最強説
「あ、帰って来た!おーい、みんな!」
王都に入ったとの知らせを受けた後、出迎えのため城門前で待っていると、少しずつみんなの姿が見えてきた。
馬に乗って先頭を走るイーサンさんを見れば、いつもの笑顔で手を振ってくれている。
そのすぐ後を駆ける陛下も、少し前に倒れたとは思えないくらい、しっかりとした手綱さばきで馬を走らせている。
紅緒ちゃんと黄華さんは馬車の中なので姿は見えないが、周りのみんなのにこやかな表情から、無事であることが窺える。
良かった、みんな怪我とかも大丈夫そう。
それなら用意したご馳走、たくさん食べて喜んでもらえると良いな。
そんな気持ちで私も手を振り返した。
「ん〜〜〜っ、このコロッケ最高!」
「本当、久しぶりに食べましたけど、美味しいですね。中に卵も入っているんですか?」
「お口に合って良かった。たくさん食べてね」
無事の帰還を果たし、とりあえずまずは夕食だ!ということで、料理を囲んでいる。
紅緒ちゃんと黄華さんがホクホクのコロッケを頬張って、とっても良い顔をしてくれた。
味見に食べたアルも、美味しいです!と気に入ってくれたし、かなり良い出来になった。
騎士さん達にはやっぱりおにぎりが好評で、ベアトリスさん達が作ったお肉料理の消費もすごい。
遠征食が改善されたとはいえ、やっぱり出来たて料理には敵わないわよね。
それに、私の作ったものは庶民料理ばかりだけど、王宮の料理人さん達の料理は凝った作りのものが多い。
味も絶品!だしね。
「お前は変わった料理を作るな。だが、味は悪くない」
今日は陛下も参加してくれている。
以前は俺がいない方が〜とか言ってさっさと自室に戻っちゃったのよね。
ふたつめのコロッケに手をつけるところを見ると、意外と気に入ってくれたのだと思う。
「ねえねえ瑠璃さん、デザートも何か作ってくれた?」
わくわく顔の紅緒ちゃんに、思わず笑みが零れる。
さすが女子、甘い物には目がないなぁ。
そこでデザート用にと用意したチョコ菓子を、テーブルまで持って来る。
「紅緒ちゃんの好きなチョコのお菓子だよ。ブラウニー、好きかな?」
「きゃー!瑠璃さん大好き!!ブラウニーも大好き!!」
おっと、美少女の大好きとハグ頂きました。
いやぁこれだけ喜んでもらえると、作った甲斐があるってものよね。
「甘さ控えめにしたし、ナッツとかも入っていて結構お腹にたまるので、別で包んであるやつは、陛下やウィルさんも非常食用に持って行って下さいね」
書類仕事の時なんかは嬉しいおやつになるもんね。
頭使う時は甘いものが欲しくなるものだ。
ちなみにこの場にはいないレオンの分もちゃんと取っておいてあるので、後から差し入れに行く予定だ。
「おいおい、俺の分はないのか?ルリ」
お土産用のブラウニーを配っていると、イーサンさんが不満そうに抗議してきた。
「え、だってイーサンさんは書類仕事なんてしませんよね?」
そう返してみれば、ぐっと仰け反って焦った顔をした。
レオンからの苦情、聞いてますよ〜?
「ちゃんとお仕事する人の分しかありません」
そうピシャリと言えば、周りから笑いが起きる。
「くそ、お前等覚えておけよ!おいルリ、俺もこれからちょっとは頑張るから!」
「ちょっと?人に迷惑かけるようじゃダメですよ?」
暗にレオンに仕事を振るなと言ってみれば、ぐぬぬとイーサンさんが葛藤しているのが見えた。
「わ、分かった。できるだけ自分でやる!だから俺にも時々差し入れしてくれ!」
おおっ!と騎士さんたちから驚きの声が上がった。
第三の騎士さん達だ。
どうやらイーサンさんがこんなことを言うのは、かなり珍しいみたいね。
「分かりました。人を頼るのは、お手伝い程度にして下さいね。イーサンさんの好きなものも、今度から作って持って行きますから」
にっこり笑って隠しておいたブラウニーを渡せば、しっかりと頷いて約束してくれた。
よしよし、これでレオンの心労も減るはずだ。
「瑠璃さん、最強……」
「なるほど、食べ物で釣るんですね」
「さすがですね。ルビー団長がこんなにいいようにされているのを、初めて見ました」
紅緒ちゃん、黄華さん、アルがもぐもぐとブラウニーを頬張りながらそんなことを言っている。
ちなみにこの後しばらくして、ルビー第三騎士団長が真面目に仕事をするようになった!と、たくさんの偉い人たちから感謝されることになるのだが、それはまた別の話だ。
そうしてお腹も落ち着いてきたので、改めてみんなの無事を喜ぶことにした。
「それにしても、大きな怪我の人もいないし、みんな無事で本当に良かったです!」
そう告げたのだが、なぜだかみんな一瞬動きが止まった。
?どうしたんだろう。
「……まあ、今はみな怪我などほとんどありませんね」
「そうだな。今はな」
ウィルさんとイーサンさんが微妙な顔をしてそう答える。
どういうことですか?と聞いてみれば、陛下が嫌そうな顔をした。
「……少しドジを踏んでな。少々怪我を負ったのだが、お前のポーションのおかげでこの通り、綺麗に治った」
「え!?そうだったんですか!?あ、でもポーション……。役に立って良かったです」
どうやら怪我を負ったのは陛下だったらしい。
腕を捲って見せてくれたが、傷の跡などなく、綺麗な状態だった。
ポーションのおかげで治ったのならば、遠征までに開発できて本当に良かったと思う。
国王陛下が大怪我なんて、シャレにならない。
まあとりあえず、ポーションの助けもあって無事にみんなが帰れたのは喜ばしい。
ほっとしていると話題も変わり、和やかな雰囲気が戻る。
すると、怪我のことを言われて居心地の悪そうだった陛下が、少し風に当たってくると言って、腰を上げて行ってしまった。
うーん、ドシを踏んでと言っていたが、油断でもしたのかな?
そしてちょっと落ち込んでいるのかもしれない。
励ましの言葉をかけてみようかなとそっと席を立ち、陛下を追う。
「大丈夫ですか?」
うしろから声をかければ、お前かと顰めっ面をされた。
「気をつけて下さいね。まあ多分、気を抜いていた訳ではないんでしょうが。紅緒ちゃんともまだ話してないんでしょうから、勝手に死なないで下さいよ?」
「お前……」
めっ、という顔で告げれば、陛下はぴくぴくと頬を引き攣らせた。
失礼な言い方だとは思うけど、なーんかほっとけないんだよね。
陛下は何か言いたそうだったが、諦めたようにため息をついた。
「……お前には、あんなに簡単に大好き、とか言うんだな」
「はい?……ああ、紅緒ちゃんですか」
確かに先程ブラウニーを出した時にそんなことを言われた。
「俺に対しては口を開けばムカつくだの大っキライだの言うくせにな。……最近はあまり話していないが」
うーん、こりゃだいぶこじらせてそうだ。
でも紅緒ちゃんのそれは、ただの照れ隠しだと思うけれど。
「好きの反対は無関心、って言いますよ?ムカつくだの嫌いだの言うのは、それだけ心を動かされてしまうということだと思いますけど」
それにこれ以上こじれない為にも、早く話した方が良い。
「……分かっている。あいつと、話す約束もした」
そうか、それならば少し安心だ。
「お疲れ様でした。今日はゆっくり休んで下さいね」
ふわりと微笑めば、陛下からも少しだけど、笑顔が返ってきたのだった。




