地で栄えている分野でもないのに、教育に興味を持たれたのですか?もし管理人に選ばれたとして、それを何かに活かそうとされていますか?」
聞いたところによると、ローズクォーツ領は農業や畜産業が盛んらしい。
ローズクォーツ家は華やかな容姿の者が多いので意外に映るが、家の者たちもそれを好んでいるのだとか。
ちなみに音楽や芸術に才能を開花させる者も多いらしい。
だけど、どちらにしてもそれと公園って、あまり結びつかないわよね。
だから、聞いてみたい。
何を思って興味を持ったのか。
じっとその目を見つめると、少し意外そうに目を見開いてリアムさんが口を開いた。
「成程、あなたはこうしていつも男性たちを虜にしているのですか?」
「……へ?」
予想の斜め上どころか、質問の答えになっていない言葉に、思わず間抜けな声が出てしまった。
「そういうあどけない表情も計算で?」
「は?」
そして心なしか、リアムさんの表情が険しくなっていく気がする。
「そうやって、赤の聖女様の居場所を奪っているのでしょう?」
「はあああああ!?」
『紅緒ちゃんを思うあまり、目の上のたんこぶな瑠璃さんを嫌うとか、そんな理由だったりしますけどねぇ』
黄華さん、大当たりかもしれません……。
一旦落ち着いて話しましょう、ということでリアムさんに色々話を聞いたところ、彼の中の私は、悪役令嬢ならぬ“悪役聖女”だったらしい。
領地での魔物騒動が収まった後、お礼にと紅緒ちゃんを訪ねた際に、お礼を言われるようなことはしていないと謙遜する姿に、紅緒ちゃんに敬意を抱いたリアムさん。
その際、どうやら紅緒ちゃんが『私なんかよりも瑠璃さんの方がすごい』的な発言をしたらしい。
そこでリアムさんは、あんなに魔法に明るくて討伐でも活躍している紅緒ちゃんが、自信を持てていないのは何故だろうと思ったらしい。
そして、少し前に陛下を見つめて辛そうにする姿を目撃し、何か憂いがあるようだと心配になったようだ。
うーん、確かにここまでは分かる。
陛下とギクシャクしているのも本当だったし、心配になる気持ちも分かる。
しかし、この後の話は全く意味が分からなかった。
「そして、私は気付いたのですよ。赤の聖女様は陛下を慕っておられる。しかし、あなたがそれを邪魔しておられるのだろう、と」
「いやいや、何でそうなったんですか!?」
前半は分かる。というか当たっている。
でも後半はどこから出てきた!?
「最近、よく耳にするのですよ。陛下のお妃候補筆頭は、あなただと」
……は?
「“癒やしの聖女”」
!?っっっっ、な、なんで恥ずかしいその称号?のことを知って!?
「最近、あなたはそう呼ばれているのです」
あ、知ってる訳じゃないのね。
動揺してしまったが、それでもちょっと意味が分からない。
「魔物討伐にも自ら出る、勇猛果敢な陛下のお相手は、そういう護る力に長けている方のほうが良いとの考えが多数でして」
え、それなら黄華さんの方が向いてない?
「黄の聖女様は世継ぎのことを考えると、お年が少し……」
年上すぎだってこと?
失礼ね……。
「仕方ないのですよ。一国の王の妃になる方を選ぶには、考慮すべきことなのですから」
まあそれはそうかもしれないけど、と一応納得する。
そして、この人も私の心の声を読むスキルを持っているのかと、ちょっぴり感心してしまった。
「それとお披露目の場、あの場には私もいたのです。あなたが陛下と仲睦まじく踊られているところも拝見させて頂きました」
仲睦まじく?確かあの時は、陛下が良い王様ですねって話と、紅緒ちゃんと話して下さいねってことをしゃべりながら踊ってたんだっけ?
「あの陛下が、公の場で女性相手に頬を染めるところを初めて見ました」
あ、あー。そんなことあったかも。
照れ屋さんなのも魅力だなとか、弟みたいに微笑ましく思ってたあれかな?
「以前は赤の聖女様と楽しそうにされていたのに、最近はめっきり陛下が冷たくあしらっているとか」
確かに最近のふたりのすれ違う様子では、仲良くは見えないかもなぁ。
「その上、先日の遠征後の打ち上げであなたと陛下がふたりでバルコニーに出られたとか。砕けた様子で、陛下も楽しそうだったと騎士たちが噂していましたよ」
え、あれ見られてたの?
っていうか、そこまで聞くと確かに……。
「ラピスラズリ第二騎士団長と恋仲との話もありますが、あの方だけでは足りなくなったのですか?それで陛下にまで色目を使うように?」
あーーーー。そう思っちゃうのも無理はないかも、ですね……。




