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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第一章

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第二騎士団団長の迷い

悪夢を見なくなってから、三日。


兄の前で倒れた後の記憶は、ほとんど無い。


覚えているのは、酷く魘され、叫び、もう駄目かもしれないと思ったこと。


そして、銀色の光と、優しい歌声。


死を覚悟した時、温もりが私の手を握った。


それは、銀色の髪に金色の瞳の女性の手だった。


その女性が何かを呟くと、キラキラとした光が左肩から体内に入り、温かさに包まれると、先程までの苦しさが嘘のように消えた。


優しい言葉は私を励まし、不思議な歌声は私を癒した。


ーーーそれだけ。


女性の顔も覚えていない。


それでも何故か、また会えると思った。






私を癒した魔術師は兄が連れてきたと聞き、何度も兄に詰めよった。


彼女は何者なのか。


何処にいるのか。


しかし、兄から聞かされるのは、「教えられない」との言葉だけ。


事情があるのだろうとは思ったが、どうしても会いたかった。


…会ったら?


ーーーー私は、どうしたいのだろう。


理由は自分でも分からなかったが、何度も兄のところを訪れた。






ある朝、久しぶりに実家へと出向いた。


なかなか口を割らない兄に会うために。


玄関を入って暫く歩いたら、見知らぬ女性を見かける。


私と同じ色合いの髪をきっちり纏め、凛とした佇まい。


国外出身だろう顔立ちはこの国の人間とは少し異なるが、美しい女性だった。


思わず誰だ、と声をかけてしまった。


彼女は私の顔を見るとポカンとし、慌てて自己紹介をした。


ーーーまたか、と思った。


あまり言いたくはないが、私はとても女性に好まれる容姿をしているそうだ。


そのせいで、色々と揉め事や面倒事が多かった。


結婚を迫る者。


既成事実を作ろうと薬を仕込む者。


運命の男に違いないと追いかけ回す者。


ーーー本当に、色々あった。


女性に対してあまり良い印象を持てないのも、仕方のない事だろう。


今回も面倒事が起こらないと良いなと思った。


それが、つい言葉と態度に出てしまった。


しまった、言いすぎたかと思った時にはもう遅い。


…しかし、予想に反して、女性は何故かうんうんと頷いていた。


思わぬ反応に、咄嗟にフォローの言葉を重ねた。


すると、気を悪くした様子もなく返事を返してきただけでなく、私の名前まで兄から聞いていたことに少し驚く。


さっと視線を逸らし短く返事をすると、少しだけ沈黙が流れた。


もう会話は続かないと判断したのだろう、女性はその場を辞そうとしたが、その声に聞き覚えがあって、思わずその腕をつかんでしまった。


「え?」


困惑した声。


じっとその瞳を見つめる。


その色は、金色ではなかった。


「…あの、離して下さいませんか?」


真っ赤になって視線を逸らす姿に、僅かに胸が音を立てる。


不躾だったとすぐにその腕を解放し、内心の動揺を隠して金色の瞳の女性を知らないか、と問うた。


知らない、と否定すると、今度こそ女性は去り、その後姿を目で追う。


「似ている、と思ったのだがな」


何故胸が鳴ったのかは、分からなかった。







それからも時間があれば朝や夜にラピスラズリ邸へと兄を訪ねた。


ルリ、と名乗ったあの女性には、会えることもあれば、会えないこともあった。


兄は私を救ってくれた魔術師の事を頑として話してくれないので、彼女の事を聞くことが増えた。


穏やかな人柄で、リリアナだけでなく、屋敷の皆に慕われていること。


料理や絵を描くことが上手いこと。


色々なアイディアでリリアナ達を楽しませていること。


…本人は気付いていないが、使用人の若い男達に、絶大な人気を誇ること。


最後の情報は何だと思いながら兄に顔を向けると、何故かニヤニヤとした笑いを浮かべていた。


「そんなにルリが気になるのか?」


「…不審な人物でないなら、良い。リリアナにとっても良い影響を与えているようだしな。ただ…上手く言えないが、ふとした時に感じる物がある、とでも言えば良いのか…とにかく気になると言えば気になっているのだろう」


「ならば、二人で話してみてはどうだ?」


「…は?」


何を言っているのか、この兄は。


私が女性を苦手としている事を知らない訳ではあるまい。


「ああ、お前には女性と二人きりのハードルが高い事は分かっている。そうだな、レイとリーナも一緒なら大丈夫ではないか?昼の茶の時間にでも来ると良い」


そう言って、数日後に日取りを決めてしまった。


まあ、甥や姪とゆっくりするのも久しぶりだから、少し休みを取って来るのも良いかもしれない。


彼女はついでだ。


そう言い訳のように自分に言い聞かせた。

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