自慢
扉をくぐるとまず目に飛び込んできたのは、キラキラと輝く大きなシャンデリア。
私達の少し上くらいの高さにあり、ああホールの高い位置にいるのだと理解した。
演奏ホールの二階席みたいな感じ。
王族の皆様と相席させてもらうからなのだろう。
そうして先頭を行く紅緒ちゃんが短い通路を抜けると、わっと大きな歓声と拍手が響いた。
お客様達から姿が見えた途端だ。
聖女をお披露目してほしいとの要望が多いというのは、本当だったらしい。
続いて黄華さん、私と現れる度に歓声が響く。
うわ……こんな高いところから貴族の皆さんを見下ろすなんて、ちょっと、いやかなり逃げたい気持ちになるかも。
でもヴァイオレットちゃんやアーサー君の背中を押した私が逃げる訳には……!と歯をくいしばってぎこちなく笑顔を作る。
「ものすごく落ち着かないですわね……」
「あたし、紹介とダンスが終わったらすぐ帰りたい」
そう言って黄華さんと紅緒ちゃんも硬い表情をしている。
良かった、そう思っているのは私だけじゃなかった!
「今日の主役の方々がそんなことを言わないで下さい。ほら、ルリ様。笑顔ですよ」
それに反してアルの何と落ち着いたことか。
そういえば公爵家のお坊ちゃまだった。
その上容姿端麗とあれば、注目を浴びるのなんて慣れていらっしゃると言うことですね。
「そうですよ!ほらオウカ様も、笑って!」
「ベニオ様、そう硬くならなくて良い。立っているだけで十分ですから」
いや、リオ君とアルバートさんも平然としている……と言うか、どこか嬉しそうだ。
よく見ると、アルも。
「そりゃそうですよ、やっとオウカ様を自慢できるんですから!支援魔法で騎士を助け、王宮の使用人達に相談役としても慕われている黄の聖女様はこんな綺麗な人なんですよ!ってね」
へへっ、と誇らしげな顔でリオ君が笑う。
アルバートさんも言葉こそ無かったが、紅緒ちゃんと目を見合わせて、しっかりと頷いた。
そしてアルは――――。
「様々な新しい“種”を蒔いて、人々を幸福に導いている貴女を、私も誇りに思っていますよ。貴女の護衛騎士になれて良かったと、心からそう思います」
まあ私を困らせる天才でもありますがね、と笑う。
うわ、なんか泣きそう、かも。
この世界に来て、自分達に出来ることを精一杯やってきた。
一番近くでそれを見守ってくれていた護衛騎士のみんなからのその言葉と眼差しが、こんなにも嬉しい。
「……ありがとう、アル。私も、アルが護衛で良かった」
そう言葉を返せば、自然と笑顔になる。
「ええ、その表情を皆に見せて差し上げて下さい。私達の“聖女様”」
振り返れば下の階に集まるお客様は、皆笑顔でこちらを見ていた。
すると文官らしき人が、私達の紹介を始めた。
騎士達と訓練を行っている事や魔物討伐に出ていること。
先のスタンピードでは三人共が参加し、親玉の魔物を倒し解決したこと。
様々な攻撃魔法を開発し、騎士や魔術師に広めていること。
支援魔法を駆使し、また王宮の人々の相談にも快くのってくれること。
回復魔法を得意として回復効果のある食品開発に携わったり、幼少教育の推進に努めていること。
……などなど。
「あたし達のこと、褒めすぎじゃない?」
「少し大袈裟な気もしますねぇ」
私達がするのは呼ばれた名前に合わせてカーテシーをするのと、黙ってその紹介を聞くことだけだ。
自分で挨拶することはお断りしたのだから、文句は言っちゃいけない。けど。
「いちいち歓声が上がるのも居た堪れない……」
あああと赤面する私達に、護衛騎士の皆が苦笑する。
「手を振って差し上げれば良いのですよ。皆喜びますよ」
ホント?とアルに疑いの目を向けたけれど、笑って頷かれたのでおずおずと手を上げて振ってみた。
するとまた歓声が上がってびっくりする。
「ご覧の通り聖女達はとても友好的でおられる。しかしこうした場には慣れていないので、今日は挨拶と、私とのダンスのみの参加とさせてもらう。諸侯の思いは分かっているつもりだが、彼女達のことも気遣って頂けたらと思う」
陛下の声に、僅かに残念がる様子もあったが、概ね受け入れてもらえたようだ。
良かった、陛下に感謝しないと。
あの様子じゃ長居するとお客様に囲まれそうだもの。
もう一度三人で礼をとると、続いてダンス披露となる。
順番は紅緒ちゃん、黄華さん、私。
ちなみにジャンケンで決めた。
絶対最後は嫌だったのに……!なんであそこでパーを出したかな私!!
それはみんな一緒だったみたいで、一発抜けした黄華さんがさっさと二番目を選び、最後よりはと紅緒ちゃんが一番目を選んだ。
『国王陛下とのダンスの順をそんな決め方で……』
『お前等、いい度胸してるな。……しかし面白い決め方だな』
あ、失礼だった……と私達が気付いたのはそう言われてからだった。
まあ呆れた顔をされただけで怒られなかったのだから、陛下も懐が深い。
それよりもジャンケンに興味を持ったみたいだし。
そうこうしているうちに紅緒ちゃんと陛下がホールドを組む。
うわ……完全に注目の的だ。
だって陛下と紅緒ちゃん以外は誰も踊ろうとしていない。
そりゃそうよね、大注目の聖女様と陛下のダンスなんて、誰もが見たいはずだ。
……多分、黄華さんや私の時もこういう状況なのだろう。
紅緒ちゃんも可哀想に、明らかに緊張している。
はらはらしながら見守っていると、陛下が何事か紅緒ちゃんに囁いたのが分かった。
それを聞いた紅緒ちゃんは目を見開き、少し顔を赤らめると、キッと陛下を睨んだ。
?どうしたんだろう。
またケンカ?と思ったところで曲が始まった。




