吐息
レオンの部屋は、リーナちゃんの部屋から少し離れている。
何となく手を繋いで歩いていると、廊下に足音だけが響いていて、ちょっと落ち着かない。
は、早く着かないかな……。
この居た堪れない空気、どうにかしてほしい。
心の中でひとりあわあわしていると、隣で笑った気配がした。
見上げれば、やはりレオンの口が弧を描いていた。
「緊張してる?」
「だからっ……そういうこと、聞かないでよ……」
批判しようと思ったのに、尻すぼみになってしまったのは、レオンがあまりにも嬉しそうだったから。
いつの間にかレオンの部屋の前に来ていて、扉が開かれた。
カーテンが引かれていたので、思っていたよりも月明かりでレオンの顔がよく見える。
そっと手を引かれ、ベットに導かれて腰を下ろすと、レオンも隣に座った。
「そういえば、例のポーションだが、騎士団での訓練時にも使われるようになったんだ」
「え?あ、うん。いざという時に飲み慣れてないと抵抗があるかもしれないから、訓練でも使っていこうって話になって……」
騎士さん達の中でも、飲むだけで回復するから時間もあまりかからないし、使いやすいって評判だと聞いたけれど……。
なぜ今、そんな話を?
「これから先、きっとポーションはたくさんの騎士を救うだろう。騎士だけでなく、ひょっとしたら病院などでも使われるようになるかもしれない。そんな、大きな可能性のあるものを生み出してくれた貴女達を、俺は、この国の者たちは、尊敬し、感謝している」
それから、先日のお披露目会で私達が退席した後も、魔物討伐などの功績を称える者が多かったと教えてくれた。
警備の任があったからちらほらとしか聞いていなかったが、と笑って。
「図々しいが、誇らしく思ったよ。それと同時に、そんな素晴らしい女性が恋人であることを、幸せだとも」
「レオン、褒めすぎ……。私、そんなにすごくない。周りのみんなに助けてもらっているから出来たことばかりだもの」
「貴女がそういう人間だから、みんな助けたくなるんだ。それに」
レオンはそこまで言うと、言葉を切り、とん、と軽く私の肩を押した。
わ、と驚くと銀色の髪が舞ってベッドに仰向けになる。
「そんなルリだから、俺は君を愛しくてたまらないと思ってしまう」
「あ……」
縫い留めるように手が顔の横に置かれ、押し倒されたのだと理解するまで、しばらく掛かってしまった。
ゆっくりと降りてくる唇が、私のそれと重なる。
鼓動、うるさい……。
そうして啄むようなキスが繰り返されながら、片方の手も絡ませられる。
重なった部分から感じるレオンの体温は、少しいつもよりも高い気がする。
だけどその熱さが、体にかかる重みが、愛おしい。
自然と空いている方の手が、レオンの首の裏に伸びて、縋るように抱き締めた。
すると絡んでいた手が、ぎゅっと握られる。
と同時に、キスも深くなる。
「ふ、ぅっ……」
鼻にかかるような声が零れてしまい、羞恥心で私もぎゅっとレオンの服を握ってしまった。
「声、我慢しなくて良い。感じたままに出せば。防音魔法は施してある」
そんなこと言われても……!と思ったが、我慢できずに零れてしまう。
段々と息が苦しくなってきて、目に涙が滲んだ頃、やっと唇が解放された。
くたりと力なく横たわる私を、レオンがくすりと笑う。
「相変わらず慣れていないな。キスだけでそんなに可愛くなってしまうのだな」
し、仕方ないじゃない!全部初めてだもの……!
そう批判したかったけれど、声には出せなかった。
「睨んでも、可愛いだけだぞ」
ちゅ、と今度はこめかみにキスが落ちる。
そのまま目尻や頬、と段々移動していく。
柔らかい感触がくすぐったくて、目をきゅっと閉じてそれに耐えた。
すると突然、耳朶を啄まれ、予想外の刺激に体が跳ねた。
「きゃっ!?」
「ああ、思った通り。声にも弱いが、刺激にも弱いのだな」
耳元に直接囁かれ、ぞくぞくとした何かが私の背中を走る。
「おいで」
ぎゅっと引き寄せられたかと思うと、上体を起こしてうしろから抱き締められるような体勢にされた。
「もっと身体、楽にして。そう、上手だ」
レオンの腕と胸に寄りかかるようにされると、また耳元を攻められた。
キスの音や吐息が直接入ってきて、その度にびくりと体が震える。
抱き締められながら、ゆるゆると体を撫でられて、それも私の体温を高めた。
やめてと震えた声を上げても、小さく笑うだけで、止めてはもらえなかった。
もう無理……!と思い、振り返ってぎゅっと抱き着き、私から唇を重ねる。
これなら耳を刺激されずに済むと思ったからだ。
「意外と積極的だな」
ち、違う!
その言葉は、レオンの深いキスで封じ込められてしまった。
ダメだ、全然抵抗できない。
レオンの思うがままにされているのがちょっぴり悔しいけれど、それも嫌じゃない。
それに、触れ合えることが、こんなに嬉しい。
このまま、レオンと。
そう思った、その時。
『レオン、すまない』
急に聞こえたその通信魔法の声に、私とレオンは固まったのだった――――。
今回も短め。
すみません(^^;)




