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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第五章

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選択肢

これからのことを打ち合わせた後、アーサー君とヴァイオレットちゃんとは別れた。


応接室でふたりを見送った後、私はアルをじっと見上げた。


先程の言葉。


『彼女もまた、異世界から喚び出された境遇の中で、傷付き、苦しみ、それでも自分に出来ることは何かと考えて、努力して、ここにいるのです』


そんな風に思ってくれていたなんて、知らなかった。


アルにはいつも迷惑かけているから、世話のかかる妹みたいに思われていても不思議じゃない。


「どうしました?」


「――――ううん、何でもない」


“誰かに認めてもらえるということは、自信に繋がる”なんて、これじゃ私もそうだな。


じんわりと温かいものが広がって、私の胸をくすぐる。


そんな嬉しさを隠しきれずに顔に出ていたのだろう、アルが気まずげに顔を逸らした。


そして咳払いをして、話題を変えるように私の手元を指差す。


「そういえば、そのお土産は渡しに行かないのですか?」


あ、そうだった。


そこで侍女さんに声をかけたのだけれど、色よい返事はもらえなかった。


ドーナツ、折角だから紅緒ちゃんと黄華さんにもと思ったのだけれど、今日は第二騎士団と近くの森で訓練中らしい。


ということは、レオンもいない。


うーん残念だけど、アポなしだったのだから仕方ない。


侍女さんに、ふたりに渡してもらえますかと言付ければ、快く了承してくれた。


だけどちょっと余っちゃったのよねぇ……。


さすがにレオンの分までお願いするのは気が引けるし。


アルにはもう十分な量をあげちゃってるしなぁ。


誰かにお裾分けに行こうかなと考えていると、バッタリ廊下で意外な人物に出会ってしまった。


「なんだ、アーサーとヴィオラとの面会は終わったのか?」


陛下だ。


護衛さんや書記官さんをぞろぞろと引き連れている姿は圧巻である。


和やかに話し合いが終わったことを告げると、そうかと小さく笑ってくれた。


あ、お兄ちゃんの顔してる。


普段威圧……いや威厳たっぷりだから忘れがちだけど、陛下って結構年下なのよね。


そんな顔をしているとちょっとかわいいかも、なんて思ってしまった。


「……何だ、にやにやして」


どうやら顔に出ていたらしい、眉間に皺を寄せて陛下が嫌そうな顔をした。


「あ、いえすみません。何だかお兄ちゃんらしい表情をされるので、かわいらしいなぁと思って」


思わず素直に答えてしまうと、さらに皺が深くなった。


さっきまでは年相応な感じだったのに。


すると、うしろにいた護衛さんたちから戸惑いの声が聞えた。


「お兄ちゃん呼ばわり……!?」


「陛下をかわいいって言う人、初めて見た……」


ありゃ、ちょっと馴れ馴れしすぎたかな。


でも陛下って、意外と話しやすいんだよね。


多少の無礼は気にしないでいてくれるし、話も聞いてくれるし、優しいところもある。


……時々ぐさぐさと突っ込んでくれるしね?


しっかりものの弟みたいと言うか、とにかく最初の印象から随分変わった。


それにしても相変わらず忙しいらしく、目元に疲労の色が見える。


あ、そうだ。


「陛下、良かったらこれ、お召し上がりになりませんか?甘いお菓子ですが、嫌いじゃなければ。一応私が作ったので、回復効果がありますし」


ダメ元でドーナツの入った包みを差し出してみれば、驚いて目を見開いたものの、手を伸ばして受け取ってくれた。


「……甘いのは、嫌いじゃない。それに、お前の作るものも」


おお、そんなことを言ってくれるなんて予想外だったから、ちょっと嬉しいぞ。


失礼だけど、気位の高い大型犬を手懐けたみたいな感じ。


いやあ、今日は三兄弟それぞれと仲良くなれたみたい。


じゃあなと去っていく陛下をへらりと笑って見送る。


すれ違う時に、書記官さん達に信じられないものを見たような顔をされた。


あ、またやってしまった。


まあでも公式の場ではないし、陛下本人が気にしていないのだから良いだろう。


そんな安易なことを考えて、私は帰路についたのだった。


「結局、最後も餌付けでしたね」


アルのぼそりとした呟きには、聞かなかったふりをした。







その日の夕食の席で、私は今日のことをラピスラズリ家のみんなに話していた。


「ほほぉ。あの両殿下まで落とすとは、さすがルリだな」


「本当ね。まあやるだろうとは思っていたけれど」


エドワードさんとエレオノーラさんがあははと笑い合う。


うーん、褒められているようなそうじゃないような。


「るりせんせいのどーなつ、おいしかったもん!おいしいものをたべると、なかよしになれるんだもんね?」


「そうですね、色々な味があってとても美味しかったです」


「そう?気に入ってくれて良かったわ」


リーナちゃんとレイ君の褒め言葉は素直に受け取れるんだけどね。


「ちょっと待て。どーなつ?私は食べていないぞ!」


ガタンとエドワードさんがテーブルに手をついて立ち上がる。


相変わらずの甘党のエドワードさんのために、ちゃんと食後のデザートに取っておいてありますよと伝えると、安心した様子で夕食に戻っていた。


……ひょっとしてこれも餌付けかしら?


ほくほく顔のエドワードさんを見ると、否定できない気がしてきた。


「それにしても、両殿下もポーション作りに関わるなんて。これからの活躍が楽しみね。レイも負けていられないわよ」


エレオノーラさんが母親の顔をしてレイ君に微笑む。


そうだ、アーサー君と同い年なんだもんね。


ふたりとも賢いし、良いライバルとか主従関係になるかもしれないね。


レイは何を選ぶのかしらねと言うエレオノーラさんの表情からは、レイ君の未来を楽しみにしている様子が窺える。


何でも……いや、絵以外はそつなくこなす印象のレイ君だけど、まだこれというものは決めていないもんね。


「僕もだいたい目星はついているんですけどね。まあ、もうしばらく考えます」


そうだよね、ゆっくり考えて決めれば良い。


「わたしはるりせんせいのおてつだいするってきめてるもん!ね、るりせんせい?」


「そうね、ありがとう。でも、他にもやりたいことが見つかったら、それもやれば良いのよ。ひとつに決めなくたって良いんだから」


選択肢は無数にあるのだから。


子どもの成長って早いわねぇと呟くエレオノーラさんに、エドワードさんも微笑む。


そうしてその日のラピスラズリ邸での夕食は、和やかに行われたのだった。

いつも感想やブクマ、評価に誤字報告等ありがとうございます。

気付けば200話を越えていました。

飽き性の私がここまで続けられたのは、皆様のおかげです!!

本当に感謝の一言です(*^^*)

そして願わくば、これからもどうぞよろしくお願い致します♡

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