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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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子守唄

通信魔法の相手は、ウィルさんだった。


ものすごい顔をしたレオンがそれに応えるのを見ながら、私はささっと身だしなみを整える。


多分風属性のみの通信だとは思うのだが、一応、一応気持ち的に整えなくてはいけない気がしたからだ。


もしも見られていたら……恥ずかしくて、ウィルさんにはしばらく会えない。


やれやれと息をついて振り向くと、しかし、とか、それは、とか戸惑うレオンの姿があった。


一体どうしたのだろうと首を傾げると、レオンも私の方を向いた。


「ルリ、悪いが今から一緒に王宮に来てくれないか?陛下に、例の子守唄を歌って差し上げて欲しいんだ」


「え……」


陛下にって……それは。


「どうやら倒れたらしい。過労のせいもあって、このところ上手く寝付けなかったみたいだ。僅かな睡眠時間がそれでは、不調をきたしても仕方ないな」


確かにこのところ忙しそうだったし、疲れてるなっては思ってたけど。


「分かった。レオン、一緒に来てくれる?」


幸いそれほど遅い時間な訳でもないし、エドワードさんに断って馬車を借りよう。


そう思っていたのだが、いや、とレオンが首を振った。


「私と馬で行こう。その方が早い」


え、それって。


「馬に乗るのは初めてか?大丈夫だ、大人しい馬を借りるし、しっかり捕まっていれば問題ない」


やっぱり、馬の相乗りってやつですか?







「少し急ぐぞ。私も支えているが、ルリもちゃんと抱き着いていた方が良い」


「えーっと、じゃあ、失礼します……」


私達は身支度を整えると、エドワードさんに訳を話して、外へ出た。


レオンの手を借りて、ラピスラズリ家の馬、フレイヤに乗ると、ぐっと片手で体を抱き寄せられた。


その上自分からも抱き着いていろと言われ、急いでいるのに不謹慎だが、先程までの甘い時間を思い出してしまう。


熱を持ちそうになる頬をぷるぷると振って、レオンの腰をきゅっと掴む。


ふっと頭上で笑われた気がしたが、気付かない振りをする。


行くぞ、と声がすると、フレイヤが走り出した。


は、速い!


ただでさえ馬に乗るのが初めてなのに、かなりのスピードだ。


レオンがぎゅっと抱き締めてくれているから、落ちる心配はないけど。


でも、慣れてくるとちょっと楽しい、かも。


ちょっぴり高くなった目線から見る風景、きっと朝や昼間だと、またちがった景色に見えるのかもしれない。


ただ、レオンとの距離が近すぎて落ち着かない。


これに慣れるのには時間がかかりそうだ……。







「レオン、ルリ様。すみません、お休みの時間に」


やっぱり馬車なんかよりも数倍速く、王宮に着くのはあっという間だった。


第二騎士団の厩舎にフレイヤを繋いでいると、ウィルさんが迎えてくれた。


どうやらウィルさんが書類を提出しに執務室を訪れた際、机に突っ伏す陛下を発見したらしい。


回復効果のあるハーブティーなども飲んでいたそうだが、睡眠時間はかなり少なかったのだとか。


疲れが溜まっていると、寝ようと思ってもなかなか寝付けないものだ。


「ポーションやハーブティーでHPは回復できますが、ちゃんと寝て体を休ませないと、精神的には回復しませんよ」


「……うるさい。誰だこいつを呼んだのは」


案内してもらった陛下の自室のベッドには、だらりと横たわる顔色の悪い陛下がいた。


うーん、かなりお疲れの様子だ。


「私も休むように再三進言していたのですがね。全く聞き入れてもらえずこんなことに」


宰相様もため息をついた。


やいのやいのとみんなが働きすぎだと責めるのを、陛下は青筋を立てて黙って聞いている。


宰相様がこう言っているのだから、そんなに根を詰めてやらなくても良かったのよね?


陛下が自分から忙しくしてたってこと?


「とりあえず歌いますね。多分、すぐにお休みになれますから。体、楽にしていて下さい」


私の言葉を聞いて、ではと宰相様やウィルさんは下がってくれた。


まあ大勢の人に寝るところを見守られるのも、陛下としたらなんだかやり辛いよね。


レオンだけなら、私も気が楽だし。


それに、聞きたいことも聞けるしね。


「どうしてそんなに自分を追い詰めたんですか?休もうと思えば、休めたでしょう?」


目元のクマを見て、眉根を寄せる。


うっ、と一瞬嫌なことを聞かれたという顔をしたが、陛下は仰向くと、腕で顔を隠してぼそりと呟いた。


「……働いていれば、余計なことを考えずに済むからな」


?それって、もしかして……。


「話、したんですか?」


沈黙だ。返事がない。


これは紅緒ちゃんとまだ話していないなとため息をつくと、ぐいっと腕を引っ張った。


「そんな顔をするくらいなら、ちゃんと話した方が良いですよ?できるだけ早く。でないと、もれなく怖いお姉様聖女のお説教が付いてきますから」


「それは、勘弁願いたいな……」


さらにげっそりと陛下が項垂れる。


多分、何か事情があるんだろうけど、これじゃ体を壊してしまう。


「ゆっくり寝て疲れを取れば、ちゃんと考えられますよ。さあ、今度こそ歌います。力、抜いていて下さい」


リーナちゃんの寝付かせによく歌っていた曲。


陛下がよく眠れますようにと願いを込めて、優しく口ずさむ。


とろりと瞼が落ちてきたかと思うと、陛下は口を開いてぼそりと呟いた。


「悪かった、ありがとう」


そして、すっと完全に寝入ってしまった。


歌い終われば、規則正しい寝息を立て始めた。


これで大丈夫だろう。


ほっと私とレオンも息をつく。


なんだか陛下、いつもと違って手のかかる弟みたい。


「……たくさん寝て、体も心も元気になったら、ちゃんと話してあげて下さいね」


少しだけ幼く見える寝顔を見ながら、そう囁く。


そうして私とレオンは、明かりを消してそっと陛下の部屋の扉を閉めた。

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