東屋
すみません、仕事のこともあってちょっと投稿が遅れがちになってます……。
翌朝。
「紅緒ちゃん?どうしたんですか、ポーションなんて見つめて」
「あ、おはよう。ううん、何でもないの。ただ、綺麗だなって思っただけで……」
プラスチックのような容器に入れられたポーションは、光にかざすとキラキラと輝いて、とても綺麗だ。
遠征食の保存方法を活用したというこの容器は、防腐作用があり、未開封であれば中身は一年程もつらしい。
職人達が、見た目も大事だ!と形や素材にもこだわったらしく、まるでゲームに出てくるポーションそのものだと紅緒は思った。
落としてもガラスのように割れたりしないそれは、その上リサイクルもできるらしく、空になった容器も持ち帰れと言われた。
しっかりと経費のことも考えているあたりは、おそらくあの魔術師団団長が発案者だろう。
こんなに綺麗なんだもの、使い捨てなんてもったいないし、良いアイデアだと紅緒も思う。
「遠征食で開発されたものをポーションにも活かすなんて、瑠璃さんには本当に驚かされるわ」
彼女がコツコツと築き上げてきたものがこうして繋がっているということも、紅緒にとっては感心する要素だ。
「そうですね。でも、紅緒ちゃんだって、色んなアイディアを出しているでしょう?ほら、ポーションの時だって」
「あたしはただ、好きだったゲームの知識を並べ立てているだけだもの。真似をしてるだけ、って言うか……」
恐らく瑠璃と自分を比べているのだろう、紅緒の眉が少し下がっている。
黄華からすれば、紅緒だって十分得意分野を活かして自分のできることをやっているし、周りもそれを認めている。
それでも満足できないのは、カインと上手くいっていないことを歯がゆく思っているからなのだろうか。
それとも、もちろん彼女の努力の結果なのだが、瑠璃という様々なものを手にしている人物が身近にいるからだろうか。
瑠璃は瑠璃で、自分にはない知識と発想を持った紅緒を羨ましく思っているのだろうが……。
隣の芝生は青く見えると言うが、なかなか難しいものだと黄華は息をついた。
「まあ、私のできることと瑠璃さんのできることは違うしね。黄華さんだってそうだもんね」
それを分かってはいるのだが、気持ちがままならないのだろう。
「……ええ、そうですよ。それに、紅緒ちゃんがいないと、魔術師団や第二騎士団の皆さんが泣きますよ。訓練でも、紅緒ちゃんが色んな魔法を見せてくれるのを、目を輝かせて見ていますから」
確かにみんなのあの目は恐かったと紅緒は笑う。
「ごめんごめん、なんか考えが暗くなっちゃったわ。そのうち浮上するから、気にしないで」
そう言ってからりと笑い朝食へと向かう紅緒の背中を見つめ、黄華はため息をつく。
「全く、陛下は何をモタモタしているんでしょうね。おど……いえ、説得が足りなかったでしょうか?」
人間とは不思議なもので、他人に認められたり、好きな人と想いが通じるだけで心の持ちようがガラリと変わる。
ましてや、それまで仲良くやっていた相手で、自分が好きな人にああして避けられてしまえば、心も挫けてしまうのも仕方がない。
瑠璃のことを羨ましく思う気持ちも、自然なものだろう。
「恋とは、厄介なものですねぇ。紅緒ちゃんもそうですが、多分陛下も……」
若いふたりを思って、ついついお節介したくなってしまう気持ちをぐっと堪える。
結局、当人同士が解決しなくてはいけないことなのだ。
「後悔のないように、きちんと話すことができると良いのですが」
黄華は、まるで姉のような気持ちで紅緒が向かった広場へと足を進めたのだった。
*****
「さあ、召し上がれ!」
「すみません、僕達まで」
「ルリが強引に誘ったのだから、私達が遠慮することないわよ」
ふん、とそっぽを向くヴァイオレットちゃんの耳は赤い。
口元もちょっと緩んでるし、本当は嬉しいのだろう。
確かに遠慮するアーサー君を引っ張って誘ったのは私だし、間違ったことは言っていない。
「まさか殿下方を連れて来るとはな……」
そう、本当はレオンとお昼の約束をしていたのだけれど、午前中、ポーションの研究室で一緒に仕事をしていたふたりも誘ってみたのだ。
お弁当を持ってきたことが話題に上ると、口には出さないが興味ありげな反応を見せたので、つついてみた。
アーサー君は私が良いなら……と遠慮がちに、ヴァイオレットちゃんは、そこまで言うなら良いわよ!と了承してくれた、という訳だ。
ふたりの護衛さんがちょっと戸惑ったので、しまったと申し訳なくも思ったが、念のため毒味して良いならと言ってくれたので、こうして王宮の東屋に集まっている。
いつもならレオンの団長室とかだけど、ヴァイオレットちゃんが許可を取ってくれたので、景色の良い絶好のスポットでのランチタイムとなった。
今日は色とりどりのサンドイッチに唐揚げ、ミートボール、玉子焼きにブロッコリーと、お子様にも人気のメニューだ。
案の定、ふたりも一口食べるとぱっと表情を明るくさせてくれた。
「外でみんなで食べるのって、やっぱり楽しいのよね」
お子様も交えてワイワイするのは楽しい。
レオンならレイ君やリーナちゃんともよくこうして過ごしているし、大丈夫かなと思ったんだけど……。
「殿下方相手に、楽しいの一言で済ませるルリは、流石だな」
良かった、苦笑いはしているけど、嫌なわけではなさそう。
「冬に入る前に、レイ君やリーナちゃんともまたピクニックに行きたいね」
この前みんなで行ったのもすごく楽しかった。
流石に紅葉狩りはできない、というかそんな木はないだろうけど、気候の良い時は外で過ごしたくなるものだ。
「レイ?リーナ?」
ふたりの名前にヴァイオレットちゃんが反応したので、私がお世話になっているラピスラズリ家の子息と令嬢だと説明する。
「ああ、レイモンド殿とリリアナ嬢ね。名前だけは知っているわ。ふたりとも有名だもの」
どうやらレイ君はその優秀さで、リーナちゃんは光属性魔法持ちであることや去年の誕生パーティーのことで、貴族の中ではかなり有名らしい。
そういえばリーナちゃんなんて、婚約者として狙っている貴族の家も多いって以前聞いたことがある。
レイ君もあの見た目と穏やかな性格だし、きっとすごくモテるはずだ。
「ふたりとも、すごく良い子なんですよ。ふふ、機会があれば、おふたりとも会わせてあげたいです。きっと仲良くなれると思いますから」
年齢はバラバラだけど、レイ君もリーナちゃんも礼儀作法はしっかりしているし、レイ君がツンデレなヴァイオレットちゃんや、ちょっぴり人見知りなアーサー君とリーナちゃんを上手くまとめてくれそうだ。
最初はぎこちないかもしれないけど、四人とも元々すごく良い子だし、しばらくすればきっと仲良くなれる。
「そう、ですね。僕も、そろそろ同年代の子との関わりを持たなくてはいけませんね」
「えっ!?」
ぽつりと呟いたアーサー君の言葉に、護衛の騎士さんが驚きの声を上げた。




