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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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要望

自分の分を片付けると、ふたりはゆっくり食べてねと伝えて、アルとふたり、文官さんについて行く。


方角からして、恐らく陛下の執務室に向かっているのだろう。


なかなかの距離を歩いているのだが、この人、全っ然しゃべらない……!


沈黙が気まずいと思っているのは私だけなのだろうか。


いや、恐らくそうなのだろう、角を曲がる時に見えた横顔は、全く表情が動いていない。


同じ寡黙でも、ある程度の反応を見せてくれるアルバートさんとは全然違う。


「ねえ、アル。沈黙が苦しいのは私だけ?」


思わずこっそりとアルに話しかけてしまった。


「ああ、彼は元々表情も口数も少ない方なのでお気になさらず。エメラルド宰相の側近なのですよ」


そうか、元々こういう方ならば気にしないでおこう。


いくら召喚された身とは言え、向けられるものが全部好意だけではないって分かっているからね。


これでも一応気をつけることにしているのだ。


そうこうしているうちに目的地へとたどり着き、文官さんの足が止まる。


やはり陛下の執務室だ。


「失礼致します。青の聖女様をお連れしました」


文官さんがノックをして入室の伺いを立てると、中から入れと声がした。


静かに扉が開かれると、そこには執務机に座る陛下とその脇に立つエメラルド宰相様、応接用のソファに紅緒ちゃんと黄華さんが座っていた。


アルバートさんとリオ君もその近くに控えている。


勧められるがままに紅緒ちゃんの隣に腰掛けると、アルもアルバートさんの隣に並んだ。


「予定があったのに急に呼んですまなかった。これで揃ったな」


「ええ。聖女のお三方、本日は突然お呼び立て致しまして、申し訳ありません。実は皆様にお願いしたい事柄がありまして」


あまり気が進まないのか仏頂面の陛下と、にこやかな宰相様、正反対の表情をしている。


お願いとは何だろうと紅緒ちゃんと黄華さんをちらりと見たが、ふたりも心当たりがないようで首を傾げた。


今まで基本的に私達のやりたいようにさせてくれていたので、あちらからお願いと言われると身構えてしまう。


表情を引き締めると、ごくりと息を飲んで続く言葉を待った。


「そろそろ聖女様のお披露目をいたしませんか?」


「は?」


「へ?」


「まあ」


にこやかな宰相様の口から出た意外すぎる内容に、私達三人は呆気にとられるのだった。






「はい、大変よろしいですよ。両手で弾くのにも慣れて、指の使い方が随分お上手になりましたね」


「えへへ。ありがとうございます、くれあせんせい!」


クレアさんからのお褒めの言葉に、リーナちゃんがぱっと破顔する。


ミスなく弾き終えたリーナちゃんに、私もぱちぱちと拍手を贈る。


両手で違うリズムを弾くのはなかなか難しいのだが、とても上手にこなしていた。


「るりせんせい、わたしのふぉるて、じょうずになったでしょ?」


「うん!しばらく聞かないうちにすっごく上手になってて、びっくりしちゃった!」


やったあ!と嬉しそうに跳び上がるリーナちゃんを見ると、時間までに戻って来れて本当に良かったと思う。


そうしてリーナちゃんが何曲か課題に出されていた曲を弾き終えると、私も挨拶をし、クレアさんをお茶に誘った。


何を隠そう、クレアさんに相談があるからだ。


以前のことを思い出すとちょっぴり怖くもあるけれど、ここはやはりクレアさんにお願いしたいと思う。


応接室でマーサさんにお茶を出してもらい、リーナちゃんと三人で他愛のない話をすると、会話の途切れたところで本題を切り出す。


「まあ、マナーレッスンを?そして今回はダンスもですか?」


「はい、できたら三人まとめてクレアさんに教えて頂けないかと……」


そう、宰相様が言っていた“お披露目”。


つまりは王宮主催のパーティーで、貴族の方々に挨拶をするということだった。


『俺は必要ないと思っていたのだが、以前から貴族達からの要望が多くてな……』


『貴女方は騎士団や魔術師団とは交流がありますが、文官などの貴族達とはほとんど関わりがありませんからね。まあ、つまりは騎士や魔術師だけずるいと声が上がっているのですよ』


はあと深いため息をつく陛下は、恐らく今までそういうことに興味のない私達のために、断ってくれていたのだろう。


宰相様は眉を下げ、苦笑いをしてお願いできませんかと再度言ってきた。


以前、いつかそうした場に出なくてはいけない時が来るだろうと三人でも話していたし、私達は仕方ないよねと了承した。


が、問題はパーティーに参加するということだ。


『まあ紹介はこちらでするから、お前達は無理にしゃべらなくても良い。あとはそうだな……出来れば一、ニ曲踊れると良いのだが』


“踊る”の言葉に反応したのは、私だけではなかった。


『ちょっと待って、この世界のダンスって社交ダンスのことよね!?』


『そういうことですわよねぇ。私、やったことありませんけど』


『良かった、ふたりも?私だって……』


三人共が大慌て。


何なら王宮で臨時の講師を用意しましょうかと宰相様に言われた時に、思い出したのがクレアさんのことだ。


以前短期でマナーを教えてもらったことを話すと、陛下まで目を見開いて驚いていた。


どうやらクレアさん、音楽家としても名を馳せているが、そちらの方向でもがかなり有名人らしい。


マナーにダンス、どちらもとても丁寧に指導してくれて、しかもかなりの問題児が短期間で目に見えて成果を上げる。


ただ、誰にでも教えてくれる訳ではなく、本人に気に入ってもらえないといけないのだが、これがなかなかに審査が厳しいのだとか。


『彼女に頼めるのであれば、その方が良いだろう。ああ、場所ならいくらでも貸すぞ』


『ええ、我々も異論はありません』


陛下と宰相様からもお墨付きのクレアさんのレッスン。


『私達も一緒に習いたいわ!』


『そうですわね、お願いして頂いても良いですか?』


丁度この後リーナちゃんのフォルテのレッスンで会えるはずなので、聞いておきますとみんなに伝えて帰ってきたという訳だ。


でもクレアさん忙しいし大丈夫かな?


そう思いながらちらりと反応を伺う。


するとにっこりと微笑むクレアさんと目が合った。


「勿論、よろしいですわよ」

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