お茶会
「さあ、じゃあ美味しいクッキーを作りましょう!!」
「「おー!!」」
「今日はココアクッキーを作りたいと思います」
「「ここあくっきー?」」
はい。
毎度お馴染みですが、この世界、カカオ豆はあって、チョコレートも飲み物のココアもあるんだけど、ココアを食べ物に使おうという考えがない。
クッキーと言えばアイスボックスクッキー!!
ココアアーモンドクッキー!!!
是非とも食べたい!!!
ということでココアの粉を頂いてきた。
聞くところによると、レオンハルトさんは甘さ控えめが好きらしいので、ちょっとビターな味にしようと思う。
男性だし、ガッツリ系も食べたいかな?ということでカツサンドも作る予定。
サラダサンドとか玉子サンド、ジャムサンドはあるけど、カツサンドとか照り焼きチキンサンドとかは無い。
お惣菜パン的な物がないのかな?
元の世界と変わらない所が多いけど、ちょっと惜しい!って感じ。
まあ作ろうと思えば出来るから、そんなに不便は感じてない。
寧ろルリすごい!と言われて困惑する。
でも、みんなが喜んでくれるのはすごく嬉しいし、やっぱり美味しいものが食べたい。
なので多少遠慮はするけど、作りたいものは作るし、欲しいものは提案する。
新しいクッキーのレシピ一つで戦争が起きる訳じゃないしね。
「ルリ?次はどうするの?」
「あ、ごめんマリア。じゃあそれをこうやって…棒状にして、暫く冷やします!」
電気ではなく魔法だけど、冷蔵庫的な物も勿論ある。
便利だわー。
「冷やしている間にカツサンド用のトンカツを作りましょう。まずは、私が豚肉に小麦粉をつけるから、マリアは玉子にくぐらせて、リーナちゃんはパン粉をお願いね。」
流れ作業で衣をつけていく。
一人だとなかなか大変だけど、人手があると簡単だ。
揚げるのはもちろん大人の仕事。
「わあ…サクサクですね!」
「おいしそう…」
私特製のソースをかけてパンに挟めば出来上がり!
さて、アイスボックスクッキーの生地もいい感じに固まったので、包丁で切っていく。
リーナちゃんもやってみたいと言うので、小型ナイフで私と一緒に切ることに。
子ども用ナイフを用意してもらっても良いかもね。
料理が完成し、中庭に移動する。
厨房を貸してくれたお礼に、ちゃんとテオさんの分のカツサンドとクッキーは置いてきた。
サンドイッチの盛り合わせとクッキー、紅茶の用意が整うと、丁度レイ君がレオンハルトさんと一緒に現れた。
「ルリ様、お待たせしました」
「…時間を取ってもらって悪いな。」
おおう、この二人並ぶと絵になる。
片や冷たい美貌の青年、片や温かみのある天使のような美少年。
似た顔立ちだが正反対の魅力を持つ二人は、何故か隣り合うとしっくり来る。
「いいえ、二人もとても楽しみにしていましたから。どうぞ席に。ささやかですが軽食もありますので、召し上がって下さいね」
私たちの手作りということは伏せておく。
レイ君やリーナちゃんもレオンハルトさんの反応が楽しみな様子で見守っている。
「これは…少し変わっているな。サンドイッチに挟まっているのは、揚げた肉か?」
「はい。トンカツという、庶民の町では人気のお肉料理を挟んでみました」
ふむ、と物珍しそうに見ていたが、躊躇うことなく口に入れてくれた。
庶民の食べる物なんて、と言われなくて良かった。
そういう身分意識、選民意識の高い人は苦手だ。
と、暫く噛んでいたが口が、ピタリと動きを止めた。
「…お口に、合いませんでした?」
少し不安になって聞くと、ふるふると首を振られる。
「いや…とても美味しくて、驚いた」
「でしょう!?これ、わたしとるりせんせいがつくったのよ」
美味しいという言葉に、リーナちゃんが嬉しそうに答える。
それに驚いた後、レオンハルトさんはとても優しい表情でリーナちゃんの頭を撫でた。
「そうなのか?すごいな、リリアナ」
あら、このペアも眼福だわー。
美形家族万歳。
「そうだ、レイ君は是非こっちも。アイスボックスクッキーに、ココアアーモンドクッキーよ。好きでしょう?お菓子」
「え…」
「?そうなのか、レイモンド?甘いものが好きなど初耳だが…」
「…誰にも言ったことはないし、気付かれないようにしていたつもりなんですがね。実は、好きです」
やっぱり!
ふふん、瑠璃先生の観察眼は園長先生のお墨付きですから。
「確かに食べている量は控えめだけど、絶対まずお菓子を一度見てるし、全種類口にしてるもの。そうだと思った!」
参りましたね、と少し恥ずかしそうだけど、子どもなんだから素直に言えば良いと思う。
それに日本には沢山いたよ?スイーツ男子。
「黒いクッキーなんて初めて見ました。どんな味なのか楽しみです」
「ああ、この四角が互い違いになっている模様も変わっているな。」
「ふふふ。美味しいんですよ。じゃあリーナちゃん、お願いね」
最近リーナちゃんにはお茶の時間、お菓子を全員分均等に分けてもらっている。
「えっと…きょうは、よにんいて…しかくのくっきーが…」
一生懸命考えて全員分の皿に分配していく。
簡単な算数のお勉強にもなるし、お手伝いにもなる上、子どもは楽しく学べる、まさに一石三鳥である。
「あとまるいのをひとつずつで…できた!!」
リーナちゃんがぱっと明るい顔で私を見上げる。
「どれどれ…アイスボックスクッキーが3つ、ココアアーモンドクッキーが2つ、さつまいもとニンジンの野菜クッキーが2つずつね。大正解!!」
「やったあ!」
「すごいな、リリアナ」
レオンハルトさんも素直に感心した様子だ。
数が多いと難しいのでは?と思いがちだが、3歳くらいの子でも慣れると上手に分けてくれる。
経験て大事よね。
「こうやって、小さな頃から身近な所で数字に触れていくと、算術に苦手意識がなくなるんです。特に女性は、苦手な方が多いらしいですね」
元の世界でも男性が理系、女性は文系が多いよね。
脳の作りでそうなっているのだから、こちらでも同じなのだろう。
「ああ、成る程。貴女は、色々な事を考えてリリアナに接してくれているんだな」
「そう、ですね。私では教えられないことも沢山ありますが、出来る事は伝えてあげたいと思っています」
卒園まで見てあげられなかった、あの子達の分もーーー。




