助けの手
陛下たちが帰還してから数日後。
今日は前回の面接を合格した方たちと一緒に、公園の視察に来ている。
なぜかというと、実際に管理してもらう上で、現場を見ながらそれぞれが思っていることを聞くためだ。
例えばこんな設備があったら良いだとか、後々こんな懸念が出るだろうからこんな対策をすると良いなど、管理者としての視点に立ってもらって意見を聞きたい。
新たに公園を増やす際の参考にもなるしね。
どれだけこの役目を大切に思っているかも分かるはずだ。
紙の上の情報と、現場を知らない人間の言葉だけで決めるのは良くないと思い、シトリン伯爵に私が提案した。
保育園幼稚園でも良くあるのよ、現場に出て来ない理事長や園長に振り回されること。
現場の意見って大事なんだから!と同業の友人が愚痴っていたのを思い出す。
管理者となる人には、半端な気持ちでやって欲しくはない。
ちゃんと現場を見て、それに合った管理の仕方を考えられる人に請け負ってほしい。
ということで、もちろんと言うべきか、この場にはリアムさんもいる。のだが。
「私が思うに、この遊具の管理ですが――――」
「あ、そうなんです。やはり安全性を考えて月に一度は点検が必要だと思いますし、メンテナンスも……」
「……そうですね」
つ、冷たい!素っ気ない!!
嫌われている(多分)からって避けるわけにはいかない!と私からも積極的に会話に入ろうとするのだが、反応は良くない。
だからって特別睨まれたりする訳ではないのだが。
ただ、眉間に盛大に皺が寄っている。
せっかくの色男が台無しなくらいに。
本当に、何でこんなに嫌われてるのかな?
うーん、心当たりはないんだけど……。
ひとりでうんうん呻っていると、別の若い候補者の方が話しかけてくれた。
確かオリバーさんだっけ。
男爵家の三男さんだったはず。
この人もなかなかのイケメンだなぁ。
本当にこの世界、どうなってるんだか。
「いやあ、実は私、困っていたんですよ。ほら、家は長兄が継ぐことに決まっているし、しかも兄夫婦は男子にも恵まれた。もう私は用ナシなんでね、これからどうしようかなーって」
そう、元の世界では自営業だと兄弟の誰かが後を継いだり、兄弟で手伝うこともままあるが、こちらでは長男が継ぐ一択。
それ以外の男子は外で働き口を見つけるか、婿に入ってそちらを継ぐかしかない。
レオンなんかは適齢期になったらすぐ、家を出て騎士になったらしい。
まあエドワードさんのように侯爵でありながら王宮で働いていたり、そういうことも勿論あるのだが。
そして、オリバーさんはどうやらお仕事探し中のようだ。
そんな時に幼児教育に興味を持って、応募してくれたのかな?
と思ったのだが……。
「採用して下さったら、仕事も覚えますよ。まあ私は貴族として教育をきっちり受けていますし、そこそこ優秀でしたから?そこらの平民や貴族の次男三男よりは、よほど頼りになるはずです」
……何だろう、なんか嫌な感じ。
決定的にダメな言葉は言っていないが、どこか引っ掛かる。
はあ、と曖昧な返事をしていたら、急に距離を詰められた。
「それと、青の聖女様にもしっかりご奉仕させて頂きますよ……?」
耳元で囁かれた言葉と肩に乗せられた手に、一瞬思考が停止した。
は?これってもしかして、色じかけってやつ?
そう思ったら、だんだんと怒りが込み上がってきた。
「やめ……」
ぱんっ!
「失礼」
え……リアムさん?
何とリアムさんが私とオリバーさんの間に入って、肩に乗せられていた手をはたき落としてくれた。
「な、何だ?」
オリバーさんが一瞬怯むが、すぐにリアムさんを睨んだ。
「そこまでにしておけ。聖女の護衛に殺されたくなかったらな」
護衛って、アル?
ぱっとアルの方を見ると……うわあ。
「どうやらこの場に相応しくない人間がいたようですね。私がしま……いえ、お帰りの見送りを致しましょう」
一見冷静だが、アルのうしろに禍々しいオーラ的な何かが見える。
これは黄華さんじゃなくても見える。
しかも今、始末って言おうとして言い直した?
そしてアルはオリバーさんに近付くと、そっと耳元で何かを囁いた。
それを聞いたオリバーさんの顔色は、青いを通り越して白くなってしまった。
「おや?この程度でその様子では、残念ながら管理人は任せられませんね。顔色も悪いようですし、どうぞこのままお帰り下さい」
にっこりと微笑んではいるが、その目は全く笑っていない。
こ、怖い。
オリバーさんも、脱兎のごとく自分の馬車へと帰って行った。
ちょっと可哀想な気もするけど、助かった。
「……それでは私はこれで」
アルに気を取られていると、リアムさんが立ち去ろうとする。
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい!」
慌てて呼び止めると、少し眉間に皺は寄っているが、一応立ち止まって振り返ってくれた。
「あの、ありがとうございました。それで、もし良かったら少しだけお話しませんか?」
断られるかもとは思ったが、言うだけならタダだ。
ダメ元で聞いてみると、少し驚いたように目を開いてからリアムさんが口を開いた。
「……それは、この仕事に関してのお話でしょうか?」
「はい、勿論です」
「ならば拒否することは出来ませんね。お付き合い致します」
うっ……ま、まあ仕方ないな感はすごいけど、一応話す機会はもらえた。
それに、こうして助けてくれたことを考えると、きっと悪い人ではないはずだ。
まずは相手を知ることから始めないと。
私のことをどう思っているかはひとまず置いておいて、どうして応募したのかだとか、聞いてみたいことは色々ある。
「ありがとうございます。では、あちらのベンチに行きましょうか」
リアムさんという人を知るために、きちんと話をしてみよう。




