面接
「お会いできて光栄です!青の聖女様の発案した事業と聞いてこの募集に飛びついたんですよ!」
「あ、ははは……どうも」
シトリン伯爵との打ち合わせが済み、いよいよ面接が始まった。
……のだが。
「いやぁ、もしかしてお会いできるかなとは思っていましたが、ラッキーでした!あ、握手してもらっても?」
「すみません、聖女様はそういうことは致しませんので」
笑顔のアルがきっぱりと断ってくれた。
あああ……そして何だお前って視線向けられてる。
実は今日、こんな感じの人が続いているのだ。
希望者が多いのは嬉しいことだったのだが、どうやら“聖女様”目当ての方が多いらしい。
志望動機を聞くと、だいたいこんな感じで返ってくる。
そりゃ悪い気はしないけれど、管理者を任せられるかと言えば……ねえ?
それと、こんなことが続いているので、シトリン伯爵の顔がすごいことになっている。
アルがばっさり切ってくれているから口には出していないけれど、恐らく相当怒っていらっしゃる。
結局、今回の人もダメだろうなぁという感じで終わってしまった。
午前中最後の面接者だったのだが、いまいちピンとくる人はいなかった。
「すみません、私が面接に同席したいと言ったばっかりに……」
手伝いどころか、邪魔しに来たみたいになってしまった。
しゅんと肩を落として謝ると、伯爵は首を振って否定してくれた。
「いえ、貴女のせいではありません。同席していなかったとしても、ああいった方からは『聖女様に会えないのか〜残念』などと言われただけでしょうからね。むしろ、決める前に分かって良かったですよ」
それはそうかもしれないけれど、やはり申し訳ないという気持ちは変わらない。
「アルも、ごめんね。嫌な役ばっかりやらせちゃって……」
「いいえ?ああいった不埒な輩からお守りするのも私の仕事ですから」
全然気にしていませんよという顔をされたが、それでもああいった断り役というのは嫌なものだ。
先程のように顰めっ面をされたり、ひどいと言葉に出して引っ込んででくれ等と言われたりする。
私が自分で言わなきゃいけないんだろうけど、どうしても強くは言えなくて……。
紅緒ちゃんや黄華さんなら『何しに来たの?』などと、ちゃんと言えるのかもしれないなぁと、ため息をついた。
自分の駄目な所を突きつけられた気がして、気が重くなる。
「貴女はそれで良いんですよ。大丈夫、私がちゃんと査定してお守りしますから」
アルはこういう時、私に甘い。
だけどそれに甘えるばかりでもいけないよね。
「ありがとう。でも、自分でも頑張ってみる」
だからそんなに甘やかさないでねと決意を込めて伝えてみたが、はははと笑われるだけだった。
何故だかシトリン伯爵まで微妙な顔をしている。
それは天然ですか?と聞かれたが、いまいち意味が分からない。
とりあえず昼休憩にしましょうということになり、持って来たお弁当を広げる。
今日のメニューは、おにぎりと玉子焼き、秋鮭の塩焼きに肉じゃが、蓮根とゴボウ、にんじんのきんぴらと、和風にしてみた。
きゅうりと大根のお漬物もある。
何度か差し入れして分かったのだが、伯爵は結構和食が好きだ。
その証拠に、今日のお弁当の蓋を取ったら目が輝いた。
「今日も美味しそうですな!」
いただきますをして一口食べれば、先程の不機嫌さが嘘のようにほくほく顔だ。
アルに目配せをしてふたりでくすっと笑う。
甘いものもお好きだし、なんでも嬉しそうに食べて下さるので、私も作りがいがある。
ちなみにアルも意外と和食が好きだ。
レオンもそうだが、特におにぎりは騎士さん達の中で人気が高い。
米の需要が高まっているとはベアトリスさんの言だ。
「いずれ保育園みたいな施設ができたら、給食にはおにぎりを出してあげたいわね」
元の世界では、子どもも大好き、お弁当の定番だったもの。
これだけみんなが気に入ってくれるなら、きっとこの世界の子どもたちも好きになってくれるだろう。
「ええ。子どもたちもきっと、気に入ると思いますよ。友だちと一緒に食べたら、それはもう美味しいでしょう」
何となくぽつりと呟いた言葉だったのに、アルはちゃんと聞いてくれていたみたいで、そう返してくれた。
同じことを思って、そうだねって共感してもらえることは、とても嬉しいことだ。
子どもたちにも、そういう経験をたくさんしてもらいたい。
さて、そんな未来のためにも、午後からの面接を頑張らないとね。
「――――はい、では以上になります。お疲れ様でした」
伯爵の促しに、希望者の男性は席を立つと、出口へと足を進め、扉を閉めた。
うん、今の人はなかなか良い感じだった。
伯爵やアルも頷いているところを見ると、彼らも同じように思っているのだろう。
午後になり、相変わらず聖女目当ての人もいるにはいたが、先程の人のように良い感じの方も何人かいる。
これなら、管理者も決められそうだなとほっとする。
「次で最後ですね」
おっと、まだ終わってはないのだから気を抜いてはいけない。
最後までちゃんと面接官として公平な目で見ないと、と居住まいを正す。
次の人は男性、貴族の三男かぁ。
「失礼します」
履歴書的な書類を見て、アルと一緒ねと思ったところで、扉が開かれた。
……うわ、また出た。
「リアム=ローズクォーツと申します。よろしくお願い致します」
ほらぁ、また美形だよ……しかも、今までにないタイプの。
この国の貴族の顔面偏差値ってどうなってるのだろう?
まあ、美男美女で結婚して子どもを産めば、高確率で子どもも美形なんだろうけど。
ラピスラズリ家だってそうだしね。
いやいや、今は顔のことじゃなくて、管理者として適正があるのかどうかだからね。
公平に審査しないと。
そんなことを考えながら、席に座る希望者、リアムさんを見つめる私なのであった。




