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【書籍化&コミカライズ】規格外スキルの持ち主ですが、聖女になんてなりませんっ!~チート聖女はちびっこと平穏に暮らしたいので実力をひた隠す~  作者: 沙夜
第一章

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遭遇

「…貴女は、誰だ」


それは、突然だった。


「あ、ええと…リーナちゃんの家庭教師をさせて頂いています、和泉 瑠璃と申します」


目の前の冷たい美貌の青年は、眉間に皺を寄せて私を見つめた。


正に蛇に睨まれた蛙状態の私。


一方、美青年は目を伏せてはあ、と溜め息をついたが、そんな姿も絵になる。


「得体の知れない者を雇うなど…兄夫婦もどうかしている」


あ、それについては同意します。


寧ろ私も理由を聞きたい。





あれから一週間。


そろそろ探すのも諦めたはず、と暢気に考えていた私は、何時ものように朝の支度を終え、朝食のため廊下を歩いていた。


玄関の近くを通っていると、その人はいた。


朝早くだというのに整えられた髪や服。


一目で貴族だと分かる、端正な顔。


あれ、どこかで…と思った時にかけられた言葉が、冒頭だ。






「しかし、珍しくリリアナが懐き日々楽しく暮らしていると聞くから、悪い人間では無いのだろう。…叔父としては、心配だったからな」


あ、この人、口は悪いけど嫌な人じゃなさそう。


「えーと、はい、それだけは誓って。それに、私もとても良くして頂いて感謝しています。あの、もしかしてレオンハルトさんですか?エドワードさんの弟さんの」


そう尋ねると、どの言葉に反応したのか、軽く目を見張る。


ああ、と短く答えを受け、私はまじまじと見つめる。


ああ、もう全快したのだなと分かる、疲労感の見えない目元と、理性的なアイスブルーの瞳。


ぴっちりと一番上までボタンを止めた、多分騎士服。


襟足だけ少し長めの髪は成る程、私と同じ色合いだ。


背も高いので自然と見下ろされる形になり、その隙のない雰囲気からも威圧感を感じる人は多いだろう。


まあ女の園での化かし合いの方が怖いけど。


とりあえずこの人とは適度な距離を保つと決めている。


「これからも皆様から信頼して頂けるよう、精一杯努めてまいります。それではこれで…」


軽く頭を下げて退散しようとすると、さっと腕を取られた。


「え?」


「ーー君の瞳は、紺瑠璃か」


胸が、跳ねた。


そりゃそうだ、こんな美形に顔を覗き込まれている。


でも、それ以上に、名前を呼ばれたのかと思ってドキドキしてしまった。


びっくりする程の美声で、少し低めの声がセクシー…ってあああ!私なに考えてるんだ!!


「…あの、離して下さいませんか?」


努めて冷静に言ったが、きっと顔は赤い。


目だって合わせられないから、早く、離してー!!


「…すまない」


すぐにそっと離してくれたが、何だろうこの空気。


居たたまれない。


「そ、それでは失礼します!」


逃げるが勝ち!とばかりに去ろうとすると、待ってくれ、ともう一度声をかけられた。


「貴女のような髪色で、金色の瞳の女性を知らないか?」


「金色…?いえ…」


「そうか…。呼び止めてすまなかった。どうぞ、行ってくれ」


何なんだろうと思ったが、とりあえずお言葉に甘えて失礼しますー!





瑠璃が足早に去っていく姿を見つめながら、レオンハルトはぽつりと呟いた。


「似ている、と思ったのだがな」


気のせいか、との声は、誰の耳にも届かなかった。






あれから、レオンハルトさんは時々ラピスラズリ邸を訪れるようになった。


「騎士団に入ってからは、なかなか帰って来なかったのに。どういう風の吹き回しだろうな」


夕食の席。


早く帰って来たエドワードさんが、何故か私を見てニヤニヤしている。


随分砕けた姿を見せてくれるようになったものだと溜め息をつく。


少し前は、紳士的で落ち着いた大人の男性、という印象だったのに。


知らんぷりをして「このお魚、美味しいねー」とリーナちゃんに話しかける。


そんな私の無礼な態度にも、くっと笑い声を零し、さらにレオンハルトさんの話題を吹っ掛ける。


「そのレオンだが、明日も来るそうだ。悪いがルリ、相手をしてやってくれないか?エレオノーラは茶会でね。何、レイとリーナと一緒に昼の茶の時間を過ごしてもらうだけで良い。あいつも暇ではないからな。すぐに職務に戻るだろう」


しょっちゅう抜け出して来る人は暇ではないんですか!?と言いたかったが、ぐっと我慢する。


「…分かりました」


雇われはツラいよ。


「レオン叔父上は、最近何をされに来ているのですか?僕たちも会えるのは嬉しいですが」


「れおんおじさま、やさしいからすき」


リーナちゃん、可愛がってもらってるのね。


そしてレイ君、深く突っ込まなくていいから。






夕食を終え、何時ものようにリーナちゃんを寝かしつける。


因みに、最近は簡易版の絵本も作っている。


絵本だとリーナちゃんと横に並んで読めるしね。


お話は私作の物もあれば、なんとセバスさんが考えてくれた物もある。


これがとても良く出来た話で、私もびっくり。


凄いですね!!と半ば興奮気味に言うと、実は小説を見るのも書くのも好きなのだとか。


みんな色んな趣味や特技があるものね。


今日はレイ君もいるので、(恥ずかしがったけど)無理矢理隣に座ってもらって、天使二人に挟まれながら読み聞かせをする。


「ーーさて、彼らはどうなってしまうのか!…続く」


「えー!?」


「何て良いところで終わるんですか…!?」


「るりせんせー!つづきー!!」


いつの間にかレイ君も話にのめり込んでいたようだ。


さすがセバスさんが作ったお話、ガッチリ子どもの心を掴んでいる。


あ、因みにアリスちゃんが私を先生と呼び始めたので、リーナちゃんもそう呼ぶようになった。


「気になるねー!でも続きはまた明日。今日はここまで、ね?」


「…仕方ありませんね、もうリーナは寝なくては。じゃあリーナ、お休み」


時計を見て諦めたレイ君は、僕の居ない時に読まないで下さいよ!としっかり釘を刺して自室へと戻って行った。


「あしたは、れおんおじさまもいっしょね」


そうだった。


何故か私がおもてなし役に指名されたが、本当に何をされに来るのだろう。


まさか気付かれてはないよね、と思いたい。


「るりせんせい、せっかくだから、またくっきーつくりたい。おじさまにも、たべてもらいたいの」


そっか。


この前、エレオノーラさんやレイ君に食べてもらえて嬉しかったのよね。


「うん、じゃあ午前中は、叔父様の為にお料理しましょうか」


「うん!」


「じゃあ早く寝ないと。明日、頑張ろうね」


柔らかく微笑んだリーナちゃんは、歌声にとろりと目を伏せ、静かに寝息をたて始めた。


「…と言うか、お父様にはあげなくて良いのかしら?」


エドワードさんが聞いたら涙目だろうなぁと苦笑する。


まあ、難しく考えず、私は精一杯おもてなししよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「軽く頭を下げて退散しようとすると、さっと腕を取られた。 「え?」 貴族だからかな、簡単に初めて出会った女性の腕を捕まえるなんて、とても失礼ですね。先々仲良くなるにしても失礼だなと思いまし…
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