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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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聖女会議9

「はぁ……今日も厳しかったわね」


「私もう足がガクガクです」


「ほんと……。ヒールで踊るのがこんなに大変だなんて、知らなかった……」


クレアさんのレッスンを受けるようになって数日。


どうやら私だけではなく、紅緒ちゃんと黄華さんも体が痛いらしい。


今日は午前中にダンスのレッスンを受け、午後からは騎士団との訓練と、丸一日王宮で三人一緒のお仕事コースだ。


そして現在、その合間のお昼休憩をこうして一緒に過ごしている。


最近忙しくてさすがに料理は作って持ってこれなかったから、目の前の軽食は王宮で用意してもらったものだ。


だけど、体力回復のためにアイスハーブティーだけは用意した。


そんなに手間もかからないし、アーサー君とヴァイオレットちゃんも快くハーブを提供してくれたので、先程給湯室をお借りして作ってみた。


「はあ、やっぱりスッキリして美味しいわね。これで回復もするんだから二重にお得だし」


紅緒ちゃんは一気に飲み干して、おかわりまでしていた。


夏真っ盛り、暑いし運動後だし、気持ちは分かる。


「でも紅緒ちゃん、ステップ覚えるの早いですよね。クレアさんにも褒められていましたし」


「ああ、音ゲーも時々やってたからね。足使うのは割と得意かも」


音ゲー?と黄華さんとふたり首を傾げれば、ゲームセンターなどでよく見る、音楽に合わせてステップを踏むゲームだと教えてくれた。


ああ、テレビとかで見たことあるわね。


上手な人だと、ものすごい速さでやっているのを特集していた。


それにしても、紅緒ちゃんて本当にゲームが好きだったんだなぁ。


「だから速い曲はそのノリで結構好きだけど、優雅にとかはやっぱり苦手。そっち方向はふたりの方が上手だと思うけど」


確かに黄華さんは元々茶道をやっていたからか、とても所作が綺麗だ。


姿勢も良いし、“魅せる”踊りをするなぁと私も思っていた。


「私は瑠璃さんの踊りも好きですよ。ピアノをやっていらしたからでしょうか、音楽に合わせるのがとても上手ですよね」


「え!?そ、そうですか?」


わーなんか褒め合いになってるけど、やっぱり褒めてもらえるのは嬉しい。


でも確かにレッスンを始めて数日なのに、三人共すごく上達している。


ものすごく厳しいけれど、さすがクレアさん、お願いして良かったなと思う。


このままちゃんとレッスンを受けていけば、少なくとも恥をかくことは無さそうだと、ちょっぴり安心する。


カランと氷の音を立ててアイスティーのグラスを傾けると、爽やかな香りが口の中に広がった。


そこで、そういえばと気になっていたことを口にする。


「ダンスを1、2曲と言っていましたが、誰と踊るんでしょうね?」


「そうですね、恐らく陛下とは踊ることになるのではないでしょうか」


黄華さん曰く、やはり聖女と良い関係を築いているとアピールしたいので、三人共が踊るのではないかということだ。


まあ確かに関係はそれなりに良いし、お世話にもなっていると思っているので、それを拒否するつもりはない。


「あとはちょっと分からないですね。仮にも聖女の私達が、誰とでも好き勝手に踊るのは難しいでしょうし」


貴族のパワーバランスってやつね。


うーん、めんどくさい。


でもそれならきっとレオンと踊るってこともないのかな。


まあ、彼とはもっと上手になってからのお楽しみとしよう。


……次があればの話だけど。


ならば今回、私は陛下との一曲だけで良いかな。


紅緒ちゃんは良いよね、認めてはくれないけど、好きな人と踊れるんだし。


そう思ってちらりと紅緒ちゃんを見たが、予想とは違った表情をしていて驚く。


てっきり恥ずかしがりながらも、嬉しそうにしているのではと思っていたのだが、その顔はちょっぴり暗く、俯いている。


そういえば最近ため息も多い気がする。


「ね、紅緒ちゃん。陛下と何かあった?」


思わずそう聞けば、紅緒ちゃんはびくりと肩を揺らし、おずおずと目を上げた。


「別に……何もないわよ」


「私も気になっていたのですが、最近おふたりともよそよそしくないですか?少し前はあんなにじゃれ合ってましたのに」


「じゃれてない!それに、本当に何もないのよ……」


そう言って紅緒ちゃんはまた俯いてしまった。


“何でもない”じゃなくて、“何もない”


それって……。


「えっと、何かあった訳じゃないのに、急にそんな風になったってこと?」


「ん……そう」


私の言葉に、紅緒ちゃんはついにおでこを机にあてて蹲ってしまった。


微かに震えているところを見ると、泣いているのかもしれない。


黄華さんとふたり、顔を見合わせて何と声をかけようかと戸惑っていると、くぐもった声が聞こえた。


「……のよ」


「え?何か言った?」


励まそうとしてそっと近付き聞き返すと、がばりと紅緒ちゃんはいきなり立ち上がった。


「もう!何だっていうのよ!!言いたいことがあるならはっきり言いなさいってのよ!あのくそ腹黒魔王ー!!」


「べ、紅緒ちゃん?」


「だいたいあれだけ毎回毎回ネチネチ言ってた奴がよ!?急によそよそしくなっちゃって!声をかけても素っ気ないし、理由を聞いても教えてくれないし、一体何だってのよ!言いたいことがあるなら、ちゃんと顔見て言えってのよあの悪役顔!!」


あれ、何だろうこの既視感。


前にもこんなことがあったような……。


「私の過去の話をした時もこんな感じでしたわねぇ」


そういえばそうだ。


黄華さんの話を聞いて怒った時も、こんな風だった。


泣いているのかと思いきや、どうやら怒りで震えていたらしい。


「まあでも、怒る気力があればまだ大丈夫ですよ。今は話を聞いてあげましょう」


「……そうですね」


そうして黄華さんと私は、紅緒ちゃんの陛下への不満や悪口にうんうんと頷きながら、たっぷり小一時間聞くことになったのだった。

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