印象
リアム=ローズクォーツ
ローズクォーツ子爵家の三男で25歳、薄めのストロベリーブロンドにグレーの瞳。
“ローズクォーツ”って家名にピッタリの風貌の美青年だ。
しかし、顔立ちと色味はとても甘いが、受け答えをしている際の表情はほとんど変わらず、少し神経質そうな目をしている。
細身の長身で、騎士というよりは文官さんに近い雰囲気だ。
少なくとも聖女に媚を売るような感じではない。
……でも、子どもと無邪気に遊びそうな感じでもない。
それとも、意外と子どもを相手にすると人が変わるとか?
公園の管理者なんて、子どもが嫌いだったらやりたくないだろうしなぁ。
どうなんだろうと思いながらまじまじと見ていたら、目が合ってしまった。
半ば反射的ににこりと笑ったら、ぎろりと睨まれた。
あ、あら?
そしてすぐにシトリン伯爵の方に視線を向けてしまった。
……これは、ひょっとしなくても。
「―――では最後に、この事業の発案者でもある青の聖女様に、何かございますか?」
「……いえ。特に」
うわぁ、すごい仏頂面。
さすがの伯爵も私に気を遣ってくれているのだろう、困った顔をされている。
「で、では面接は以上です。お疲れ様でした」
伯爵の声に、リアムさんはさっさと退室して行ってしまった。
バタンと扉の閉まった音が悲しく響いた気がする。
「珍しい事が起きましたね」
「ええ、まさかあのような方がいるとは」
やっぱり、ふたりにも私が嫌われているように見えたらしい。
じっと見つめられ、何かしたんですか?と聞かれてしまった。
いやいや、何かした以前に初対面だから!
でもまあ、人間誰からも好かれるってことはないものだ。
知らないところで嫌われてしまうのは悲しい気もするけど、仕方ないよね。
「でも彼、すごく良い感じでしたよね」
「おや。ルリ様もそう思いましたか?実は、私も」
「ええ、私もです」
私、伯爵、アルと三人で顔を見合わせてうんうんと頷く。
そうなのだ、貴族の令息ということで身元はバッチリだし、教養だって問題ない。
しかも魔術師団に入団していないのが不思議なくらい魔法も得意らしい。
遊具等の設備を安全で清潔に維持するためには、魔法が必要不可欠だろうと言われているので、管理者自身が魔法を使えるとかなり助かる。
それに。
「正直、あれだけ私のことを嫌ってそうなのに応募してきたっていうのも、ちょっと気になるのよね」
伯爵がふむと考え込む。
嫌っている相手の興した事業に関わりたいというなら、考えられる理由はおおまかにふたつ。
一つ目は蹴落としてやろう、というものだ。
でも、それならあんなにあからさまに敵意を向けないのでは?とも思う。
まあ考え無しの人ならやるかもしれないが、リアムさんはそんな浅慮な人には見えなかった。
ならば考えられるのは、そんな人間を相手にしてでも、やりたいことがある場合。
「ローズクォーツ家が教育に熱心という話は聞いたことありませんが……」
貴族のお家事情に詳しいアルが険しい顔をする。
「しかし、彼の目は真剣でしたよ。ルリ様を陥れようとか、そういったことを考えるような方ではない気がします」
確かに私に向ける目はともかく、シトリン伯爵に受け答える姿は、とても真摯に見えた。
「そうね。それに、面接の場で私に握手を求める人なんかよりは余程、信頼出来そうだと思ったわ」
「「……確かに」」
うん、ふたりも納得のご様子だ。
じゃあ彼は候補者確定かな?
色々あったけど、何人か目ぼしい人が見つかって良かった。
何気なく窓の外を見ると、薄っすらと紅い、夕焼け空だった。
遠征に出かけたみんなはもう目的地に着いているはずだ。
紅緒ちゃんと黄華さん、大丈夫かな。
何事もないと良いんだけど……。
******
紅く染まってきた空を見て、イーサンは今日の調査はここまでにしようと声をかけた。
最近発生する魔物の質と頻度が変わってきているということで、王都から半日ほど移動した森の調査に来ていたが、今のところ特別変わりはない。
その存在だけで魔物を抑制するという聖女の召喚を行ってから、このようなことは珍しくなかったので、今日見た限りでは、今回もその為だろうというのがイーサンの考えだった。
それに反して、慎重派なウィルは結論を出すのは早いと主張した。
明日の調査をきちんと行ってから決めるべきだというので、イーサンもそれには了承する。
自分の考えだけで物事を決めてしまうような人間では、第三騎士団の団長は務まらない。
クセの強い猛者達を束ねるイーサンには、その者たちの言い分を聞き入れる器量の大きさも備わっていた。
「陛下も、それでよろしいですか?」
ウィルの問いに、カインも頷く。
「ああ。念のため慎重に判断すべきだろう。黄の聖女は悪しき気配に敏感だったな。あいつの意見も聞きつつ、明日はもう少し奥まで探ってみよう」
その言葉にイーサンとウィルも同意した。
頼ってしまうのが若干心苦しくもあるが、三人の聖女達はこの国に対してとても協力的だ。
身勝手に召喚した側として、心が痛む程に。
その恩に報いるためにも、せめて危険からは守らなくてはとそれぞれが思う。
「……あいつらに傷ひとつ負わせるなよ。泣かせるような事態にもするな」
前回のスタンピードのことは、カインも報告で聞いている。
同じく泣かせた側のウィルも、その時は意識が無かったが、後に聖女達がどれほど心を乱したかを聞いて、後悔したものだ。
そしてそれを目の当たりにしていたイーサンもまた、苦い顔をする。
「自分達もちゃんと守れ。ポーションがあるとはいえ、油断はするなと全員に通達しろ」
カインの言葉に、ふたりもしっかりと返事をする。
たかが調査と気を緩めるな。
その言葉を、自分達の胸にも刻んで。




