正装
「ルリ様、とっっってもお綺麗ですわ!」
「本当!女神様もかくや、です!」
「これはうちが勝ったも同然ですわね!」
きゃあきゃあと盛り上がるサラさん達。
う、うーん……紅緒ちゃんと黄華さんに勝てる自信はないけど、かなり綺麗にはしてもらえたと思う。
ちょっとお世辞が過ぎる気はするけど。
そうして身仕度を終えると、サラさんが控え室に案内しますと言ってくれた。
紅緒ちゃんや黄華さんも一緒とのことなので、ちょっぴり緊張も解けそう。
部屋の扉を開けると、そこにはアルが待機してくれていた。
「終わりましたか?……これはまた、随分と綺麗にして頂きましたね」
少し目を見開いた様子からするに、アルでさえもびっくりの変身なのだろう。
そういえば誕生パーティーの時はいなかったし、私がこうして正装する姿は初めて見せる。
馬子にも衣装、って思われてそうだなぁ。
「ごめんね、長時間待たせちゃって。まあ侍女さん達のおかげで、何とか恥ずかしくないくらいには変身できたかなと」
あははと誤魔化すように笑えば、ふわりとした微笑みが返ってきた。
「そんなことありませんよ。普段の自然な姿でも十分綺麗ですが、今日の装いもとてもお似合いです」
きゃーっと後方から侍女さんの黄色い声が聞こえた。
アルってば普段はあんな感じなのに、ここぞという時はちゃんと褒めてくれるのよね。
そりゃモテるわ。
ま、本人は女性には騙されませんとか言っちゃってるし、そういうことにあまり興味がなさそうだけれど。
あ、というかアルからしたら侍女さん達の手前、褒めないとまずいか。
「あーうん、ありがとう」
社交辞令だって分かってますよという思いでそう返すと、ぷっと吹き出された。
「さ、参りましょうか」
くすくすと笑うアルを見て、また背後から叫び声が聞こえた気がする。
一体何が面白くて笑ったのかは分からないが、侍女さん達にとっては貴重な笑顔だったのだなと思いながら廊下を進む。
サラさんもあらあらと微笑むだけで、それ以上は何も言わなかった。
少し歩くとすぐに控え室に着き、扉を開けるとそこには既に紅緒ちゃんや黄華さん、そしてアルバートさんとリオ君もいた。
「お待たせしました……って。紅緒ちゃん、かっわいいい!!黄華さんきれーい!!」
すぐに飛び込んで来たドレス姿のふたりに目を見開く。
そういえばふたりも正装するのは初めてではないだろうか。
紅緒ちゃんは、ふんわりとしたラインの白のドレスに赤い刺繍やレースがあしらわれていて、可愛さが引き立っている。
黄華さんは私に似たラインの白いシンプルなドレスだけれど、よく見ると金色に輝くビーズや刺繍が裾の所にあしらわれている。
それぞれデザインは違うけれど、白を基調としたシンプルなところは統一しているみたい。
「着慣れないから落ち着かないけど、侍女の仕事がすごいって実感したわ。でもこんなかわいいドレス、あたしのキャラじゃない気もするけど……」
いやいやめちゃくちゃ似合ってるから紅緒ちゃん。
若さを全面に押しているコーディネート、私には無理だけどね……。
「私はドレス、久しぶりですけど、こういう清楚系は初めてですねぇ。あとメイクや髪型も。同じく落ち着かないです」
そっか、黄華さん夜のお仕事でドレスは着てたもんね。
でも清楚系もものすごく似合ってますよ?
「瑠璃さんはイメージ通りって感じ。すっごく綺麗」
「あ、ありがとう」
紅緒ちゃんに褒められてへらりと笑う。
美少女に褒められて、悪い気はしない。
「お茶、用意しますのでしばらくお寛ぎ下さい。時間になったらまたお呼びしますね」
サラさんがそう言ってくれたので、お言葉に甘えてソファに掛ける。
うん、ちょっとリラックスしてきたぞ。
着飾ったふたりとわいわいおしゃべりするのも楽しくて、いつものように何でもない話をして笑い合う。
すると、コンコンと扉をノックする音が聞こえたのでそちらを向くと、開かれた先から現れたのは、なんとクレアさんだった。
「お邪魔します。皆様お揃いのようですね」
――――令嬢として正装した。
「き、きっっっっれーーーー!!」
「うわ、大人の女性!って感じ」
「銀座の高級なお店にいそうですねぇ……」
惜しげもなく肌を露出して、体のラインのよく分かるドレスは、スタイルの良さを強調している。
それなのに下品さはなく、むしろ大人の気品が漂っている。
普段のかっちりさは無く、メガネは外して髪もゆるく纏められていて、色っぽさが引き立つメイク。
「もう、今日の主役はクレアさんで良いんじゃ……」
思わずそんなことを呟いてしまうのも、仕方のないことだと思う。
「何をおっしゃっているのか……。皆様こそ、聖女様らしい装いで、とても素敵ですよ。これはきっと、来場者の目をひくこと間違いありませんね」
にっこりと笑う姿も余裕があって、すっごく素敵。
わー、こりゃ男性だけでなく女性からも好かれるタイプね。
紅緒ちゃんと黄華さんも褒められてぽっと頬を染めている。
「ダンスも、期待していますわ。ああ、そうそう。どうぞ、お入りになって」
思い出したようにクレアさんが開いたままの扉のうしろを振り返ると、なんとレオンとウィルさん、そしてルイスさんが現れた。
「ルイスと一緒に歩いていたら、お会いしたんです。折角だから皆で激励に行きませんかとお誘いしたんですわ」
コロコロと笑うクレアさん、そんな姿も魅力的だ。
「おや、お三方ともとてもお似合いですね」
「めちゃくちゃ綺麗です!頑張って下さいね」
ウィルさんとルイスさんの言葉に、私達も頬を緩める。
「本当に、綺麗だ」
「あ、ありがとう……」
レオンもそう言ってくれた。
み、みんなに言ってくれているのに、ドキドキしちゃうなんてダメだ私!
静まれ、心臓!!
心の中でひとりわたわたしていると、レオンがふっと笑ったのが分かった。
「私達は今夜警備を担当しているので、客としては参加出来ないが、三人の勇姿はちゃんと見せてもらうよ。陛下とのダンス、頑張れ」
優しい声が、じんわりと胸に染み込む。
そんな私達を生温かい目でみんなが見ているなんて、その時の私はちっとも気付かなかった。




